15・ありがとう
「セリカ。さっきから遠回しな言い方ばかりで意味が分かりづらいのですけれど」
コーネリア様にどうして女の子が生まれなかったのかという説明をしているのだけれども、コーネリア様はあたしの説明に首をかしげている。
「ですからね・・・・・の時はあまり・・・・・ならないようにしてください」
「だから、どうして肝心なところで小声になるのですか?」
「ふえーん!だって、恥ずかしいんだもん!」
ラーの目を使ったら、女の子が生まれない原因がすぐに分かりました。
神の力は凄すぎる。調べたい事の全てを。本当に全ての事が見えてしまう。
「そんなに恥ずかしがらないでください。実際にしているわたくしまで羞恥心を覚えてしまうではありませんか」
コーネリア様が頬を染めてうつむいてしまった。
「あう。ごめんなさい」
ラーの目で見たら、獅子王とコーネリア様の夫婦の営みが赤裸々に全て見えてしまった。あたしはキスもした事がないし・・・・・あ、キスはされてた。仔猫の時だけれども。
とにかく、ちゃんと女の子の姿の時にはキスさえした事がないのに、獅子王とコーネリア様の大人の愛し合いはあまりにも衝撃的過ぎて、しばらくあたしの頭の中はショートしていた。
コーネリア様に揺さぶられて、やっと正気を取り戻したけれどもコーネリア様の顔を見たら、あの苦悶と快楽の混じり合った悩ましい表情を思い出してしまい、1人で恥ずかしくなるし。
なんとか説明を始めても、コーネリア様を視界に入れる度に、痙攣するように悶えて体を仰け反らせている凄いシーンの数々が脳裏に浮かんで口ごもってしまう。
だいたい獅子王は乱暴なようで丁寧に攻める。焦らしたり、集中的にきたり。あんなに激しく濃厚に愛されたら誰だって身も心も蕩けてしまう。
コーネリア様は息も絶え絶えで体も痙攣しているのに獅子王の体力は尽きる事もなく、さらに容赦のない愛をどんどん注いでくる。朝にはもう疲れ果てて腰も立たないコーネリア様の姿と満足そうに眠る獅子王の姿があった。
こんな夫婦の営みをしていたら、女の子が生まれにくくなるのは当然ですよ。
「ですから、えち。する時。気持ち良くなる。ダメ。です」
「どうして片言?」
「もう。できるだけ気持ちが恥ずかしくならないように工夫しているんですから、このくらいは大目にみてください」
「そんな涙目で訴えなくても」
要点だけを上げると、まず獅子王の子種はX染色体が著しく少ない。Y染色体が受精すると男の子が生まれ、X染色体が受精すると女の子になるのだけれども、獅子王の場合は普通の男性に比べてX染色体の数が極端に少なかった。
原因は怪物じみた強靭な肉体になった事に対する副作用みたいなものだ。突き詰めれば特異技能システムのバグとも言えるけれどね。これだけでも獅子王から女の子が生まれる要素は極端に減っている。
さらにいけないのはコーネリア様と獅子王の夫婦の営みだった。
獅子王のしつこくて激しい愛し方がコーネリア様を極限まで感じさせてしまう。そのために有り得ないくらいに赤ちゃんの通り道がアルカリ性になっていた。
酸性ならY染色体は弱るので数が少ないX染色体にも受精のチャンスがあるけれども、感じすぎて体内がアルカリ性になっているコーネリア様の体では、どうしても男の子が生まれやすくなってしまう。
この世界は肉体をいつまでも若いままに保てるほどの魔法があるのに、どうしてこんな基礎知識が無いのかな。
魔法があるからか。研究と分析に時間を費やさなくても魔法というズルがあるから、正規の科学が発達しないのかもしれない。地道に努力している間に魔法やスキルで簡単に目的を遂行しちゃうからね。
「という事ですから、女の子ができるまでは淡泊な夫婦の営みをしてください」
コーネリア様の広い部屋に獅子王を呼び出して、女の子を産むための注意事項の説明をした。排卵日の2日前にする事などの基本はもちろん押さえているよ。
それにしても、どうしてあたしがこんな生々しい内容の説明をしなければいけないのか。うん。自分で言い出した事だね。
男の子と手をつないだり、肩をくっつけたりとか、そういう事を想像しただけでもどきどきしてしまうのに。キスよりもずーと先の事をなぜ、あたしは説明しているのだろう?
