表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の作り方  作者: 水宮
第1章・地球への異世界転生
12/63

12・愛しています




学校での昼休み。

私は3年生の教室に行き、芹歌せりかさんに声をかけました。


芹歌せりかさん。私に付き合ってください」


いつも側にいる3人の女の子達との給食を食べ終わった芹歌せりかさんは、後片付けをしながら私を白い目で見ます。


「悪いけど男にしか興味ないから。女同士で付き合うとか有り得ないから」



「私だってありません。というか分かっていてわざと勘違いした発言をしていませんか?」



「何、あたしに意見?生意気チビ」



「はい、生意気チビで結構ですから。今日は芹歌せりかさんと行きたい所があるのです。宜しければ私と御一緒していただけませんでしょうか?」


自分に関わろうとする者には、取りあえず足元を引っかけるような事をしないと気が済まない性格の芹歌せりかさん。この人にとって相手を小馬鹿にしたり、意地悪をするのは挨拶みたいなものだと私は悟ったので軽く流しています。



「あんたと一緒に行って、あたしに何か得する事でもあるわけ?」



「別に良いですよ。公園で芹歌せりかさんが私に甘えて抱きついてきた事を・・・・」



「きゃー!やめろ。言うな!」


周りの目を気にする芹歌せりかさんに本気で口を塞がれました。



「私と御一緒していただけますか?」



江梨花えりか。おまえ、おぼえてなよ」



「はい。おぼえておきます」


私が笑顔でおぼえておきますと答えたら、今度は芹歌せりかさんの顔色が急にすぐれなくなりました。あれ?


「いえ、いいです。おぼえてなくて」


ふぇ?芹歌せりかさん。急にどうしたのでしょうか?

芹歌せりかさんのお顔の色がいきなり悪くなり、言葉も急にしおらしくなったので私は戸惑いました。


後からベステト様に教えていただいたのですが、不敵な笑みを浮かべる私に芹歌せりかさんは大騒ぎになったベランダでの一件を思い出してしまい、調子に乗った自分がまた私に追い詰められるのではないのかと恐怖したからだそうです。


今の芹歌せりかさんにそんな事は絶対にしませんから。

むしろ憎まれ口さえも可愛らしくて愛おしいです。






帰りの会が終わると私は急いで玄関に向かいました。

玄関でしばらく待っていると芹歌せりかさんが私の前にやって来て、嬉しそうに声をかけてきます。


江梨花えりか。お待たせ」


芹歌せりかさん。クラスメートの前で私と会っている時と二人きりの時では態度が違いすぎます。そんなに皆さんの前だと、私と仲良くするのが恥ずかしいのですか?

少し、ショックなのですけれど。


私は芹歌せりかさんと一緒に、校門前で待たせているハイヤーに乗りこみます。



「本当にタクシーに乗って行くんだね。江梨花えりか、お金は大丈夫なの?」



「はい。ハイヤー代をお母さんからもらっているので大丈夫ですよ」



「そういえば、あんたのパパは国会議員だったね。金持ちのお嬢様はいいね」


これは、いつものおふざけの嫌みではなくて、少し本当の嫌みっぽいです。

私が一般家庭よりも裕福な環境にいるのは事実なので否定はできません。

小学校の頃から時々言われたセリフなのでだいぶ慣れましたけれど、それでもこういう事を言われるたびにお友達との間にちょっぴり距離を感じてさみしくなってしまうのです。



「ごめん、江梨花えりか。そんな顔しないで。あたしが悪かったから機嫌直して。ね!」


よほど私のお顔は落ち込んでいるように見えたみたいです。

芹歌せりかさんに余計な気づかいをさせてしまいました。

気をつけないといけません。


「今、芹歌せりかさんが優しい言葉を私にかけてくれたから幸せになりました」



「なっ、なに恥ずかしい事言ってんのよ」


私の言葉を聞いて芹歌せりかさんがちょっとお顔を赤らめてそっぽを向いちゃいました。でも本当なのですよ。

他人の気持ちを気づかう芹歌せりかさんの姿を見れて嬉しくて。しかもその気づかった相手が私だったので余計に嬉しくて、幸せな気分なのです。




ハイヤーはお隣の鎌倉市を越えて逗子市に入りました。134号線を道なりに走ると披露山公園が左手に見えてきます。右手には相模湾に面した海が青々と広がっています。目的地までもうすぐです。


