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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

命の欠片たち

涙の向こう側

作者: 羽入 満月

「彼女のいた夏の終わり」のいじめられっ子視点でも書いてみました。


本当はこの話から載せようかと思っていましたが、最後になってしまいました。


<注意>前の作品を読んでから、読んでください。

    話が分からないと思います。

「彼女のいた夏の終わり」


 私は「がんばれ」という言葉が嫌いだ。

 がんばっているのにがんばれなんて言ってほしくない。

 それは、その人ががんばってないと思っているから出る言葉だと思う。

 がんばれというのであれば、なにを、どう、がんばればいいのかを言ってほしいものだ。


 私は、「大丈夫」と聞かれることが嫌いだ。

 大丈夫じゃないのに大丈夫かと聞かれたくない。

 もし、自分がその立場だったら、「大丈夫なのか」を考えてからいってほしいものだほしいものだ。


 私は、この学校が嫌いだ。

 救いも光も差し込まない、暗い道を、進んでいるのかわからない道を一人歩いているようだから。

 そして、私の前に現れるのは、せっせと穴をほったりわなを仕掛けるいたずら者のみだ。


 私、神田(かんだ) 奈緒(なお)は、この学校が、ここに通う生徒が、この学校に勤める教師が、そして自分自身が嫌いだ。


 特に顔のつくりがいいわけでもない、性格がとっても悪いわけでもない。何をとっても『ふつう』だった。

 確かに泣き虫で、怒るときだって泣いてしまうような性格だった。

 だからと言って、涙を武器にして世渡りをしていこうなんて思ってもいないし、そんなことできない。



 小4の時、いじめが始まった時は、ターゲットは私一人ではなかった。

 靴隠しは、ゲームの一貫。

 私をいじめをしているのは、部活での一個上のセンパイだった。

 気に入らない子に意地悪をする、その気に入らない子の一人が私だった。

 そのいじわるから逃げるように部活へ行かなくなり、そのセンパイに触発された同級生から、クラス内でのいじめが始まった。

 タイミングの悪いことに部活の顧問と担任が一緒だった。

 教師になって3年目の彼女は、自分の受け持つところでいじめなんてあるはずがないと思っていた。

 だから、なぜ部活に来ないのか。なぜクラスメイトと馴染めないのかと私を責めた。

 先生のすぐそばで、悪口を言われて私が怒った時には、廊下に引きずり出され壁を背に首を絞められるかと思うほどに詰め寄られ怒られた。

 なぜ、そんなことをするのか。と。

 必死に「今、悪口を言われたから怒った。」と説明すると、「あぁ、そう。」とそそくさと教室に戻って行った。そして、「悪口を言った人は、先生はわからない。」といった。


 目の前で、言ったのに?わからない?


