第三話 写経
「「お邪魔しまーす。」」
俺たち二人は隣のクラスに到着した。
「さあさあ、宿題写し祭りはどこで開催中だ?」
「あ、あそこでやってるぽい。」
「よしきた。」
たいてい宿題が出されている日にはどっかで宿題を写しあっている。一応進学校なんだけどね?
「俺たちにもお恵みをー」
「来ると思ったぜ」
「失礼な」
さー、パパッと終わらせて早く戻ろ…
そう思いながら写経をしていると、近くの席で女の子同士話し合っているのが目に映った。
…いや、映ったんじゃなく見たんです。もう凝視。
「ホントかわいいなー、柚月さんは。」
「俺もあんな彼女がほしい…」
「話しかけるのさえハードル高いわ…」
このクラスの男子どもが口々にぼやいている。
柚月彩芽、この学校の一番人気の女子だ。
誰が見てもかわいい。文句なしの人物なのである。
容姿端麗、スタイル抜群と、スカウトされてもおかしくないレベルだ。
俺もあんな子と付き合えたらなぁ… そんで、あんなことやこんなことを… ぐへっ
「その気持ち悪い面どうにかしてくれねぇか?」
「おっと失敬」
「夢に出てくるレベルだったぞ」
いけない、いけない。顔に出てたみたい。
「宿題やるのに集中しなきゃね。」
「写経に集中もくそもねぇと思うけどな」
友達同士で教え合い、何とか終わらせることができた。キングはすでに終わっていたので先
に帰っていた。
「よーし、俺も戻るとしますか。」
教室に戻ろうとドアの近くまで行くとふいに誰かから話しかけられた。
「なんで小田君がいるのかな?」
どこか聞き覚えのある声。かわいらしい声だ。
「柚月さんっ?!」
「驚きすぎだよ~」
うええっ?!あの柚月さんがなんで俺に!?
「ど、どったの柚月さん?」
「いや、別のクラスのはずの君がなんでいるのかなって」
宿題写しに来たなんて言えないぞ…。かっこ悪い
「ちょっと、お散歩を。」
「他のクラスに散歩って聞いたことないよ?」
「う…」
やってしもた。散歩て。
「言い訳しても意味ないよ?見てたからね、宿題写してるの。」
「見てたの?!」
「うん、見てた。」
見てたの!? なんてこった…、わかった。俺のこと好きなんだろう?そうなんだろう?
「君は目立つんだよ。有名なんだから。」
「いやー、そんなこと言われると照れるなぁ」
「不真面目で」
「ですよネ」
くっ…世知辛い。
「今更取り繕っても遅いぞー」
「せめてもの悪あがきです…」
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴ってしまった。俺の至福の時間を…!
「あー、チャイムなっちゃったね。」
「そうだね。」
「戻らなきゃだね。」
「そうだね。」
「…」
「…」
「…小田君?」
「今日の宿題も難しかったよねー」
「私の話聞いてた…?」
この至福の時間をチャイムごときで奪われてたまるか!
「宿題毎日出すなんてひどすぎだよねー、もうちょっと考えて出せっての。」
「…考えてこうなってるんだよ」
今度は男の声。吐き気を催す声だ。
「…最悪だ」
「こっちもな」
このクラスの一限水野かよ…