江梨花えりか。そろそろどこに行くのか教えてくれてもいいでしょ?」



サーファーショップを過ぎた所でハイヤーが止まりました。


「着きましたよ。芹歌せりかさん」


どこに何をするために行くの?と聞かれても教えなかった私に焦れて、芹歌せりかさんが尋ねた時がちょうど目的地に到着した頃合いでした。タイミングバッチリです。


ハイヤーを降り、大きなマンションを見上げて私は芹歌せりかさんに話しかけました。


芹歌せりかさんの目に触れる事も叶わなかった消える運命の品物でした」



「いきなり何の話よ?」



「貴女の叔母さんの残した物です」


私の言葉を聞いた芹歌せりかさんの動きが止まりました。

長い時間沈黙していたような、ほんのひと時であったような。

そんな静かな沈黙の後に芹歌せりかさんの声がマンションの前で響きます。


「え、なんで?どうして江梨花えりかが?」



私は芹歌せりかさんの手を優しく握ります。

そして笑顔で芹歌せりかさんに言いました。


「叔母さんが残した芹歌せりかさんへの品物がここにあるのです」



エレベーターでマンションの4階に下りて左に進むこと5つ目の扉の前で私達は立ち止まります。古さを感じさせる玄関のインターホンを鳴らすと少し声の枯れた女性の声がインターホンから聞こえてきました。


「はい」


私はインターホンの女性の声に答えます。


大津賀友里恵おおつがゆりえという者の身内の者ですが疋田美晴ひきたみはるさんですか?」


大津賀友里恵おおつがゆりえとは芹歌せりかさんの叔母さんの名前です。

そして疋田美晴ひきたみはるさんは、この部屋の住人であると同時に芹歌せりかさんの叔母さんが入院していた病院で叔母さんのお世話をしていた看護婦さんです。



「え、大津賀おおつがさん?」


インターホンから聞こえる声が少しだけ高くなり、慌てて玄関の扉を開ける音が聞こえてきました。私は芹歌せりかさんの手を握ったまま、玄関から少し下がって相手を待ちます。



「貴女が大津賀おおつがさんのご親族の方?」


扉を開けて出てきたのは60歳前後に見える女性でした。間違いありません。ベステト様に見せていただいた情報通りのお姿です。この方が疋田美晴ひきだみはるさんです。私は疋田美晴ひきだみはるさんにお返事しました。


「何の連絡もせず、突然おしかけてしまいまして誠に申し訳ございません。実は偶然、私の知り合いから疋田ひきださんの所に入院していた大津賀友里恵おおつがゆりえさんの手帳があるかもしれないというお話をうかがったもので、居ても立ってもおられず失礼しました」



「あら。やっぱりあの大津賀友里恵おおつがゆりえさんのご親族の方なのね。でもずいぶんとお若いようだけれど」



私は再度お辞儀をして疋田美晴ひきだみはるさんにお答えしました。


「実は私の隣にいる女の子は大津賀友里恵おおつがゆりえさんと深い御縁がございまして」



「この方が?」


疋田美晴ひきだみはるさんが芹歌せりかさんを見て小首を傾げます。

私によって、知らない人のマンションにいきなり連れてこられて、知らない人に見つめられた芹歌せりかさんは戸惑った表情を見せます。当然ですね。芹歌せりかさん、ごめんなさい。


「私の隣にいる女の子の名前は鷹蔵芹歌たかくらせりか大津賀友里恵おおつがゆりえさんの姪御さんです」



鷹蔵芹歌たかくらせりか・・・・・・芹歌せりかちゃん?貴女があの芹歌せりかちゃんなの?」


疋田美晴ひきだみはるさんの瞳に光が差しました。

嬉しそうなほっとしたような。そんな表情を浮かべて疋田美晴ひきだみはるさんは芹歌せりかさんを見つめました。



「あの・・・・・」


状況がまるで分からない芹歌せりかさんは戸惑いつつも、たった一つの心の支えだった叔母さんが関わっている事だけは理解して、自分から疋田美晴ひきだみはるさんに尋ねようと口をひらきます。



