浦島太郎
『浦島太郎』
やあやあ、お初目お目にかかる方もそうでない方もよろしく!
あたしゃ乙姫ってんだ
ん? キャラが違う? んなもんどうだっていいでしょ? 今の人間なんてあたしんこと本とかでしか読んだことないんでしょ? しかも、曖昧な記憶の爺さんが語り継いだ伝説の存在だっけ? 何か知らないけどいい迷惑よ。まぁ、あれよ……浦島の兄ちゃんが着てたときは流石のあたしも猫かぶるけどね
被りに被るわよ海の乙姫とは言っても猫を被るのよ!
あと、勘違いしてることをとりあえず言っておくと、浦島太郎というのはどの時代にも必ず一人いるの。そして、ここからが新事実よ。浦島太郎っていう名前は実はこっち……つまりは竜宮城での呼び名なの。だから、本来の名前はまったく別よ!
さて、じゃあそろそろちゃんとお話しましょう。ここからはあたしも猫被っちゃうわよ?
イメージが崩れすぎてるから被るなら傷が浅いうちに? うーん、実はもう遅かったりするかもだけど……ゴホン、では改めまして。
私竜宮上の乙姫というものです。
これから私がお話しすることは事実です。
皆様が退屈せずにお話できれば幸いなのですが、なにぶん若輩者の私としましては技術がないもので退屈させてしまうことも多々あると思いますが、最後までお付き合いいただければ私としましても幸いです。
では、お話します。
あれは今から1000年前のことです。
子供たちが亀をいじめていた。
弱いものいじめはよくないと父母から私は言われている。
私はそれが当たり前のように亀を助けた。
最近の子供というのは怖いものだ。いじめをやめてとっとと帰ればいいのに私に金を要求してきた。仕方がない。払ってあげよう。子供の雇図解程度であれば私の所持金からでも十分であろう……そう思ったのが運のつき。
気づいたときには財布後と奪われていた。あぁ、亀など助けようと考えた数分前の私本当に馬鹿なことをしましたね。
「もし」
そこに渋いイケボ……失礼渋くてかっこいい声が聞こえた。
亀を助けたところを見ていた誰かが私の財布を取り返してくれたらどれだけうれしいことか。周囲には誰もいない。どうやら私はあまりのショックに幻聴まで聴こえるようになったらしい。
「もし」
もう一度声がする。いよいよ駄目だなと思いつつもとりあえず返事をすることにした。
「はい?」
「助けてくださり感謝します」
周囲に人はいなかったが、下を見ると私の目を真剣に見つめる亀の姿があった。
「あぁ、亀か……亀……亀!?」
「すまんな、本来ならしゃべってあんな子供たちを追い払ってやってよかったんだが本能がそれを拒んだ気がしてな」
「うわぁ、めんどくっせぇ奴助けちまった。こんな痛いかめぜってぇめんどくせえよ(いや、私も気がつくのが遅くて悪かったな)」
「あんた、心の声しゃべってるだろ」
「…………ところでそんなしゃべれるか目がどうしてこんなところで子供たちにいじめられていたんだい?」
「それが俺にもわからないんだ。暇つぶしに海に出て流れ着いたらここだった」
「行き当たりばったりかよ。じゃあ、とっとと海帰れよ」
「待ちな兄ちゃん、ここであったのも何かの縁だ。どうだい? 俺に乗ってこの大海原に冒険としゃれ」
「こまないからさようなら」
「待って!! 俺をおいていかないで!」
つくづくめんどくさかった。正直今すぐ帰っても文句言われないと思うレベルである。てか、きっと誰も言わないし気持ち的に帰りたい。私は財布まで奪われているわけだし
「助けられた亀は助けた人を竜宮上へ連れて行くというルールがあるのです。そのためにどうかついてきてください」
「急にしゃべり方変えたな。そんな重要なの?」
「そうです、よく言うじゃないですか。家に着くまでが人助けだって」
イラッ
「おいおい、お前この期に及んでまだ俺から大切なもん奪っていく気か?」
「おっと、こりゃずいぶん嫌われちまった。ですが、お願いします。この通りですから」
亀はそういうと頭を一度下げた……ような気がした。亀のお辞儀なんて私がわかるはずがない。しかし、こう見るとかわいそうな気がする。仕方がないか。
「いいよ、行ったらすぐ帰るからな?」
「はい、それでお願いします!」
いくらなんでも必死すぎるだろ。
内心そう思ったが、私はその言葉は心の中に閉じ込めて亀にまたがり海へと進む。
あれ? これ人が見たら私がいじめっ子になっていないか?
と気にしてはいたが、そんなことお構いなしに亀は『猛ダッシュ』で海へと入った。
てか、まじめに思う。こいつどうしていじめられてた?
