第一幕 謎の幻術使い
魔界を支配し、人間界を滅ぼそうとしていた降魔大元帥を倒した安倍晴明は…共に戦った仲間である西園寺飛鳥と結ばれ、その一年後には待望の男の子が誕生したのであった。
名前は『保允』と命名し、いずれは父親である晴明と同じ陰陽師を継いでくれると晴明と飛鳥の二人は期待を膨らんでいたのだった…。
だが、そんな平穏な京の都に突如『於呂血』と名乗る妖術使いが現れ…百鬼夜行の妖怪が封じられていた『魔封塚』の封印の札を剥がし、再び京の都を魔界都市に変貌させていったのだ。
「晴明様、また京の都に魔物が現れました。」
「さては、降魔大元帥が復活したのか…。」
「それが、どうやら魔封塚に封印されていた筈の百鬼夜行の妖怪が何者かによって復活したようです。」
「いったい誰が魔封塚の封印を…。とにかく、私は魔封塚に向かい…原因を調べてくる。」
「私も一緒に、魔封塚に行きます…。」
「駄目だ…。飛鳥は保允を連れて安全な場所へ避難するんだ。いつ、どんな危険が待ち構えているか分からないからな…。」
「分かりました…。でも、気をつけてくださいね。」
「ああ…。」
晴明は、飛鳥と息子である保允を安全な場所へ避難させ…その後単身魔封塚へと向かい、何故百鬼夜行の妖怪が復活したのかを調べていったのである。
「こいつは酷い…。魔封塚に封印されていた筈の妖怪の気配すら感じられない。いったい誰が封印の札を剥がしたんだ…。」
すると突然、晴明の背後から妖しげな怪光線が放たれ…咄嗟に晴明は陰陽術で怪光線を跳ね返し、しばらくすると…晴明の前に現れたのは妖術使い・於呂血が姿を見せ、晴明にこう言い放ったのだった。
「貴様、よくぞ我が妖術を弾き反したな…。」
「お前か、さっきの妖しげな怪光線を放ったのは…。お前はいったい何者だ。」
「我が名は於呂血…この京の都に封じられし百鬼夜行を放ち、愚かな人間どもに絶望と恐怖を与えるものなり。」
「やはり、お前が魔封塚の封印を解いた張本人だったのか…。」
「だったらどうする…。この妖術使い・於呂血に戦い挑もうとでも言うのか。」
「無論…。京の都の平和を脅かす輩を野放しにする訳にはいかぬ。」
しかし、於呂血は不敵な笑みを浮かべながら更にこう続けたのであった。
「無駄な事を…。所詮貴様みたいな人間に…この於呂血を倒すなど到底無理な話だ…。さて、貴様がどの程度の実力なのかを試させてもらおうか。」
「ふっ、面白い…。お前の妖術と…私の陰陽術ではどちらが上なのか、この場で雌雄を決しようぞ…。」
晴明と於呂血の対決が始まり、両者一歩も譲らない熾烈な戦いが始まろうとしていた。
晴明は得意の陰陽術で応戦し…一方の於呂血は妖術を用いて晴明を絶体絶命の危機に追い込もうとしていたが、それでも晴明は冷静な態度で於呂血の攻撃を避けながら何とか回避する事が出来たのであった。
「お前、ただの妖術使いではないな…。」
「そう言う貴様こそ、此処まで我を追い込むとは…。さては、名のある術者と見受けられるが…名は何と申されるのか。」
「我が名は安倍晴明…。」
「安倍晴明…だと。京の都随一の陰陽師と呼ばれた…あの安倍晴明なのか。」
「如何にも…。」
すると於呂血は、慌てた様子で晴明の前で土下座し…これまでの無礼を詫びたのである。
「も、申し訳御座いませんでした…。まさか、あなた様が稀代の陰陽師と呼ばれた安倍晴明様とは露知らず…数々の無礼をどうかお許し下さいませ。」
「於呂血殿、どうか頭を上げてはくれぬか…。」
晴明の言葉に促され、於呂血は頭を上げながらこれまでの無礼を詫び…その後晴明は魔封塚の封印を何故剥がしたのかを於呂血に問い質していった。
「そ、それが…。」
「いったい何が…。」
「何故…魔封塚の封印を解いたのか、全く記憶が無いんだ…。」
「記憶が…無い。」
「気がついたら、魔封塚の封印を破壊していた…。本来ならば、京の都から魔物を退治する立場でありながら…こんな最悪の状況になるなんて…。」
「それよりも、誰がいったいお主にこの様な事をさせたのか…覚えてはいないのか。」