 その瞬間、先生という生き物に期待しなくなった。

 その一件があってから、学校に行きたくなくなった。

 毎朝、痛くもないお腹が「痛い」といい、学校を休んだ。

 母は、とても心配をし、病院にも連れていってくれ、クスリも買ってくれた。


 それがとても申し訳なくて。

 だって、お腹なんて痛くないから。

 ただ、行きたくないから嘘をついてる。

 行きたくない理由を母に言いたくない。


 だって、姉がいじめられているから。

 まったくそういう話は私の耳には入ってこなかったけど、姉と母の態度を見ていればわかる。

 そこで妹の私まで「いじめにあっています。」なんて言えるわけがない。


 それに、

「学生は、学校に行かなければいけない。」

「子供は、たくさん遊び、たくさん勉強しなくてはならない。」

 それすら守れない私は、なんなんだろうと考えた。


 そう思ったら、一週間でずる休みをやめた。

 休む前と何も変わらず学校へ行く。

 変わらず悪口を言われ、靴を隠されるけど、とりあえず明るくふるまった。そして笑った。

 室内履きを隠されて、一人だけ体育館シューズでいても、運動靴が無くなっって、室内履きで、登下校することになっても、私は笑った。


 先生にも親にも相談しなかった。

 その選択肢は、私には与えられなかった。


 中学に入っていじめはエスカレートした。

 学年中が彼女を無視し、すれ違いざまに毎日何十回と「死ね」「帰れ」「消えろ」と言われる。仲間外れはあたりまえ。ついて出る言葉は悪口ばかり。

 一年目の一学期で、笑うことができなくなった。

 二学期の途中で、泣くこともできなくなった。

 二学期の終わりには、必要最低限の会話以外しなくなった。


 ノートに靴跡がついていたり、消しゴムをぶつけられたり、下駄箱に掃除で出た綿ぼこりなどのごみを入れられたりした。

 朝、登校すると机がひっくり返っていたり、ひっくり返っていなくても黒板消しをはたかれたらしく、真っ白になっていることもあった。

 持ち物を壊される、盗まれる、溝にも捨てられた。

 家庭科の授業で作った作品だって壊された。

 それでも毎日学校に通う。

 いない間になにを言われるかわからない。

 休むと次の日、出ていくのに勇気が要ることも知っていた。


 悪口を言われに学校へ行き、爪が食い込むまでこぶしを握り締める。奥歯をかみしめ無表情を装う。

 泣きそうなときは視線を一点に定めて、違うことを考える。耳には悪口が入ってきても、それを聞きながらひたすら考える。


 好きな歌。

 好きな小説。

 好きな漫画。

 好きなドラマ。


 必死に考えて泣かないようにする。


 三年生になった時には、ボロボロだった。

 朝起きて、朝ごはんを食べる。

 食欲はないが、食べないと母に心配をかける。

 でも、食べたらトイレへ行って、吐く。

 そのあともう一度席に着き、ご飯の続き。

 学校に行きたくないと思いながら登校し、一日を過ごす。

 家に帰ってくるとまずトイレへ。

 そしてまた吐く。

 夜ご飯だけは普通に食べれたが、小食なので普通の人より少ない。

 お風呂に入り、布団に入っても眠れない。

 毎晩月を眺めながら、自然に涙がこぼれる。

 何回かに一回、イライラして、叫びたくなったり、自分を引っかいたりもした。

 そして眠るのは明け方。

 6時30分には起床。

 また一日が始まる。


 そんな人生だったから、いつ死ねるのかを毎日考えていた。

 みんなが「死ね」って言うのなら、殺してくれと思った。

 でも誰も殺してくれない。

 自分で死のうと思っても、怖くてできない。


 今まではそう思ってた。

 だけど。もう。駄目だ。


 そう思って、準備を始めた。

 まずは、いつどこで誰が何を言ったか、したかを書き留めた。

 そしてボイスレコーダーを電気屋で買ってきた。


 これからどうする?

 全員を殺すのは現実的じゃない。学校を燃やすのは助かる人が出てくるからない。

 あのろくでなし達のために人生棒に振って犯罪者としてその先の人生を送るなんてばからしい。


 じゃあ自殺。

 そこでふと思う。

 どうやって死ぬか。

 そこまでして、一人で首を吊るのは嫌だ。


 じゃあどうやって?

 授業の時に飛び降りる?

 それじゃあその瞬間を見た人と見ていない人が出る。


 なら。

 みんなの前で首を切ろう。

 そう。派手に血をまきながら死んでいこう。

 忘れられない時を置いて逝こう。


 そう思い、ホームセンターで一番大きなカッターを買う。


 証拠がそろうまで半年待った。

 その間は、スカートのポケットに入れたカッターを握り締めながら耐えた。

 本当は、「今だ」と思う瞬間は何度もあった。

 でも、まだだと思い、必死に耐えた。


 そしてついにその時が、きた。

 朝夕は冷えるようになったが、日中はまだ暑い9月の半ばの昼下がり。

 授業内容は数学だった。二次関数の単元らしく、黒板には十字の線が書かれ、その上にUの字が書かれていた。

 外ではミンミンとセミたちが夏全盛期と比べれば静かになったが、元気よく鳴いていた。


『いつものように』いじめっ子グループ(男子)の主要三人のうちの一人が、回答を黒板に書きに出て帰ってきた彼女の足を引っかけた。

 幸い、転ぶことはなかったが、席に戻った彼女の横を通った、いじめっ子グループ(女子)のリーダーである笹本が彼女の席の隣を通った時に『いつものように』

「死ね」

 といった。


「そんなに死んでほしいなら、自分が死ねばいいのに。」


 いつもは言わない一言。

 案の定あいつらは乗ってきた。

 口ぐちに私のことをネタにする。


 思わず笑みがこぼれそうになる。


 タイミングを計り、静かになったところで席を立つ。

 スカートのポケットからカッターを出す。


 ---カチカチカチ。

 カッターの刃をだし、自分の首にあてる。

 心臓はバクバクいうし、手が汗でべたべたする。

 それでも、表情が表に出てこないように一生懸命自分に言い聞かせる。


 今まで無表情ができていたから大丈夫。落ち着け。


 先生がいろいろと言ってくる。

 その言葉に、まるで自分の中に別の人がいるかのように、口から勝手に言葉がこぼれる。


 あいつらも口ぐちに乗ってくる言葉を聞くと、本当にどうしようもない奴らだと再認識した。


 本当に笑ってしまうほど。


 淡々と作り笑顔を浮かべながら話が進んでいく。


 相手の言葉を聞いていたら、泣いてしまいそうになるから、わざと話を勝手に進めていく。

 相手の反応なんか気にしてる余裕なんてない。


 途中で、泣きそうになって、熱いものがこみあげてくるけど、それと同時に冷たい氷の塊をのみこんだよう熱いものを押し戻していく。


 その時思った。

 ああ、私はもう、泣けないんだ。と。




 彼女が言った。

「どうすればいいの?」と。


 意地悪な質問をしたな。と思いつつ、彼女を見た。

 彼女は必死に考えて、絶望をその目に浮かべる。

 その光景に笑みがこぼれる。


 本当は、死にたくない。


 誰かに止めてもらいたいのが本音だ。

 だから彼女の発言は、うれしかった。


 でも、これ以上話をしてしまったら、本当に止めてもらったら。

 許してしまいそうで、「いいよ」って笑ってしまいそうだから。


 だから、私は死のう。


 そして一人でさみしく死んで、「あぁ。そんな奴いたな。」と思われるより、より多くの人の心をえぐるような死に方をしよう。

 そう決めていたから、ありったけの『勇気』を持って。

 それが、私の精いっぱいの生きたあかしだから。


 そう思うと、涙がこぼれそうになる。

 ついさっき、もう泣けないと思ったのに、やっぱり私は、泣き虫だ。


 本当に泣いてしまう前に。

 笑って許してしまう前に。

 この『勇気』があるうちに。


 私は、自分の首を、自分で切った。



 目の前で散る赤い花弁。


 カーテンを巻き上げた風の向こうに、どこまでも澄み切った青空が見える。


 あぁ、薄水に赤はなんてきれいなんだろう。

 この世界は残酷で、どこまでも美しいのだな。


 泣きたいのに、もう涙は出てこない。


 そんなことを思いながら、私の意識は闇の中に沈んでいった。


いじめっ子視点、いじめられっ子視点と同じ題材で3作書きました。

良かったらほかのも読んでいただけると嬉しいです。


おつきあいいただき、ありがとうございました。


いじめっ子視点

『正しい選択・最善の選択』


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