表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の作り方  作者: 水宮
第3章・侵略国家に黒い仔猫は砂をかけたい
41/63

12・大賢者の言霊





<それで馴初めは何なの?>



<馴初めという言葉は腑に落ちませんが>




エルフの森林都市・ノルドールを出たあたしとソロモンはそのままバルト帝国内陸に向かって空を飛んでいた。目指すはエリカさんが住んでいた教会。速度はマッハ3(時速3600km)。20分とかからずに目的地に到着できる速さだ。


その間。あたしはマーガレットさんとソロモンの出会いを聞いていた。



ソロモンの話によると2人が出会ったのは1年前。迷宮ラビリンスから発生したグリフォンの群れが街や村を襲っていた時らしい。


バルト帝国内の町や村を襲うグリフォンを討伐する為に3つの軍団が編成される。その軍団の1つを指揮していたのが戦乙女いくさおとめの異名を持つマーガレットさんだった。彼女は齢13にして準英雄級の強さを持ち、先のバルト帝国軍全方位侵略戦争の後に各地で起こった暴動や反乱を治める戦いで幾多の戦功を挙げて子爵位を授与されている。


その彼女が指揮するグリフォン討伐軍の第3軍は歩兵8000。騎馬1000の計9000人にものぼる兵力だった。戦乙女いくさおとめとして戦場を駆け巡った13歳の時より3年の月日が流れ、彼女は可憐な少女から美しい大人の女性へと成長し、気力も充実して軍団を縦横無尽に操れるほどの能力を示す。


他の2つの軍団よりも多くのグリフォンを狩り、急速に地域を安定させていく彼女だったが思いもよらない事態に巻き込まれる事になった。


ドラゴンである。

迷宮ラビリンスからグリフォンだけならまだしも魔物の王と呼ばれるドラゴンが出てきてしまった。


鋼の鱗に覆われた全身は剣や槍の攻撃など通さない。

その巨体から振り下ろされる腕や足、尻尾の破壊力は城塞の外壁など一撃で粉砕。

裂けた口から放たれる息吹は氷龍ならば一吹きで数十人~百人以上の兵隊を凍死させ、火龍ならば数十人~百人以上を鎧ごと燃やし尽くす。


今回、迷宮ラビリンスから出てきたのは雷龍。稲妻を口から吐き出すドラゴンだった。雷龍の出現をいち早く察知したマーガレットさんは自軍を後退させて難を逃れたけれども他の2つの軍団は逃げそびれて多くの兵士が稲妻の餌食となってしまう。


無傷なのは自分の指揮する第3軍だけ。

でも並の特異技能スキルしか持たない一般兵達では束になってかかってもドラゴンに効果は無い。悪戯に兵士達を死なせるだけ。


自軍の兵士達に待機を命じて、マーガレットさんはたった1人で窮地に陥った第1軍と第2軍を救うべく雷龍の元に向かった。そしてマーガレットさんもピンチに陥る。準英雄級の強さを持つマーガレットさんの攻撃は雷龍に深手を負わせたけれどもマーガレットさんも無傷では済まなかった。


雷龍、マーガレットさんの双方が重傷で動きが鈍っていた時、まだ生き残っていたグリフォンの群れが狩られた仲間の復讐のためにマーガレットさんに襲いかかってくる。いつものマーガレットさんなら襲い来るグリフォンの群れなど蹴散らしていただろうけれども、今は雷龍と対峙中の上に全身に大怪我を負っている。


危機一髪の刹那、神殺アダマンティンの剣を構えて颯爽と現れたソロモンによってグリフォンの群れも雷龍も葬り去られ、マーガレットさんは救われた。


以後、マーガレットさんはソロモンに夢中になり、バルト帝国軍少将の地位も捨ててソロモンを追いかけ続けているという事だった。


確かに女の子は自分を救い出してくれる白馬の王子様に憧れるけれども。たったそれだけの事件であんなにソロモンに夢中になるものなの?ソロモンは美男子で見た目が素敵というのもあるけれども。



<ステータス画面上は私の方が弱いというのがツボだったみたいですよ>



<え、それってどういう事なの?>



<マーガレットは戦乙女いくさおとめと呼ばれていた少女時代から強かった。屈強な肉体を持つ男の兵士達よりも可憐な姿の自分の方がずっと強く、男の兵士達は彼女にとって守るべき存在でしかありませんでした。そんな強い彼女は兵士達から自然と頼られてしまうので毅然としていなければならなかった。