於呂血は、いつ何処で誰に襲われ…催眠術を掛けられたのかは覚えていないらしく、ただうっすらと大きな人影が映っていたのを覚えていたと言うのだった。
「はっきりとした確証は無いんだが、大きな人影が霞んで見えていただけで…詳しくは分からないんだ。」
「何か、その人影に特徴とかは無いのか…。」
「…そう言えば、一つだけ胸元に大きな紫色をした髑髏水晶の首飾りをしていたのを見た記憶がある。」
「紫色の髑髏水晶…まさか、あいつが再び現れたと言うのか…。」
この時晴明は、かつて京の都に現れた『朧影烈堂』が再び京の都に舞い戻り…封印されていた魔界帝国を復活させようとしているのではと考えていたのだった。
「於呂血殿、そいつは恐らく…朧影烈堂と名乗る闇の陰陽師の仕業に違いない。奴はかつて…魔界帝国の復活を企てようとしていたらしく、最終的にはその計画すら失敗に終わったようだが…あの男、まだ諦めてはいなかったみたいだな。」
「晴明殿、お願いで御座います…。どうか、この於呂血と共に…力を貸しては下さらぬか。」
「もちろん、この安倍晴明も…京の都を脅かそうとしている朧影烈堂の悪事を阻止せねばなるまい。於呂血殿、共に参ろうぞ…。」
晴明と於呂血の二人は、朧影烈堂の悪事を食い止めようと…南西の方角にある『狛狼神社』へ向かっていったのだった。
それからしばらくして、二人は狛狼神社にたどり着き…周囲にはただならぬ気配が漂っており、これまで以上の緊張感が晴明と於呂血の二人を襲うのであった。
「晴明殿、本当に朧影烈堂が居るのでしょうか…。」
「恐らく、奴はこの神社に潜んでいるに違いない。」
「しかし、奴は神出鬼没の闇の陰陽師…。何時現れても可笑しくない状況なのは変わりありません。」
「確かに…。だが、過去に一度だけ奴と一戦交えた事があり…想像を遥かに超える戦闘能力を誇る最強の陰陽師だ。」
「その最強の陰陽師である朧影烈堂が…再び現れたと言う事は、何か良からぬ事を企てているのは間違いありません。」
「ああ…。だが、気をつけろ…。奴は我々の不意を突いて襲撃してくる恐れがあるから、気を引き締めて戦闘態勢を整えるんだ。」
「分かりました…。」
そして遂に、闇の陰陽師である朧影烈堂が晴明と於呂血の前に現れ…晴明にとっては因縁の対決となるのであった。
「来たか、安倍晴明…。」
「朧影烈堂、まさか再び現れるとは…。今度はいったい何を企んでいるんだ。」
「晴明よ、この前の戦いであと一歩のところで不覚をとってしまったが…今度こそ再びこの京の都に新たな魔界帝国を復活させるつもりだ…。」
「烈堂、貴様…性懲りもなく京の都を再び廃墟にさせようと言うのか…。」
「その通りだ…。まずその手始めとして、我が新たなる力を…貴様に見せてやる。これまでに無い…我が究極の力を…。」
烈堂は右手で印形を結び…闇の呪文を唱えて晴明と於呂血に向けて発動させていくのだった。
「冥界より現れし亡者の御霊よ、我が命令に従い…愚かなる人間どもに裁きの鉄槌を与えよ。闇霊術・鬼哭暝儡覇…。」
烈堂の放った闇霊術・鬼哭暝儡覇は、無数の漆黒の霊体が縦横無尽に交差しながら相手の体を取り巻き…一瞬のうちに人間の魂を奪い取る恐ろしい術なのである。
「お、おのれ…。貴様、いつの間にそんな恐ろしい術を…。」
「見たか…。この朧影烈堂…お前に戦い敗れて以来、密かに新たな術を習得する為に過酷な修行を行い、遂に究極の力を手に入れたのだ…。さぁ…そろそろ貴様に神罰を下す時が来た。潔く我が術の前で朽ち果てるがいい…。」
烈堂が再び闇の陰陽術・鬼哭暝儡覇で晴明をこの世から消し去ろうとしたその時…突然晴明の体に七色の光が輝き、新たな力が晴明を強くしていったのである。
「こ、この光は…。」
「もしや…千年前に活躍した伝説の戦士…天狐童子。」
「その昔、百万の軍勢をたった一人で殲滅させた最強の戦士…。噂には聞いていたが…まさか、この京の都で見る事が出来ようとは…。」