海の中では人間は息をすることができない。常識である。
しかし、亀が何かの木の実らしきものを私にくれそれを食べたら不思議と息ができるようになった。
「亀よ」
「はい、なんでしょう?」
「竜宮城はどこにある」
「水深一万尋とかってのを聞いたことがあるんだけどね体感的にはもっと泳いでる気がしますよ」
「そりゃずいぶんと遠いところで。私はそこで息ができるのか?」
「これまた不思議な、あなたは今息をしているじゃないですか。それが全てですよ」
「効果はいつまでだと私は聞いているのだよ」
「陸上へ戻るまでですね」
「そうか、それはいいや。で、あとどれほどでつく?」
「まだ水深二千ってとこですよ? まだまだです」
「退屈だな。何か話してくれないか?」
「いいでしょう、私の出生は長くなりますよ」
「チェンジで」
「…………どんな話がいいのですか?」
「海の話とか竜宮城の話をしてくれよ。どうして私が君の出生に興味を持たなくてはいけない?」
「竜宮城はこの地球に海ができると同時に誕生したといわれています。どうやって生きていられたとかどうやって生まれたのかとかはまったく分かっていません」
「ふうん、食事とかはどうしてるんだ? やっぱり共食い?」
「あなた最低ですね。まさかと思いましたが最低ですね」
「海の生物はそういうものじゃないのか? 特に鮫とか鯱とかはそうでしょう」
「竜宮城の生物は共食いはしないよ。代わりに、ある植物が生えるのです。それは食べる人の好みの味になり、飽きないように少しずつ味も変わります。活アルコールも入る場合もあり程よく酔うことやべろべろに酔うこともできます」
「その植物って何だ?」
「竜草というものです。正確にはその実を食べるんですけどね。色形は普通なのですが食べ物をがっつり食べたいとなるとちょっと物足りないと感じるかもしれませんね」
そんなことを話しているうちに海底に山が見えた。
深海に来ているはずなのに太陽の光が差し込んでいるような錯覚を覚えるほど明るい。
そして、その山は真っ白で雪が積もっているのかと思うほどきれいなものであった。
「あの山はなんだ?」
「真珠ですよ」
「あれが全てか?」
「えぇ、陸上では珍しいと思いますがここではそうでもないんですよ。それどころかごみになる。帰りに持って帰りますか?」
「いただけるものだったら是非」
「はい、わかりました」
「あと、どうしてここはこんなに明るいんだ?」
「ここは地上からの太陽の光を通しません。代わりに人工の太陽を作ることに成功しています。だからこんなにあかるいんですよ」
「だが、それならいつかここがばれてしまうだろ?」
「それは平気です。今この場所が見つからないようにする不干渉システムというのを作っている最中です。人間たちがこの海、深海にもぐってくるころにはここへ来ることは不可能になります。もちろん、あなたのように亀を助ければ別ですがね」
「亀限定なのか?」
「はい、亀限定です。他のは他の恩返しがあります。例えば鯉は鯉になる夢を……貝なら真珠を与えられます」
「貝を助けるべきだったか……」
「ここ来るの全否定!?」
それはそうだ、子供に財布を取られきたくもない海の中へと来て何をするかも分からずこんな……こんなでかい城につれてこられるとは……。
「ようこそ、竜宮城へ」
亀は私をおろすと私の胸辺りまでふわふわと浮かんでいる。
「さて、行きましょう」
「私はどうすれば?」
「とりあえず乙姫様にあいさつしましょう」
「いるのか?」
「もちろん、あなたの目の前に」
「え? ……うわっ!?」
亀の言うとおり本当に目の前に人がいた。
人間界では決してお目にかかれないような美しさだ。
一目ぼれというのは迷信のようなものだと思っていたがこれは本当に有ると言わざるを得ないかもしれない。
「どうかなさいましたか、浦島太郎さん?」
乙姫は私にそういった。
だが、その声は声として捕らえていいか分からなかった。それほどまでに甘く透き通った声で誰もを魅了するであろう美声だった。
「えっ、あ……あのぉ」
「鼻の下伸ばしてさっきまでの威勢はどうしたんですかまったく」
「うるさい亀」
「ふふふ、うちの亀島と仲良くしてくださってありがとうございます。亀島さんを助けていただいたということですのでほんの少しですがお礼に食事でもいかがでしょうか? こちらにはあなたが臨むだけいてくださってかまいませんよ」
「えっ、そんな長居はするつもりはないのですが……」
「ほら、乙姫様もそんなこと言われると困るだろ。とりあえずありがとうございます程度でいいんだよ」
……どうしてこの亀島? はこんなに威張っているのだ? もしかして乙姫より位高い?
