第五話 放課後
「ふあぁーあ…」
放課後、やっと学校が終わり、帰宅するだけとなっていた。
「あんだけ寝てたのに…、まだ眠そうだね。」
「んー…まだまだ寝足りない…」
まだまだ眠い…。ロングスリーパーってやつ?
「このまま学校で寝てこうかな…」
「そんなに?!」
こんなに眠いのなんて久しぶりだな…
連日の夜更かしのせいだな、こりゃ。
「あの二人は部活いった?」
「うん、今日はミーティングがあるらしいから早めに出て行ったよ。」
「そっか。」
なるほど。静かなわけだ。
「梶はこれからどうすんの?」
「僕は勉強してこうかなって。」
「そっか、了解。」
ホントに梶は真面目だなぁ。尊敬する。
「学校で寝るために残るのはやっぱやだなぁ…。うん、帰ろう。」
楓はどこかな。
一緒に帰ろうとしたのに、いないや。
「梶、楓知らない?」
「楓ならさっき先生のところ行ってたよ。」
「うげ、マジか。せんきゅ。」
ってことは職員室にいるのか…。近寄りたくもないけど…。
「ちょっと様子見にいこっかな。」
遠目からばれないようにみはっとこ。見つかったら何言われるか…。
「じゃね梶、また明日。」
「うん、またね。」
俺は梶と別れて教室を出た。
職員室は二階にある。
俺たち高校二年の教室は三階。一階が一年、四階が三年である。
階段を下りていくと理科室のほうで何かしゃべり声が聞こえてきた。
「こんな人気のないところで何やってるんだろ?」
声は男女の声。 …まさか。
「いかがわしいことでもしてるんじゃあるめぇな…?」
けしからんことだったら俺が見届けてやろう。
「どれどれ…?」
見てみたら男のほうは知らないやつだった。
「なんだ?告白でもしてるのかな?」
男のほうは震えながらも言葉を振り絞っていた。
「がんばれ!男、見せる時だぞ!」
男が必死なのを見て、思わず応援してしまう。
『俺と付き合ってくださいっ!』
男の大きな声が聞こえてきた。
緊張していたからか、すんごい響いた。
お前…聞かれるぞ…。
「でもよく言いました!」
さあ、返事はどうだ…?
『ごめんなさい。』
「わーお…、マジか…。」
がんばってたんだけどなぁ…。その人の必死さが伝わってきたためにこっちも少し残念な気持ちになって来る。
「相手の女子はどんな子なんだ…?」
あれだけ気合入った告白をごめんなさいの一言で済ませれるような子がどんな子か、気になってきた。
「お、」
男にかぶっていて見えていなかったけど、断られたショックで男が動いて見えそうだ!
…うん?あれは…
〈楓?!〉
危うく声が出そうになったがすんでのところで止めた。
まさか楓だったとは…
「でもまぁ確かに…」
なんで楓が?とは思ったが考えてみれば納得だ。
楓に俺が慣れてしまっていただけで、全然魅力的だからである。
スタイルも普通にいいし、真面目で、ルックスだってなかなかだ。
「いやぁ…、でも、まさか楓かぁ…。」
親しい友人のように接していたからこの光景には少し動揺している。
この光景はなかなかに来るものがある。
さっきまで応援してたけど、ごめんね。やっぱだめです。
告白が成功しなくてほっとしたのもつかの間、楓がこっちに向かってきた。
〈やべっ〉
俺はすぐ隣にあった男子トイレに隠れた。
コツコツコツコツ…
楓は通り過ぎて行ったみたいだ。
俺はタイミングを見計らってトイレの入り口から男のいたほうを見てみた。
男はうなだれたままだった。
そりゃすぐには立ち直れんわな。
俺は男がこっちに気づく前にその場から抜け出した。