ターミナル
衛星軌道ステーションのターミナルは、思った以上に広い。地球と、火星や月面の基地局の、中継点として利用されているからだが、このステーション自体も、大型の実験施設らしい。実は、今いる研究員用ターミナルの他に、観光用と資材運搬用のターミナルがあるという。
麻有は、もう一度、ターミナルの中を見渡した。
自分たちが乗ってきたのと同型の星間飛行船が、着艦作業をしている。
麻有の後ろでは、自分のパートナーが、物珍しげにきょろきょろしていた。目の前には、ステーションの管制士が、書類片手に立っている。
久度と名乗った彼は、麻有が参加するプロジェクトの発案者で、責任者でもあるらしい。一通りの予定を説明されて、なぜかここで待機している。
「…それで、この後、プロジェクトメンバーの顔合わせがあると、伺いましたが…」
麻有が、先ほど聞いた予定を口にすると、久度は、軽く頷いた。
「多分、控室に集まっているだろう。香芝君たちには申し訳ないが、あと一組、ガーゴイルのオペレーターが到着するので、それまで待っていて貰えるか?」
「それは構いませんが…。確か、篠亜重工のオペレーターでしたね?」
「そうだ。概要は、カブテック本社から聞いていると思うが」
事も無さ気に久度は言う。
一応、ライバル企業の社員同士だ。顔を合わせて諍いになる可能性も高い。普通なら、別々に案内するだろうに。
鈍いのか、肝が据わっているのか。
いや、どちらでもないな。
麻有は、久度を用心深く見据えた。
どうやら彼は、我々を試す気でいるらしい。ここで諍いを起こせば、それを理由に、プロジェクトから外す気でいるのだ。
厄介だ。非常にやり辛い。
後ろを見ると、パートナーが、相変わらず呑気に辺りを見回している。
急に疲れが出てきて、麻有は溜め息を吐いた。
しばらく待っていると、着艦作業を終えた飛行船の搭乗口が開いて、中からぞろぞろと人が出てくる。その最後に出てきた人物たちを目にした途端、後ろのパートナーが、あっ、と声を上げた。向こうもこちらに気付いたらしい。同じように、指を差して声を上げている。
…諍いにはならないが、これは、非常に気不味い…。
麻有が顔を顰めた時。
「香芝大佐」
小柄な女性が、嬉しそうに手を振って近付いて来た。後を追う男性が、大慌てで窘めていたが、聞く耳を持っていない。
「どうしたんですか? こんなところで」
抱きつく一歩手前で辛うじて立ち止まり、彼女は聞いてきた。
「多分、君と同じ目的だよ、京終中佐」
苦笑を浮かべて麻有が答えると、京終は、本当に嬉しそうに顔を綻ばせる。
「えっ、じゃあ、大佐もプロジェクトに参加を?」
「そう。最も、退役したので大佐ではなくなったが、ね」
「あ、それも同じ。お父様が、軍を辞めていいって、やっと。代わりに、このプロジェクトの参加を言い渡されました」
妙に清々しく笑う彼女に、後ろの男性が、このバカ、と小声で窘めていたが、やはりそれも聞いていない。
麻有は、ちらりと久度を見やる。
彼は、こちらの反応を無言で観察している。下手な隠し立てはしない方がいい。
「私は結婚が決まってね。それで、退役して天下りしたんだが、最初の仕事がこれだった」
麻有の説明に、今まで黙っていた久度が、初めて口を挟んだ。
「それは申し訳ない事をしたな。フィアンセにも」
久度の口調は申し訳なさそうに聞こえるが、表情からは感情が伺えない。
同情されても嬉しくないし、同情される必要もない。
麻有は、苦々しく眉根を寄せると、お気遣いなく、と言った。
「後ろについて来てますので」
投げやりにパートナーを指差すと、久度は目を瞠った。これは、流石に予想外だったのだろう。
「わぁ、やっぱり。おめでとうございます」
ぱっと顔を輝かせてお祝いを述べる京終に、麻有は力なく、ありがとう、と返した。
ステーションは観光用に、一部の実験施設の開放と、大型の商業施設が併設されてます。
職員の数も膨大なため、家族で生活する職員のために、生活施設や教育施設も充実してたりします。
ちなみに格納庫は、半公開施設です。奥の整備場が非公開。




