整備場
整備場は、いつにも増してフル稼働だ。
先週頭に中規模のプロジェクトが終了して、実験機材や、使用したO-Pが、格納庫に戻ってきたからだ。手の空いている者は手伝いに駆り出され、整備場自体が、大騒ぎになっている。
あと1週間もすれば落ち着くと思うが、次の実験やプロジェクトに使うために、早急に整備しなければならない機材もある。時間に余裕のあるO-Pの整備は、哲也のプロジェクトメンバーに一任されていた。
哲也が、整備を開始するO-Pのデータを受け取りに、整備場を離れている間に、陸は管制室に呼び出されたらしい。
データを受け取って戻って来て、三郷と確認作業をしている時、哲也はぽつんと呟いた。
「…やっぱり、陸のパートナー探しは、難しいんですかねぇ」
その呑気な口調に、三郷が顔を顰める。
「おまえと一緒だろうが。他人事みたいに思うなよ」
手厳しい指摘に、哲也も顔を顰める。三郷は、哲也の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜると、ふと、陸のガーゴイルに目を向けた。
相変わらず、哲也の『特等席』に鎮座して、静かに出番を待っている。
「しかし、陸も飽きねぇな。何回目だ? パートナー探しの呼び出し」
「さぁ? 20回近くは、呼び出されてると思いますよ。いい加減、そろそろ見つかってほしいですよね」
溜め息混じりに哲也が言うと、三郷は渋い顔をして、
「あのヤローが噛んでンだ。見つかりませんでした、すみません、は絶対ねぇ」
褒めてるのか、貶してるのか、分からない言葉を吐く。
三郷の言う『あのヤロー』は、葛城の事だ。
腹が読めねぇ、と毛嫌いしているが、仕事に関しては素直に尊敬している節もあるので、哲也には、三郷の好き嫌いの基準がよく分からない。可能性があるとすれば、哲也絡みで色々あったので、その所為かも知れない。
哲也は苦笑を浮かべて、ですね、と相槌を打つ。
「葛城さんの事ですから、陸が嬉しくない事を、しでかす可能性が高いですけど」
哲也が困り顔で言うと、三郷に激しく同意された。
それから、データの確認作業を再開して、ものの5分も経たないうちに、陸が管制室から帰ってきた。
「てっさん、三郷さん」
手を振りながら近寄って来る陸に、三郷が手を上げて迎える。
「おう、おかえり」
ただいま、と陸が返事する。
整備場が、すっかり陸の居場所になってしまった。すでに、ここの整備士からも、同じ整備士だと思われているのは、陸だけが知らない事実だ。
哲也は、微苦笑を浮かべながら、どうでした、と陸に聞いた。
「うん、適性検査受けてきた」
あっさり答えて、言葉を続ける。
「ただ、問題があるんだよね。俺が航法士だから、コクピットの調整、また変えないといけない」
あはは、と笑う陸を、2人は呆然と眺めて。
「…お、おまっ…!!?」
三郷が、陸の肩を鷲掴みにして、思い切り揺さぶった。かなり動揺している。あー、と陸が奇妙な声を上げて、頭を前後させた。
哲也はしばらく、ぼんやりして。
「…さ、三郷さん、落ち着いて下さいっ」
大慌てで三郷の腕にしがみつくと、2人の間に割って入った。
「陸も、どういう事か、説明できますか?」
ふらふらする頭を支える陸に、心配そうに哲也が尋ねた。
「葛城さんがね、航法士のパートナー候補がもう居ないから、操縦士で探したんだって。2人見つかったけど、これで適性合わなかったら、新人入ってくるまで、パートナー探しは無理だって。適性合わなきゃ、プロジェクトは予備人員で参加、合えば、俺のガーゴイルはそのまま引き継ぐって」
陸は、葛城から受けた説明を、簡単に2人にした。そして、哲也に向かって、ごめん、と謝る。
「せっかく、てっさんに調整してもらったのに」
「…いえ、それは構いませんが…。パートナーは、決まりそうですか?」
「葛城さんが、適性合いそうって。あの人、今まで一度も、そんな事言わなかったから、今度は確実だな、って思って」
陸は意外と、葛城をしっかり観ている。三郷が、珍しく感心していた。
「…陸は、航法士でもいいんですか?」
念のために哲也が確認すると、陸は、うん、と頷く。思った以上にあっさりした態度に、陸の拘りが、操縦士ではなく機体にあると分かった。
哲也は、陸のガーゴイルを見上げた。
「では、航法士のコクピットに、陸のデータを移します。同一機体内でのデータ移動なので、再調整の必要はありません。操縦士のコクピットは、一旦、フラットに戻しますが…」
同じように、哲也の隣でガーゴイルを見上げる陸が、もう一度頷いた。
「俺のパートナーに、合わせてあげて」




