居住区(哲也の場合)
管制士たちの話が済んで解放されたのは、深夜に近い時刻だった。三郷が、陸たちを送るついでだと、香芝たちも連れて帰ることになった。
管制士たちは、この後も会議室で残業だと言っていた。プロジェクト統括者ともなると、任される仕事量は並じゃない。いくら時間があっても足りないのだろう。3人揃ってぼやいていた。
陸も、先ほどからずっとぼやいている。班長を任されたのが不服なのだろうが、それより、経験の無さによる不安の方が大きいようだ。
「…俺、絶対無理だって。こんな大きなプロジェクトで、いきなり班長なんて、自信ないよ。てっさんみたいに経験無いもん…」
若干、落ち込み気味の陸に、哲也はおっとり笑いかける。
「大丈夫、陸ならできますよ。皆も協力してくれます」
宥めるように言うと、陸は哲也の顔を覗き込んだ。
「…本当?」
「はい」
「てっさんも助けてくれる?」
「もちろんです」
二つ返事で答えると、陸は安心したのか、じゃあがんばる、と機嫌を直した。そのままじゃれついてきたので、一緒になって遊ぶ。
ふざけあって遊びながら歩いていると、前を歩いていた平群が、
「…おーおー、仔犬どもがじゃれとる」
ぼそっと呟いた。その呟きに、先頭を歩いていた三郷が反応する。
「何か言ったか、このタコ」
「誰がタコだ、このヤロー」
売り言葉に買い言葉で、三郷と平群が、並んで口ゲンカを始めた。
「だいたい、ステーション来んのに、何で連絡寄越さねぇ?」
イライラしながらの三郷言葉には、たくさんの棘が付いている。どうやらそれが、三郷の怒りの原因らしい。平群は嫌そうに顔を顰め、同じようにイライラと言い返す。
「何でテメーに連絡寄越さなきゃなんねぇ?」
「俺が久度さんに睨まれずに済んだろうが」
「知るか、ふざけんな。俺だって、ステーション勤務の事知ったの、1週間前だっつーの」
ギャーギャー騒ぎながら口ゲンカをする2人の後ろを、京終がおろおろとついて行く。ケンカを止めようか迷っているようだ。
「…あの2人、仲良いなぁ」
同じように2人を見ていた陸が、哲也の隣でぼそっと言った。
「…えっ、何で?」
振り返った京終が、不思議そうに陸を見る。哲也も小首をかしげると、陸は喋り始めた。
「んー、だって、言葉遣いは荒い…っていうか貶しあってるけど、言葉ほど雰囲気は険悪じゃないから。本当は仲が良いんだな、って思って」
「確か、従兄弟同士でしたっけ?」
哲也は、三郷が会議室で、久度に言った事を思い出す。
「あ、それでか」
ぽん、と陸が手を打った。
「さっき顔合わせでさ、平群さんが自己紹介した時、何か三郷さんと似てるなぁ、って思ったんだ」
やっと謎が解けた、と喜ぶ陸の声を聞きつけて、三郷と平群が同時に振り返り。
「似てねぇ!」
同じ言葉を叫んだのも同時だった。