自分でも不思議になってくる。
「お言葉ですがセリカ様。それは承服しかねます」
あたしが神だと教えたら、コーネリア様の言った通り本当に獅子王はあたしに対して大人しくなった。けれども、営みに関して譲れないものがあるみたい。でも、それだと女の子が生まれないんだよ。
「コーネリア様の望みであり、願いなんですよ。それでも駄目なんですか?」
あたしが畳み掛けると獅子王も言葉に詰まる。
浮気ばかりしているどうしようもない旦那さんだけれども、コーネリア様を愛しているのは本当だと知っている。
「コーネリアの願いは俺ももちろんかなえてやりたいと思っております。しかし、交尾の時だけは雄として手を抜きたくはないのです。全力で雌と交尾をするのは雄の本能ですから」
獅子王の交尾は全力出し過ぎだと思うなぁ。
「それともコーネリアは俺が交尾の手を抜いても良いのか?」
「わたくしは貴方の熱い愛を受けている時はいつも幸せでいっぱいです」
「それならばコーネリア。お前も俺の思いは理解できよう」
「でも、やっぱり女の子が欲しいのです。女の赤ちゃんを産みたいの。お願いです。どうか、女の子が生まれるまでは、わたくしを感じさせないで下さい」
コバルトグリーンの澄んだ瞳に涙をためてコーネリア様が真剣にお願いしている。これには獅子王もたじろいでいます。
「むう。そうか。お前がそれほどまでに願うのならば善処しよう」
お、やった。良かったね、コーネリア様。
「ありがとうございます。貴方」
「しかしだ。俺も善処するゆえ、お前も耐えよ」
「え?」
「え?」
獅子王の言葉に思わずコーネリア様と声がハモっちゃったよ。
何、淡泊な営みじゃ満足できないから浮気を大目にみろって事?
ジト目であたしが獅子王を見つめると、獅子王は慌てて口を開いた。
「セリカ様、誤解です!」
「どう誤解なんですか?」
「コーネリアに耐えよと申したは夫婦の営みの最中の事。如何に俺が淡泊を心掛けようとも、長年コーネリアとしてきた事ですからどうしてもある程度は。長い年月を経て互いの愛は何物にも代え難く。それに伴い体も感じやすくなっておりますから」
獅子王の言葉にコーネリア様の頬がほんのりと赤く染まる。
まんざらでもないみたい。
「はい。わたくし、貴方との愛の営みの快楽に耐えてみせます。必ず耐えて女の子を産んでみせます」
「うむ」
抱き合いながら2人の世界に入っちゃいました。
獅子王がコーネリア様をお姫様だっこしてどこかに連れて行ってますけど?
え、早速ベッドですか。
もう子作りを始めるんですね。
いえ、早い方が良いでしょうから構いませんけれども。
獅子王が熱っぽいまなざしでコーネリア様を見つめながらドレスに手をかけているし、される方のコーネリア様も潤んだ瞳で獅子王を熱く見つめている。
これは2人共、絶対に燃え上がるよ?