「取りあえず、あがってちょうだい。散らかっているけれどごめんなさいね」


疋田美晴ひきだみはるさんは芹歌せりかさんの手を引いて玄関から中に入れてくださいました。私も一緒にお邪魔させていただきました。


リビングのソファに案内されてお茶まで出していただき、私達が恐縮していると疋田美晴ひきだみはるさんが小さな破れかけの水色の手帳を持ってきてくださいました。



「これは?」


疋田美晴ひきだみはるさんに手渡された表紙の破れかけた手帳をみつめて芹歌せりかさんが尋ねます。



「それはね。大津賀友里恵おおつがゆりえさんが亡くなる寸前まで手放さなかった手帳なの。あの人はいつも芹歌せりかちゃんという小さな女の子の話ばかりしていてね。私なんか一度もあった事もないのにあまりにも彼女が事細かく話すものだから一度は芹歌せりかちゃんに会ってみたいと思っていたのよ」



「叔母さんがあたしの事をいつも話してくれていたの?」



「そうよ。芹歌せりかちゃんは私に似て将来は美人になるだとか。あの子の笑った時の顔は可愛くて可愛くて目に入れても痛くないとか。悲しそうに泣いている顔をみると自分まで胸が苦しくなって辛いだとか。それはもう、毎日毎日飽きもせず」



「叔母さん」


芹歌せりかさんが破れかけの手帳を大事そうに胸に抱く。

そんな芹歌せりかさんの様子を見て疋田美晴ひきだみはるさんは嬉しそうに目を細めました。


「あの人の言葉が耳に残っていたから芹歌せりかちゃんは幼くて可愛い女の子だっていうイメージができあがっていたけれども、あれから何年も経っているのだから大きくなっているわよね。今、中学生?それとも高校生かな?」



「中学3年生です」


芹歌せりかさんが答えると疋田美晴ひきだみはるさんは声を弾ませます。


「でも本当にあの人の言った通りの子ね。美人で可愛い。素直そうな子だわ」


「そんな。あたしなんか」


芹歌せりかさんがうつむくと、疋田美晴ひきだみはるさんが「駄目よ」と言葉を続けます。


「貴女はね。あの人が最後の時まで思い焦がれた大切な子なのよ。あの人が全身全霊で自慢し続けて愛情をかたむけた女の子なのだから。そんな風にうつむかないで胸を張りなさい。貴女はあの人の一番の誇りだったのよ」



「あたしが叔母さんの誇り?」



「そうよ。貴女は自分にとって世界一ですって。その手帳にもたくさんその事が書かれているわよ。見てごらんなさい」



芹歌せりかさんはこくんと頷いて、破れかけの水色手帳を開きページをめくります。


そこには芹歌せりかさんへの叔母さんの思いが綴られていました。




芹歌せりか

この世に生まれてきてくれてありがとう。

私は貴女に出会えた事に本当に感謝しています。

貴女の笑顔を見るたびに私の心は温かくなります。

幸せな気持ちになります。


でも、もうすぐ私はこの世界から消えて無くなります。

もう貴女の笑顔が見られないのかと思うと、元気なうちにもっとたくさん貴女に会っておけばよかったと後悔しています。


芹歌せりか。どうか思いやりのある優しい子になってください。

思いやりも優しさも心の中にある愛情は見えるものではないけれど。

人をとっても幸せにしてくれる素敵なものだから。

大切なものだから。


貴女はこれからも辛くて苦しい思いをしてしまうのでしょうね。

私の唯一の心残りはそんな貴女の側にいられない事です。

貴女が悲しみで小さくなっていても側にいてあげられない。

それだけが心残りです。


死にたくない。

貴女に出会うまでは、自分の命なんてどうでも良かった。

でも今は違う。生きたい。死にたくない。

貴女の近くでずっと生きていたい。

芹歌せりかとお別れしたくない。


芹歌せりか。私はもう、貴女を励ましてあげられないけれど。

どうか、笑顔でいてください。

悲しみを乗り越えて。

思いやりのある優しい子になって。


優しさは自分だけではなく周りの人も幸せにしてくれます。

人に優しさをあげられる人は、周りからも優しさをもらって幸せになれます。


前はそんな事は考えられもしなかった。

でも今はそれを心から信じられます。

芹歌せりか。思いやりのある優しい子になってください。

それが私の最後の願いです。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