そんな時に私が現れてマーガレットを助けてしまったから心が動いたのだそうです。そしてステータス画面で見ると彼女の方が強い。自分より弱い者は皆、彼女を頼るだけだったのに私は彼女よりも弱いのに彼女を助けた。そこに惚れ込んだと私に言っていましたね>



<詐欺だよ。偽造の特異技能スキルでステータスを偽っているんだから。本当のソロモンは英雄級さえ遙かに超える強さなのに>



<私としてもマーガレットを助けようとしてグリフォンや雷龍を倒したわけではありませんからね。ただ単にグリフォンと雷龍から取れる高級素材と大粒の魔石が目的だっただけで。


あの時はグリフォンと雷龍の素材、魔石で700万帝国ポンド(日本円換算で9億5200万円)になりました。たまたま通りがかって一狩いってみようか。みたいな軽い気持ちだったのですが、まさかその後に彼女にしつこく追い回されるはめになるとは予想もできませんでした>



<ソロモンって予知の特異技能スキルがあるのに予測できなかったの?>



<予知は対象を明確に定めないとはっきりとは見えないのですよ。未来は無限の可能性と選択肢があり、取るに足らないはずの小さな変化でさえ未来を大きく変えてしまうので>



<なるほど。バタフライ効果みたいなものだね。未来を予測しようとする研究がラプラスの悪魔と皮肉られるわけだよ。物理法則を超えた存在の神でもなくちゃ正確な未来予知なんて絶対に無理だからね>




飛行を開始して6分くらいだった。

突然、目に見えない巨大で堅固な壁に阻まれる。


マッハ3で透明な壁に衝突した瞬間、巨大な衝撃波が空と地上を襲った。天空と大地に爆音と強風が吹き荒れる。


「痛かった。何これ?あたし達でなければ体がペチャンコに潰れていたよ」


頭と体をさすりながらあたしが言うと、隣にいたはずのソロモンの姿がない。

脳震盪を起こして気絶してしまったのだ。


「きゃー!ソロモン」


真っ逆さまに墜落するソロモンに驚いて、あたしは猛スピードで落ちる彼の体を抱きかかえる。


「ソロモン大丈夫?」


呼びかけても返事がない。あたしは無双特異技能ユニークスキルのエンパスでソロモンからコピーした蘇生治癒の特異技能スキルを使い、ソロモンを癒した。


蘇生治癒の力は凄かった。脳震盪に僅かながら脳内出血も起こしていたソロモンだったけれども一瞬で完治してしまう。あたしは神だから良かったけれども、Sランクのソロモンでさえこの怪我だ。いったい誰がこんな目にも見えない、感知もできない巨大な壁を作り出したのだろう?



「これは驚きました」


地上に降りて目に見えない壁を触りながらソロモンが口を開いた。



「どうしたのソロモン。何か分かったの?」



「この透明な壁はどうやら私達だけに反応するみたいです。私達以外の他の生物や物体には反応せず壁にならない。鑑定と予知の両方の特異技能スキルを使ってやっと解析できました」



「あたし達だけに反応して壁になるの?」



「その通りです」



「いったい誰がこんなものを作ったんだろう?」



「こんな事ができるのはSランク。そのSランクの中でも1人しかいませんね」



「それは誰?」



「大賢者・ソフィ。言霊ことだま無双特異技能ユニークスキルを持つSランクの女性です」



「大賢者・ソフィ?言霊ことだま?」



「ソフィは千年以上生きる魔女です。姿は幼い少女のままですけれどね。彼女の無双特異技能ユニークスキル言霊ことだまは言った事が全て現実になるというものです」



「千年以上生きているのに幼女というのも凄いけれども。言った事が全て現実になってしまうというのに驚いたよ。それって本当なの?」



「そうですね。およそ人の出来る事ならば何でも言葉にしただけで現実のものにしてしまいます。彼女が神に対して死ぬと言えば神でも死んでしまうと言われています」



「うわぁ。言葉で神さえ殺せちゃうの?それ最強のチートじゃん」



「でも、私はなぜかセリカはソフィに死の言葉をかけられても死なないような気がするのですが。予知でソフィがセリカの前に立ちはだかって来る光景は見えるのですが、言葉でセリカが殺される姿は見えないのです」



うん。

ソフィという魔女の言霊ことだまが通用するのは創造神が作り出した神までだよ。ベステトは創造神と同格かそれ以上の神だった。それにこの世界の物理法則にも支配されていない。本物のベステトなら言霊ことだまがどんなにチートな無双特異技能ユニークスキルだったとしても効かないでしょう。


でも油断はできない。だってこの体は本物のベステトじゃないから。この世界の物理法則には支配されていないけれども本物に比べたら無にも等しい神力しかない。現に神殺アダマンティンの剣はこの体を殺すだけの力があった。


ところで、どうして言霊ことだまなんてとんでもない力を持つ魔女があたし達の妨害をしたのかな?



