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閉じた未来の、その先へ  作者: はなび
プロジェクト開始1ヶ月前
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ターミナル



衛星軌道ステーションのターミナルは、思った以上に広い。地球と、火星や月面の基地局の、中継点として利用されているからだが、このステーション自体も、大型の実験施設らしい。実は、今いる研究員用ターミナルの他に、観光用と資材運搬用のターミナルがあるという。

麻有(あゆ)は、もう一度、ターミナルの中を見渡した。


自分たちが乗ってきたのと同型の星間飛行船が、着艦作業をしている。

麻有の後ろでは、自分のパートナーが、物珍しげにきょろきょろしていた。目の前には、ステーションの管制士が、書類片手に立っている。

久度(くど)と名乗った彼は、麻有が参加するプロジェクトの発案者で、責任者でもあるらしい。一通りの予定を説明されて、なぜかここで待機している。


「…それで、この後、プロジェクトメンバーの顔合わせがあると、伺いましたが…」


麻有が、先ほど聞いた予定を口にすると、久度は、軽く頷いた。


「多分、控室に集まっているだろう。香芝(かしば)君たちには申し訳ないが、あと一組、ガーゴイルのオペレーターが到着するので、それまで待っていて貰えるか?」


「それは構いませんが…。確か、篠亜(しのあ)重工(じゅうこう)のオペレーターでしたね?」


「そうだ。概要は、カブテック本社から聞いていると思うが」


事も無さ気に久度は言う。


一応、ライバル企業の社員同士だ。顔を合わせて(いさか)いになる可能性も高い。普通なら、別々に案内するだろうに。

鈍いのか、肝が据わっているのか。


いや、どちらでもないな。


麻有は、久度を用心深く見据えた。


どうやら彼は、我々を試す気でいるらしい。ここで諍いを起こせば、それを理由に、プロジェクトから外す気でいるのだ。


厄介だ。非常にやり辛い。


後ろを見ると、パートナーが、相変わらず呑気に辺りを見回している。

急に疲れが出てきて、麻有は溜め息を吐いた。




しばらく待っていると、着艦作業を終えた飛行船の搭乗口が開いて、中からぞろぞろと人が出てくる。その最後に出てきた人物たちを目にした途端、後ろのパートナーが、あっ、と声を上げた。向こうもこちらに気付いたらしい。同じように、指を差して声を上げている。


…諍いにはならないが、これは、非常に気不味い…。


麻有が顔を(しか)めた時。


「香芝大佐」


小柄な女性が、嬉しそうに手を振って近付いて来た。後を追う男性が、大慌てで(たしな)めていたが、聞く耳を持っていない。


「どうしたんですか? こんなところで」


抱きつく一歩手前で辛うじて立ち止まり、彼女は聞いてきた。


「多分、君と同じ目的だよ、京終(きょうばて)中佐」


苦笑を浮かべて麻有が答えると、京終は、本当に嬉しそうに顔を綻ばせる。


「えっ、じゃあ、大佐もプロジェクトに参加を?」


「そう。最も、退役したので大佐ではなくなったが、ね」


「あ、それも同じ。お父様が、軍を辞めていいって、やっと。代わりに、このプロジェクトの参加を言い渡されました」


妙に清々しく笑う彼女に、後ろの男性が、このバカ、と小声で窘めていたが、やはりそれも聞いていない。

麻有は、ちらりと久度を見やる。

彼は、こちらの反応を無言で観察している。下手な隠し立てはしない方がいい。


「私は結婚が決まってね。それで、退役して天下りしたんだが、最初の仕事がこれだった」


麻有の説明に、今まで黙っていた久度が、初めて口を挟んだ。


「それは申し訳ない事をしたな。フィアンセにも」


久度の口調は申し訳なさそうに聞こえるが、表情からは感情が伺えない。


同情されても嬉しくないし、同情される必要もない。


麻有は、苦々しく眉根を寄せると、お気遣いなく、と言った。


「後ろについて来てますので」


投げやりにパートナーを指差すと、久度は目を(みは)った。これは、流石に予想外だったのだろう。


「わぁ、やっぱり。おめでとうございます」


ぱっと顔を輝かせてお祝いを述べる京終に、麻有は力なく、ありがとう、と返した。



ステーションは観光用に、一部の実験施設の開放と、大型の商業施設が併設されてます。

職員の数も膨大なため、家族で生活する職員のために、生活施設や教育施設も充実してたりします。


ちなみに格納庫は、半公開施設です。奥の整備場が非公開。

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