目の毒なので、あたしはさっさと部屋を退散しました。
これ、生まれてくるのは男の子の予感しかしないんだけれど。
翌日の朝。
コーネリア様はベッドから起き上がる事もできないほどだったそうです。
全然だめじゃん。
その日のお昼過ぎになって、やっとコーネリア様が姿を現した。
獅子王とコーネリア様とあたしの3人だけで食事をする事になっていたので、まだ体がだるそうなのに無理をしてベッドから出て来てくれたのだ。
獅子王。あんた、ちっとも手を抜いてないじゃん。
コーネリア様ったらまだ昨晩の余韻が残っていて、頬がほんのり赤くて色っぽいままなんですけれど。
テーブルに運ばれてくる料理はどれもいい香りがして食欲をそそられた。
昼食が始まると、あたしはさっそく料理に手を付ける。
はう。
パルメザン風味チキンポテトにオマールエビそっくりな甲殻類のステーキソテーに何だかよく分からないけれどジューシーなお肉だとか異世界ならではの謎の料理がいっぱいだけれども美味しいです。大統領が用意させた昼食だけあって見た目も豪華。
神だから、いくら食べても太る心配もないしね。生まれて初めて食べる最高のお料理を心ゆくまで堪能しました。
食事が終わってデザートのブラウニーパフェみたいなものを頬張っていると、コーネリア様があたしの顔をにこにこしながら見ているのに気がついた。
「コーネリア様?」
「セリカの食べているお顔がとっても幸せそうだったので見蕩れてしまいました」
「あう。お見苦しいものを見せてしまって申し訳ありません」
夢中で食べているところをしっかり見られてしまっていた。恥ずかしい。
「そんな事はなくてよ。幸せそうに食べているセリカの姿は可愛いくてたまりません。このままずっとセリカの食べている姿を見ていたいです」
コバルトグリーンの瞳が優しい。コーネリア様はあたしの事を娘のよう見てくれている。嬉しいよ。でも、喜びの感情が胸の奥からこみ上げてくるのをぐっと抑える。
「やはりここを出て行くのですか?」
コーネリア様が寂しそうな声で呟いた。
そう。あたしは今日、イスパルタから旅立つ。
その事を伝えたからこそ、獅子王は昼食会を開いてくれた。
獅子王とコーネリア様が夫婦喧嘩をする時は必ず成層圏よりも高い所でするという約束をしてくれたので砂漠のサンドワームも大人しくなるだろう。これで山羊のおじさんや奥さん。牛のおじさんも安心だ。
ルーカス。
あの人もサンドワームと戦う危険を冒さなくて済む。
もう、サウス・セリアンスロープに心残りはない。本来の目的に向かって進める。
「もっとゆっくりされてはいかがですか?俺もコーネリアもセリカ様が居てくれるのは大歓迎です。我が国にとっても心強い事ですし」
獅子王が引き留めてくれようとしている。獅子王の言葉は素直に嬉しいし、あたしの事を想ってコーネリア様が寂しそうなお顔をしているのを見ると胸が苦しくなる。
あたしはいらない子じゃない。
そう感じられる事がどれほど嬉しいか。
ここは優しい。温かい。ずっと居たい。離れたくない。
「獅子王様。コーネリア様。大変お世話になりました。日が暮れる前にそろそろ出立しようと思います」
あたしの言葉に2人は沈黙する。
そして静かに頷いてくれた。
日が西に傾き出した頃、あたしは宮殿の門まで来ていた。
コーネリア様と獅子王が見送りに来てくれている。
大統領と大統領夫人が見送りに来ているからだろうけれども、他にもたくさんの人達が大勢見送りに来てくれた。虎の騎士団長のトラヴィスに狼の騎士団長のランドルフの姿も見えた。
「それじゃ、行ってきます」
つい、そう言ってしまった。
「いってらっしゃい」
鈴の音のような澄んだ優しい声でコーネリア様が応えてくれる。
行ってきます。
いってらっしゃい。
それは帰るべき家から出る時に使う言葉。
いつかそこに戻ってくるという意味がある挨拶。
帰りたい。
またここに帰ってきたい。
短い出会いなのに、信じられないほど親しみが湧いてしまった。
あたしを優しく包んでくれる人達。山羊のおじさんと奥さん。牛のおじさん。ルーカス。コーネリア様。おまけで獅子王。
この人達の居る国。
サウス・セリアンスロープ。あたしの好きな国。
向かうは江梨花さんの存在が残る地。江梨花さんの前世の人・エリカさんの教会だ。教会があるのは大陸最大版図の大国・バルト帝国の領土内。
江梨花さんを救い出すんだ。
そして江梨花さんを救い出したら、またここの様子を見に帰って来よう。その時にはコーネリア様がお腹に女の子を授かっていたりして。
その方がコーネリア様にとっては幸せだろうからね。
ほんのひと時でも娘のように見てもらえて嬉しかった。
ありがとう。コーネリア様。
優しくしてくれた人達にありったけの感謝を込めて。
「ありがとう」
2章終わりました。
次のお話から3章になります。