すると、晴明は二本の刀で交差させながら烈堂に向かって攻撃を仕掛け…対する烈堂も持っていた錫杖を構えて晴明の攻撃を迎え撃っていったのであった。
「き、貴様…いつの間にそんな能力を身につけた。」
「そんな事を…お前に話すつもりは無い…。ただ、過去の戦いで貴様を倒せなかった事を後悔している。だから、今度こそ貴様を倒して…全てを終わらせてやるんだ。」
「晴明、今のお前に…この朧影烈堂を倒せるものか…。お前の命運も…もう間もなく尽きるであろうぞ。」
「黙れっ…。命運が尽きるのは貴様の方だ…。もはや最後の手段を講じなければなるまい…。」
晴明は右手で印を結び…天空の彼方より十二天将の一人である雷の化身『白虎』を呼び寄せ、一気に烈堂を撃破せんと果敢に戦い挑もうとしていた。
「いくぞ、烈堂…。」
「来いっ、晴明…。」
両者一歩も譲らない激しい攻防戦が続き…遂に決着の時を迎えようとしていた。
「天地轟雷…乾坤自在。陰陽秘伝・爆雷衝撃破。」
晴明が繰り出した陰陽秘伝・爆雷衝撃破が炸裂し…遂に烈堂は晴明の前に再び敗れ去る結果を招いたのであった。
「くっ…又しても貴様に敗れようとは…。」
「烈堂、潔く負けを認めるんだな…。」
「晴明…お前にひとつだけ聞きたい事がある。」
「何だ…。」
「なぜあの時、この俺に止めを刺さなかった…。」
「そ、それは…。」
「やはり、お前の心に迷いがあったようだな…。」
「迷い…だと…。」
「その通りだ…。かつて降魔大元帥と戦った時と同じ、一瞬戦う事を躊躇ったであろう…。その時既に心の迷いが生じたが為に、降魔大元帥に止めを刺す事好機を逃したのだ…。」
「だが、あの時確かに…本気で降魔大元帥に一撃で倒そうと思っていたんだ。しかし、本当にこのまま奴を倒していいものかどうか迷ったのは事実だ。それに…。」
「晴明、お前は本当にこのままでいいのか…。」
宿命の好敵手にも関わらず、晴明に対して過去を捨てて新たな自分に生まれ変われるのか…或いは今の現状のままでいいのか問い詰めると、晴明はある決断を下すのである。
「烈堂、お主の言葉で迷いが吹っ切れた…。もう、これから先も考えない事にする。」
「そうか…。その言葉を聞いて安心したぞ…。」
と、その時だった…。
「安倍晴明、貴様の力…この幻術使い・狗毘羅が頂く…。」
突如晴明たちの前に幻術使い・狗毘羅が現れ…晴明を守ろうと於呂血と烈堂の二人は狗毘羅に攻撃を仕掛けようとしたが、圧倒的な力を誇る狗毘羅には勝てず…その場に倒れてしまうのであった。
「狗毘羅とか言ったな…。貴様、何の目的でこの様な悪辣非道な事をする…。」
「天下にその名を轟かす稀代の陰陽師と呼ばれた安倍晴明の秘められたる力を手にすれば、最強の幻術使いとして世に知ら示す事が出来る…。そうすれば、この京の都を我が物とする絶好の機会を得る事が現実となるのだ…。」
「そうはさせるか…。貴様みたいな物欲の塊は排除せねばなるまい。この安倍晴明…天に代わって正義の鉄槌を下さねばならぬ。」
晴明は幻術使い・狗毘羅を相手にあらゆる手段を試みるが、全く晴明の攻撃が通用せず…逆に狗毘羅の幻術によって絶体絶命の危機を迎える事となったのであった…。
「な、何て強さだ…。」
「安倍晴明…残念だが貴様の力ではこの狗毘羅を倒す事すら叶わぬ…。」
「幻術使い・狗毘羅…奴はいったい何者なんだ。」
「もはや貴様に、戦う気力すら残ってはおらぬ…。安倍晴明、今度こそおとなしく貴様の力を渡してもらおうか…。」
絶体絶命の危機を迎えた晴明を嘲笑うかの如く、自信に満ちた表情を浮かべる幻術使い・狗毘羅…。
いったい何処から現れ…何の目的で晴明の力を狙っているのか。
全ての謎に包まれた幻術使い・狗毘羅を前に…為す術を失った晴明は失意のどん底に陥ってしまうのだったのだが…果たして晴明は幻術使い・狗毘羅に勝つ事が出来るのか…。
それとも、このまま幻術使い・狗毘羅に力を奪われてしまうのか…。
そして次回、絶体絶命の晴明の危機を救う新たな仲間が登場により、物語は意外な展開を迎えようとしていたのであった…。
第二幕に続く…。