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閉じた未来の、その先へ  作者: はなび
プロジェクト開始1ヶ月前
16/32

ターミナル控え室(哲也の場合・2)



顔合わせの人員がほぼ揃って、それぞれ談笑していると、見慣れない管制士が1人、見たことのない男女4人を連れて、控室に入ってきた。途端に、室内が静まり返る。

管制士は一同を見回すと、一つ頷いた。


「大体、揃ったようだな。では始めよう。堅苦しい挨拶は抜きだ」


彼はそう言うと、自己紹介を始めた。


「俺は、管制士の久度(くど)奏志郎(そうしろう)だ。このプロジェクトの発案者で、チームリーダーになる。よろしく」


久度は簡単に紹介を終えると、管制士2人に目配せをする。それを受けて、葛城が手を上げた。


「管制士の葛城(かつらぎ)彼方(かなた)だ。実験データと日程管理を担当する。よろしく」


「同じく、管制士の磯城(しき)衡平(こうへい)。資材とシフト管理を担当する。よろしく」


葛城に続いて磯城が挨拶を終えると、久度が言葉を続ける。


「今後、何かあれば俺たちに相談してほしい。失敗や問題は、隠さずすぐに報告する事。俺たち3人の内の誰かが、必ず対処に当たる。今回のプロジェクトは、皆も知っての通り、非常に繊細で難しい実験を行う。皆の協力が必要だ。よろしく頼む」


