第二話
もうすぐ五月も終わる。
今日は天気がいい。
干し肉を5枚買って齧りながら、いつもと違う方面へ向かっている。
干し肉は便利なのである。食べている最中に何かを見つけても、途中で仕舞うことが出来る。
ヌメシアから歩いて2時間くらいすると、待っていた珍客が現れた。
ゴブリンである。こいつ等は基本的に大人しい。
勝てないと分ってるからだ。
なのに何故出てきたかも分かっている。
干し肉が欲しいのである。
それも分かってて多めに買ったんだが、上手く出会えるのは完全に運でしかない。
このゴブリンと言うのは多少知性があり、人の言葉を少し理解する。
そして俺の場合干し肉の対価として、花がある場所を教えてもらっている。
ゴブリンを案内に使う冒険者は多少居る、俺もその一人だ。
食べかけ以外の干し肉4枚を渡すと、グガガガと言いながら喜んでいる・・・と思う。
後ろに着いて行く事30分程、目的地に到着した。
そしてゴブリンは振り返り、俺を一度見直すと奥地へ帰っていく。
クレマチスの群生地だ。
鉢植えや庭に植える人が多いから、小ぶりなものを探し根から採集していく。
今日は大きめの入れ物や括りつけて背負う物を持って来ているので、
4株採る、欲張って沢山持ち帰ろうとすると、途中で傷んで結果的に安くなる。
帰りに何か有るかもしれないので、少し余裕を持たせての4株だ。
さて来た方角に帰っても何もないので、少し違う道へ向かって帰るとしよう。
動いたから腹が減った、もう少し干し肉を買っておけばよかったと思いつつ
辺りを見回しながら帰路に就く。
半分くらいまで来たところで、カレンデュラを見付けた。
どちらで持って帰る方が良いか分からないものは、取り合えず根から採り持って帰る様にしている。
そんなに大きな物じゃないから、6株採り一纏めにし手に持って町に戻る。
──ルアナ・フラワーにて。
俺を見たルアナ姉さんがいきなり吹き出した。
「あははは、うちは造園屋じゃないわよ」
それもそうだ、どうみてもクレマチスが花屋向きじゃない。
「でも買い取るでしょ?」
「そりゃねぇ、クレマチスなんて持ち込む人アンタくらいだし、それにしても良く見付けたわね。」
「まだまだあったがもっと欲しい?」
そんなに置き場があるように見えるかと言われ見渡すと、確かにそこまで置き場がない。
「あとこのカレンデュラも姉さん買う?」
「ごめんねー、カレンデュラはさっきリーナちゃん達が多めに持ち込んだのよ。」
「んじゃしょうがない。ユーデリさんとこ持ち込むわ。」
「そうしてくれると助かる。」
そしてクレマチスの代金として、銀貨8枚を受け取りルアナ・フラワーを後にする。
ユーデリさんと言うのは町の反対側にある花屋の、五十歳くらいのおばちゃんである。
俺の小さい頃を知っていて、いつも坊やと言って揶揄う。
「こんにちはユーデリさん」
「おや坊やじゃないか珍しい」
「もういい歳なんだから坊やはやめてくれよ」
「あたいにとっちゃいつまでも坊やなんだよ」
そう言っていつもの様に笑っている。
「今日はカレンデュラかい何株あるんだい」
「6株あるよ」
「根から持ってきたのは正解だったね坊や」
ぐぬぬぬ・・・もう坊やと言われるのは諦めちゃいるが、だが恥ずかしいのは変わらない。
「さっきリーナ嬢ちゃんが、切り花で持ち込もうとしたから断ったんだ。これは鉢の方が格段に売れる。覚えておくんだよ坊や。」
「どっちか分からなかったから、取り合えず掘って根から持ってきた。」
「あたいは、坊やのそう言うところ気に入ってんだよ。分からなけりゃどっちにでも使えるようにして採ってくる。手や服が汚れるからってやらない子が多いけどね。」
6株で銀貨3枚で売れた上々の売り上げだ。
「ユーデリさん、明日だけどクレマチス仕入れれるけどどうする?」
「あたいは要らないが旦那が欲しがるかもしれないね、聞いとくから夕方またおいで。」
「そうするよ、高めの買い取りありがとね」
気にするなとばかりの笑顔で俺を見送ってくれた。
「腹減ったな、何か食おう」
ヌメシアは海が近いのもあり、漁業も盛んで魚料理も美味い。
屋台街へ行き、白身魚のフライ三つとサラダと冷えた紅茶を買った。
合わせて銀貨1枚。
稼ぎの良かった日はしっかり食べる。
ボロい長椅子に座り知り合いに声を掛けられたりしながら、ゆっくり味わって遅い昼飯を食べる。
揚げる前にハーブ類でも使ったのか、口の中でいい香りが広がる。
サラダはドレッシングがサッパリしていて美味い。
「今日の昼飯はアタリだな」
食べ終わったので閉まる前に銀行に立ち寄り銀貨5枚を預ける事にする。
嬉しい事に、今日の貯金で銀貨2,000枚を超えたようだ。
この世界は銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨1,000枚で金貨1枚、金貨1,000枚で赤貨1枚となる。
生まれてこの方、赤貨なんて見た事ないがな。
銀貨3,000枚でちゃんとした家が買える、今はまだボロボロの家だけどあるだけマシだ。
銀貨200枚で一年契約だ、寝る事以外する事が無い。
普通は平民でも親がそれなりの家は持っているから、稼いで自分で家を買うまでは実家暮らしで
それほど悪い生活ではないが、俺は孤児だから何とかして稼がなければ家すら失う。
小さい時に戦争孤児となり、軍の人たちにこの村に連れて来てもらった。
だから俺は、軍の人達には感謝している。
そして日課にしている事もあるが、それはまた後で分かるさ。
いい時間になったから、ユーデリさんの店に向かうとしよう。
「ユーデリさん、おっちゃん何て言ってた?」
「8株欲しいらしいよ、これ貸したげるから明日持っておいで」
そういって株を入れて運べる小さい荷車の様な物を貸してくれた。
「(大きな声じゃ言えないが、全部で銀貨20枚だよ頑張んな。)」
久々の美味しい仕事の様だ。
おばちゃんの店を後にし、明日に備えて早く休みたいが
その前に日課がある。
さっきの屋台へ行って、冷えた紅茶を二人分買う。
そして町の入り口へ行く。
「おっちゃーん、差入れ」
そういって村の入り口で立っている、警備兵のところへ行く。
「いつもいつも悪いな。」
「俺は兵士の人に恩返ししたいけど出来る事が、これぐらいしかないんだよ。」
「しかし毎日毎日、差入れにきてたら金が持たんだろ。」
「これくらい余裕なくらいは、毎日稼いでるよ」
「しかしお前を連れて来たのは、俺たちじゃないんだぞ。」
そんなことは百も承知だが、何かしないと俺の気が済まないから、俺の我儘だと思って受け取ってよと伝える。
警備兵は西門・北門・東門・休日をローテーションさせているので、一か所に持っていくと自ずと警備兵の人達全員に渡す事が出来るのだ。
俺は家から近いと言う事で、西門に持って行ってる。
前までは三か所に持って行ってたが、途中で自分の稼ぎなんだから自分の為に使えと説教され、
今は一か所なら良いだろって言って、俺の個人的な我儘を押し付けてる。
そしてサヨナラを言い、明日は稼げると笑みを溢しながら家に帰る。