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閉じた未来の、その先へ  作者: はなび
プロジェクト開始1ヶ月半前
12/32

整備場



整備場は、いつにも増してフル稼働だ。

先週頭に中規模のプロジェクトが終了して、実験機材や、使用したO-Pが、格納庫に戻ってきたからだ。手の空いている者は手伝いに駆り出され、整備場自体が、大騒ぎになっている。

あと1週間もすれば落ち着くと思うが、次の実験やプロジェクトに使うために、早急に整備しなければならない機材もある。時間に余裕のあるO-Pの整備は、哲也(てつや)のプロジェクトメンバーに一任されていた。




哲也が、整備を開始するO-Pのデータを受け取りに、整備場を離れている間に、(りく)は管制室に呼び出されたらしい。

データを受け取って戻って来て、三郷(さんごう)と確認作業をしている時、哲也はぽつんと呟いた。


「…やっぱり、陸のパートナー探しは、難しいんですかねぇ」


その呑気な口調に、三郷が顔を(しか)める。


「おまえと一緒だろうが。他人事(ひとごと)みたいに思うなよ」


手厳しい指摘に、哲也も顔を顰める。三郷は、哲也の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜると、ふと、陸のガーゴイルに目を向けた。

相変わらず、哲也の『特等席』に鎮座して、静かに出番を待っている。


「しかし、陸も飽きねぇな。何回目だ? パートナー探しの呼び出し」


「さぁ? 20回近くは、呼び出されてると思いますよ。いい加減、そろそろ見つかってほしいですよね」


溜め息混じりに哲也が言うと、三郷は渋い顔をして、


「あのヤローが噛んでンだ。見つかりませんでした、すみません、は絶対ねぇ」


褒めてるのか、貶してるのか、分からない言葉を吐く。


三郷の言う『あのヤロー』は、葛城(かつらぎ)の事だ。

腹が読めねぇ、と毛嫌いしているが、仕事に関しては素直に尊敬している節もあるので、哲也には、三郷の好き嫌いの基準がよく分からない。可能性があるとすれば、哲也絡みで色々あったので、その所為かも知れない。


哲也は苦笑を浮かべて、ですね、と相槌を打つ。


「葛城さんの事ですから、陸が嬉しくない事を、しでかす可能性が高いですけど」


哲也が困り顔で言うと、三郷に激しく同意された。




それから、データの確認作業を再開して、ものの5分も経たないうちに、陸が管制室から帰ってきた。


「てっさん、三郷さん」


手を振りながら近寄って来る陸に、三郷が手を上げて迎える。


「おう、おかえり」


ただいま、と陸が返事する。

整備場が、すっかり陸の居場所になってしまった。すでに、ここの整備士からも、同じ整備士だと思われているのは、陸だけが知らない事実だ。

哲也は、微苦笑を浮かべながら、どうでした、と陸に聞いた。


「うん、適性検査受けてきた」


あっさり答えて、言葉を続ける。


「ただ、問題があるんだよね。俺が航法士だから、コクピットの調整、また変えないといけない」


あはは、と笑う陸を、2人は呆然と眺めて。


「…お、おまっ…!!?」


三郷が、陸の肩を鷲掴みにして、思い切り揺さぶった。かなり動揺している。あー、と陸が奇妙な声を上げて、頭を前後させた。

哲也はしばらく、ぼんやりして。


「…さ、三郷さん、落ち着いて下さいっ」


大慌てで三郷の腕にしがみつくと、2人の間に割って入った。


「陸も、どういう事か、説明できますか?」


ふらふらする頭を支える陸に、心配そうに哲也が尋ねた。


「葛城さんがね、航法士のパートナー候補がもう居ないから、操縦士で探したんだって。2人見つかったけど、これで適性合わなかったら、新人入ってくるまで、パートナー探しは無理だって。適性合わなきゃ、プロジェクトは予備人員で参加、合えば、俺のガーゴイルはそのまま引き継ぐって」


陸は、葛城から受けた説明を、簡単に2人にした。そして、哲也に向かって、ごめん、と謝る。


「せっかく、てっさんに調整してもらったのに」


「…いえ、それは構いませんが…。パートナーは、決まりそうですか?」


「葛城さんが、適性合いそうって。あの人、今まで一度も、そんな事言わなかったから、今度は確実だな、って思って」


陸は意外と、葛城をしっかり観ている。三郷が、珍しく感心していた。


「…陸は、航法士でもいいんですか?」


念のために哲也が確認すると、陸は、うん、と頷く。思った以上にあっさりした態度に、陸の(こだわ)りが、操縦士ではなく機体にあると分かった。

哲也は、陸のガーゴイルを見上げた。


「では、航法士のコクピットに、陸のデータを移します。同一機体内でのデータ移動なので、再調整の必要はありません。操縦士のコクピットは、一旦、フラットに戻しますが…」


同じように、哲也の隣でガーゴイルを見上げる陸が、もう一度頷いた。


「俺のパートナーに、合わせてあげて」



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