第六話 帰路
男子トイレから抜け出したあと、どうしようか悩んでいた。
「やっぱ一人で帰ろうかな…」
あの光景を見た後、一緒に帰るのはなかなか気まずいし。
そう考えて下駄箱の前まで来て、楓はいないか様子をうかがってみた。
〈楓いないな…でも靴はあるし…てことは…。〉
「ちょっと祐介、人の下駄箱覗き込んで何してんのよ。」
あぁ…ほんと間が悪いな、俺。
「いやー、楓まだいるかなって、確認してたのさ。」
「…ほんとでしょうね?」
「変なことはしておりませんとも。」
こうなった以上、一緒に帰ろう。もとはといえば探してたんだし。
***
俺たち二人は靴を履き替え、いつもの道を帰っていた。
「でさ、後ろで大爆発してさぁ…」
「あはは、マジか。」
俺たちは談笑をしながら帰っていた。
「…ちょっと、何よ?そんなじろじろ見て。」
「あー、ちょっと…。」
さっきのことがあってどうも意識してしまう。
「そんな見られると、こっちも恥ずかしいじゃない…」
やばい、ちょっと気まずくなってきたぞ。
「…実はさ。」
「なに?」
言おう。ここまで来たら言うしかない。…素直なのも考えものだよ。
「さっき見ちゃったんだ。」
「さっき?…あ、さっきって…」
「そう、告白されてたでしょ、楓。」
「…見てたんだ。」
恥ずかしかったのか、楓の顔が少し赤くなり、目を背けた。
「なんか今、複雑な気分なんだよね。」
「なんであんたがそんな気持ちになってるのよ…」
「だって…ねぇ?いつも俺たちとつるんでる楓の、あんなとこ見ちゃったらね…?」
「…」
なぜか告白された本人より俺のほうが調子がおかしい…。
俺って…ピュア…。
「よく楓は平常心保てるよね。俺のほうがドキドキしてるというか、なんというか。」
「…だって、これが初めてじゃないもん。」
「へ…?マジで…?」
マジか。驚愕の事実。そっか、楓モテるんだ…。そうだよな。
「…いつか奪われるわよ…」
「なんて?」
「私結構モテるんだから、いつか誰かに奪われちゃうわよ!」
うーん…
「それは困るよね。」
「…っ!」
それは嫌だ。
「…こ、困るって…、どうして…?」
「今みたいにこうやって帰ることも、一緒にいられる時間も無くなっちゃうんでしょ?
そんなの、やだよ。」
「…」
楓はうれしいのか、悲しいのか。
よくわからない表情をしていた。
「…まあ、私も付き合う気はないけどね。」
「ほんと!?よかったぁー。」
「ふんっ」
ふふっ、かわいい。
俺も近いうち、腹くくるとしますかね。
悪いね、理科室くん。楓は俺がもらうよ。