そう言って、久度が頭を下げた。個々に返事を返すと、久度は、


「では、各班の班長に挨拶をしてもらおう。調理班は実験場に先行しているので、割愛させてもらう」


そう続けて、近場に居た壮年の紳士に目線を向けた。彼は、軽くお辞儀をする。


「機器操作とデータ登録担当の、エンジニア班長の高田(たかだ)です。よろしくお願いします」


温和な笑顔で挨拶した彼の隣で手を上げたのは、白衣を(まと)った医師だ。


「医療班長の吉野(よしの)だ。専門は内科。病人は誰であろうと有無を言わせずしょっぴくから、覚悟しとけ」


彼は、管制士を見ながらにやりと笑う。途端に、室内に笑いが起こった。

哲也(てつや)もおっとり笑いながら見ていると、葛城に耳打ちされた。


「…次、おまえだよ」


哲也は、きょとんとして瞬きを繰り返す。


「…あ、はい、整備班長の三輪(みわ)です。よろしくお願いします」


小首を傾げるように挨拶すると、久度と共にやって来た4人が、驚いて目を(みは)っていた。吉野がそっと彼らに近付くと、耳元でぼそっと呟く。


「うちの整備班長は、小っせえが怖ぇぞー。絶対怒らすなよ」


「…聞こえてますって、吉野さん…」


ほんのり頬を赤らめて哲也が呟くと、しまった、と吉野が口を塞ぐ。それを見て、また室内に笑いが起こった。

そんな中、声を立てて楽し気に笑う(りく)の背中を、いきなり磯城が押し出した。


「…はいっ!!?」


驚いて振り向く陸に、磯城は、早くしろ、と手を振る。陸は、目を白黒させて動揺していた。


「…えっ、ちょっと待ってっ、俺、何も聞いてないっ!」


「そうだろう。まだ何も言っていないからな。オペレーター班長」


狼狽(うろた)える陸に、磯城はあっさり答える。早くと促され、陸は、恨めしそうに磯城を見ながら挨拶した。


「…知らない間に、オペレーター班長にされてた生駒(いこま)です。よろしくお願いします」


挨拶を済ませた後で、ぷう、と頬を膨らませて磯城に文句を言い始める陸に、また笑いが起こる。

哲也は、隣に立つ葛城を、そっと見上げた。


「…黙ってたんですか?」


「パートナーが決まれば、話を通す予定だったんだ。なかなか決まらなかったので遅くなった」


「パートナー、決まったんですか? 結果が出るの、ずいぶん遅かったですね」


静かに尋ねる声が、冷たさを帯びる。葛城は苦笑すると、簡単に事情を説明した。


「ちょっと問題があったんだ。その事に関しては、生駒君の班長就任の件も含めて、後で理由を話すよ」


そんな言い訳で、哲也が納得するとは思ってないだろうが、しばらく大人しくさせるには十分だと判断したのだろう。

確かに、哲也がここで詰め寄っても、意味が無い。


「…まぁ、陸が納得できれば、それでいいです」


哲也は葛城から視線を外すと、磯城に文句を言い続ける陸を見つめた。




メンバーが、和気あいあいと一頻(ひとしき)り騒いだあと、久度が再度、周りを見渡して声を出す。


「すでに伝達は行ってると思うが、今回のプロジェクトに見合うガーゴイルのオペレーターが、定員数、ステーションで見つからなかったため、外部より協力者を招聘する事になった。あくまで出向だが、臨時研究員としてステーションに籍を置いているので、余計な気遣いは無用だ」


久度の言葉に、管制士以外の人員の気配が、張り詰めたものに変わった。どうしてか分からずに陸を見ると、彼も不思議そうに首を傾げている。


自分たちの、知らない事情があるのかな?


哲也も小首を傾げた。

周りの喧騒などお構いなしに、


「では、外部協力者を紹介しよう。彼らが、新規のガーゴイルオペレーターだ」


久度は、彼らをざっくり紹介する。

彼らは、困惑気味にお互いの顔を見合わせ、久度を見やる。久度は彼らに、無言で自己紹介を促した。

しばらく、奇妙な沈黙が流れたあと。

すらりとした短髪の女性が、意を決したように口を開いた。


「カブテックより来ました、香芝(かしば)です。開発研究部門に在籍している航法士です。よろしくお願いします」


見た目通り、はっきりした口調で喋る、険のある美人だ。

彼女は、隣に立つ背の高い男性に目配せをした。


「初めまして、香芝のパートナーの宇陀(うだ)です。同じ開発研究部門に籍を置く操縦士です」


人好きする笑顔が、彼の印象を柔らかくしている。彼は、どことなく鷹揚にお辞儀をして辺りを見回した。

後を引き継ぐように、もう1人の男性が挨拶をする。


篠亜(しのあ)重工(じゅうこう)平群(へぐり)です。開発室で航法士やってます。よろしく」


動作も口調もはきはきしていて、さっぱりした人柄が滲み出ている。なぜか、纏う雰囲気が三郷(さんごう)と重なった。

間髪入れずに、最後の1人がお辞儀する。


「パートナーの京終(きょうばて)です。よろしくお願いします」


仕草も見た目も、完璧にお嬢様だ。笑顔が華やかで愛らしい。

上機嫌で挨拶を済ませる彼女に、残りの3人が溜め息を吐いている。


一通り彼らに挨拶させてから、久度は後を引き取った。


「彼らは、顔馴染みで仲も良いらしい。ライバル企業同士の(いさか)いで、実験が停滞する事はないから、安心してもらっていい」


久度が、プロジェクト参加メンバーに一言添えると、途端に周りの空気が和んだ。どうやら皆、それが心配でぴりぴりしてたらしい。

また室内が騒がしくなり、吉野が4人に絡んで笑いを取っている。

ふと陸をみると、彼と目が合った。ちょこちょこと、こちらに寄って来る。


「…てっさん、てっさん。えらい事になっちゃった…」


「ああ、その事で、後で葛城さんから話があるそうです。心配しないで、大丈夫です」


哲也がおっとり笑って宥めると、陸は不安そうだが、一応、落ち着いた。ほっと息を漏らした時。

突然、控え室の扉が開く。


「…遅くなってすみませんでしたっ!!」


大声と共に、三郷が駆け込んで来た。

次の瞬間。


「……あーーーーっっっ!!!」


平群と三郷が、お互いを指差して絶叫した。



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