「ほらほら、亀島、浦島さん困ってますよ」
「あっ、そういえばどうして浦島って呼ばれてるのですか?」
「すみません、この竜宮城では人間を呼ぶときはみなそのように呼ばなければいけないという決まりがあるのです」
不思議な決まりがあったものだ。
それからここでの生活に馴染むのはあっという間だった。
乙姫はほとんど姿を見せず、自分の部屋に閉じこもることが多かった。
私はというと亀島からお勧めされた竜草を食べたり呑んだりして楽しんだ。
衣食住全てにおいてここは満足できるところだったが、人とのコミュニケーションがとれないということが不満であった。
話し相手は常に亀島。
他の生物と話すにしても魚であったり蟹であったり海老であったりととにかく人間ではない。
正直な話、そいつらやいたりさばいたりしたほうがおいしいのではないのかと思うほどであった。
「亀島さん、私そろそろ帰ろうと思うのですが」
「もうですか? まだ一週間ぐらいですよ?」
「もう一週間ですよ」
「帰ったら二度とここへは戻ってこれませんよ?」
「それでもかまわないよ。一生分のよくは満たせた気がするからね」
「わかりました。では、乙姫様に伝えてきます」
そういって亀島は乙姫の下へといった。
しばらくして帰ってきてこういった。
「乙姫に帰りの見送りを頼まれたのでまた乗ってください。寂しくなりますねここも」
「お前はこの海でいつまでも楽しめるだろ」
「たまに陸上上がりますよ」
「二度と助けないからな」
「まったく、ひどいお方だ。それはそうと、これ乙姫から渡されました。なんか、生活に困ったら開けるように伝えてくれとのことでしたね」
それは貝殻でできた箱であった。
きれいな貝殻でこれを売れば結構な価値があるのではと思えるような品である。
「はい、つきましたよ」
「あれ? 行きより早くないか?」
「前に言った竜宮城の不干渉システムができたんで不干渉部までショートカットできるようになったんですよ」
不干渉システムができた?
「竜宮城の技術って進んでるんだな」
「俺はここで待ってるんで用が済んだら一度戻ってきてください。それも乙姫からの伝言でした」
「分かった、ちょっと家の様子を見てくるな」
私はそう亀島に伝えるとすぐに自分の家に……つけなかった。
それどころか辺りに家がない。
人気もない。
遠くに知らない建物が建っている。
なんだこれ……。
「亀島さん、ここはどこだ?」
「浦島さんと初めて出会ったところです。ただ、何年後かは分かりかねますが」
「は? なんで?」
「竜宮城と人間界のときの流れは違うんです。いいませんでしたっけ? 鶴は千年、亀は万年……それは違う時間にすんでいるからそう感じられるだけなんですよ。だからあなたも……」
「待ってくれよ、じゃあ私は」
「はい、もう身内は愚か知っている人もいないでしょう」
「そんな……なんだよそれ……そうだ、この貝……確か生活に困ったら開けろって言われたんだよな?」
「はい、そうです」
私はもしかしたらこれで過去に戻れるかもしれないと考えた。
生活とは自分の環境に合わない場合もいうと考えたからだ。だったら、これを開ければ!
パカッ
箱を開けるとシューっと白い煙が立ち込めた。
私はその煙の量に驚き思わず前に倒れてしまった。
「うっ……亀島さん大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
白い煙がようやく晴れて、視界がよくなったときに目に映ったのは亀島さんではなく、一人の老人だった。
それもとても年配という感じだ。
百歳は優に超えてそうな人だ。
そして、私自身困ったことに立ち上がれない。
「すみません、ご老人。よかったら手を貸してもらえませんか?」
「思い……だしました。そうか、私『も』浦島と呼ばれた。私も浦島太郎だった」
「は?」
「浦島さん、これが乙姫様からの呪いですよ。蓋を開けた人を亀にして近くにいた『亀』を『人間』に戻すんです。そうだ、どうして俺はこんな大切なことを忘れてたんだ」
「待ってくれ、じゃあ私は……」
「はい、第二の人生……いえ、亀としての生を楽しんでください……ヒャッホーーーーーーーーーーーーーーーーー」
そういい残して亀島らしき老人は走っていった。
それこそ、老人とは思えぬスピードで。
私は動けなかった。
傑作よね!
竜宮城で浦島と呼ばれ続けた人は地上で亀になるのよ。
どこで歪曲して人間が老人になるってなったのかしらね?
何でこんなことをするかって? 竜草を食べたからよ。あれって作るの大変なのよ?
それこそ大量の生き物が死ぬほどに。
あたしはそんなの嫌だからね。死んだ仲間のために楽しんだ分だけ恐怖を与えるの。
そして、この浦島も子供にいじめられるという道を選ぶのかしらね? いい加減そのパターンには飽きてきたんだけど仕方ないわよね。
こんな感じで人間には無限ループさせてるの。普通に生きてたら味わえない体験をさせてあげる代わりに何百年か亀としてすごさせるの。短い亀だと50年ぐらいかしらね?
みんなも亀がいたら助けてあげてね?