管制室
陸は、この数週間、よく管制室に呼び出されている。時間にすれば1回につき1時間ほどだが、すでに10回以上はここに来ている。用事はいつも同じ、陸のパートナー候補の適性検査のためだ。今までの検査は、全て駄目だった。
今日も昼食後に、整備場にいたところを呼び出された。
今回こそは、適性が合えばいいのに。
「生駒君、毎回すまないね。手間だが、もう一度、適性検査を受けてみないかい?」
管制室に入った途端、担当管制士の葛城に問われた。
「はい、受けます」
陸が即答すると、葛城は一瞬、ぽかんと口を開けて、
「…ずいぶん、返事が早いね…」
感心してるのか、呆れてるのか、分からない口調で呟いた。
「あー、早くパートナー見つけて、てっさん…じゃないや、三輪さん安心させたいんで…」
陸が理由を告げると、葛城は納得して頷く。
「そういう事なら、話は早いな。実は、今回のパートナー候補は、ちょっと問題があってね」
「…適性、合いそうにないですか…?」
葛城の話の切り出し方に不安を覚えて、陸が訪ねると、彼は、いやいや、と首を振った。
「適性は合うと思うよ。今までで一番、確率が高い。ただ、ね、航法士じゃないんだ」
葛城は、苦笑いを浮かべて答え、真剣な表情で続きを話す。
「君と適性の合いそうな航法士は、全て当たったが駄目だった。だから、操縦士に範囲を広げて探して、やっと2人。もしこれで駄目なら、新人が入って来るまで、パートナー探しは無理だ」
これは、最終通告だ。陸の表情も硬くなる。
「これが駄目だったら、俺、プロジェクトから外されるんですか?」
「いや、それは無い。だが、予備人員としての参加になるだろう」
「適性が合ったら、俺のガーゴイルは…」
陸の、一番の心配の種を口にした。葛城は、安心させる口調で答える。
「彼らは、専属機を持たない。君のガーゴイルを、そのまま引き継ぐ事になるな」
それを聞いて、陸は、ほっと息を吐いた。
ステーションに勤め出してから、ずっと搭乗してきた機体だ。すでに、身体の一部みたいな感覚なのだ。今さら、他の機体に乗り換え、は考えたくなかった。
「なら、いいです。適性検査、受けます」
あっさり答えた陸に、葛城は目を瞠る。
「…もう少し、操縦士に拘りがあると思っていたが…」
思わず漏れた葛城の呟きに、陸は平然と返す。
「今の機体に乗れるなら、どっちでも良いです」
「…そうか。では、生駒の都合の良い日に、適性検査をしよう。1週間以内なら、いつでも良いよ」
「あ、じゃあ、今からでも?」
葛城の提案に、陸がそう言うと、彼は、目を点にする。
「…ずいぶん、思い切りの良い子だね、君は…」
やはり、葛城の呟きは、感心してるのか、呆れてるのか、分からなかった。




