第1話 あの日から今日で
「今日で1年になるのか……」
真壁高校の昼休みもそろそろ終わりを迎えようとしている。
鳴海大和は、携帯電話の待ち受け画面を見ながら、母親か作った弁当を食べている。
「大和、何してんの」
「あ、唯」
大和に話しかけてきたのは、クラスメイトで幼馴染の冴島唯だ。
「ボケっとしてるなんてアンタらしくないわね。あ、またヒロ兄の写真でも見てたの?」
「!!」
大和は顔を真っ赤にして、慌てて携帯電話を机の中にしまう。ヒロ兄とは、大和の2歳上の兄、鳴海千尋の事だ。
「……もしかして図星?」
「わ、悪いかよ!別に見ててもいいだろ!!」
「確かに、今日であれから1年経つから、写真も見たくなるよね」
あの日ーー鳴海千尋が行方不明になったあの日から、今日で1年が経つ。
千尋は1年前の今日、大和と一緒にライブに行く筈だった。渋谷で行われた、大和が大好きなロックバンド『night walkers』のアルバムリリースを記念したツアーの最終公演。
大和はあの日、先にバス停で待っているように千尋に言われ、言われた通りにバス停で千尋が来るのを待っていた。だが、千尋はいつまで経っても来る事は無く、その結果、大和はライブを見れずに、泣きながら歩いて家へと帰った事を今でも鮮明に覚えている。
「まだ、手掛かりは掴めていないの?」
「ああ。だけど、今日か明日あたりに早見さんから連絡があるから、その時に何か分かるかもしれない」
早見恒彦は、1年前から千尋の捜索を担当している刑事だ。毎週に1回は、大和に捜索の結果を伝えてくれている。
しかし、千尋を探す為の手掛かりや証拠は未だに見つかっていない。なので、大和も心の片隅で次はこそは何か分かっているという期待と同時に、諦めを感じていた。