あたしの疑問にソロモンが「これは私の予想にすぎませんが」と前置きを入れて説明してくれた。



「恐らく創造神デミウルゴス教の大司教・ジュリエットが動き出したのではないのかと思います。司教・スタンリーが彼女にセリカの事を報告したのでしょう。大司教・ジュリエットと大賢者・ソフィはとても仲が良いので、ジュリエットがお願いすればソフィは二つ返事で動きます」



「え、でもあたしはスタンリーに神だとはバレていないはずだよね?」



「スタンリーごときにセリカの正体が見抜けるはずはありません。しかし、ジュリエットは違います。バルト帝国の支配者は皇帝陛下という事になっていますが、事実上の支配者は創造神デミウルゴス教の大司教・ジュリエットです。そして彼女もまたSランクで全叡智の無双特異技能ユニークスキルを持っています。


全叡智は文字通りこの世界の全てを知る力。創造神を除けば神以上の叡智を持つ女性です。彼女の全叡智にかかれば隠匿と偽造でごまかしたステータスなど簡単に見破られてしまいます。ジュリエットの全叡智には調べる対象の位置も距離も関係ありません。どんなに離れた場所に居る相手であっても調べる事ができてしまいます」



「ふぁ。何だかSランクって、みんなチート持ちばかりだね」



「逆に言えばチートがなければSランクにはなれないのです。特異技能スキルのみで人間が辿り着けるのは英雄級・Aランクまでなのですから」



「それであたしを神だと見抜いたジュリエットは創造神デミウルゴス教の布教の邪魔になるからあたしにちょっかいをかけてきたのかな?」



「それが一番納得のいく結論ですが、少し気になる事があります」



「気になる事?」



「はい。実は私達Sランクは一度だけ創造神に面会しているのです。事故や戦争や病など。とにかく何らかの理由で志半ばで死んだ者の魂の中でほんの一握りの者だけが創造神に会えます。そしてその時にセリカがチートと呼ぶ無双特異技能ユニークスキルを貰って転生してくるのです。


私の場合には11歳の時に前世と創造神の記憶を思い出し、以後は能力奪取の無双特異技能ユニークスキルのおかげでSランクにまでなれました。私達Sランクは皆、創造神の恩恵を受けています。創造神を尊敬するかしないかは別にしても感謝の気持ちはあります」



「創造神にチートをもらって無双ですか。創造神も案外面白がって、ノリで貴方達にチートを渡しているのかも」



「それは否定しません。絶世の美少年でしたが悪戯好きな顔でしたからね」



「それで気になる事っていうのがまだ分からないのだけれども」



創造神デミウルゴス教の教えは純粋に創造神を崇め敬うものでした。しかし、5年前。バルト帝国が周りの国全てに戦争を仕掛けたあの全方位侵略戦争の少し前から創造神デミウルゴス教は変質した。信者達は特異技能スキル無しでもロザリオと神を称える言葉を発するだけで最低でもCランクの力を出せるようになった。


その肉体を人ならざるものに変化させて。無力な平民でも狂戦士パーサーカーのような戦力になってしまったのです。これがバルト帝国が全方位侵略戦争を仕掛けても勝利できた理由ですね。


特異技能スキルも無いのにどうしてあのような力が出るのかが謎です。創造神の作ったこの世界の理からも外れた未知の力なのかもしれません。そしてその未知の力を使う創造神デミウルゴス教。この未知の力がセリカを邪魔する事と何かしら関係があるような気がするのは穿ち過ぎでしょうか?」



創造神デミウルゴス教の未知の力。


それは怨呪オド


マナとは正反対の力だ。江梨花えりかという人を殺し、ベステトや薬師を殺し、桃ちゃんを追いつめた最悪の悪魔。きょうの力の源泉が怨呪オド



きょうにはまだ気づかれてはいないよね?

この2つの悪魔にだけはあたしの目的を知られちゃいけない。本物のベステトも薬師も桃ちゃんも勝てなかった神を超越した化け物なのだから。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