序章
「チケットが手に入ったぞ」
鳴海千尋は、弟の大和にそう言って自慢げに2枚のチケットを見せた。右手に持っていたそれは、大和が大好きなロックバンド『night walkers』のライブのチケット。
大和は、恐る恐るチケットを凝視する。
「それってまさか…」
「そう!ツアーファイナルの渋谷アンダーグラウンド公演!!友達が行けなくなったから、1枚譲って貰ったんだ」
千尋は、高校の友人と一緒にnightwalkersのライブに行く予定だったが、その友人が急用で来れなくなってしまったのだ。
「お前、代わりに行くか?」
「え、いいの?」
「いいよ。まだ行った事無いだろ?」
大和は、千尋よりもnightwalkersの大ファンだった。千尋が持っていたCDをたまたま聴いていて、今ではすっかりnightwalkersの虜である。だが、『まだ中学生だから』という理由でライブに行く許可が親から出ず、高校2年生の兄をいつも羨ましく思っていた。
「でも、母さん怒らないかな?」
「大丈夫だって。母さんには俺から言っておくから」
「ありがとう、兄ちゃん!」
中学校最後の夏休み、大和にとってこれほど嬉しいことは無かった。
1ヶ月後、大和はライブに行かなかった。
行かなかったというより、行けなくなった。
何故なら、その日に千尋が行方不明になったからだ。原因は今でも分からない。
千尋が行方不明になってもう1年が経つ。
大和はもう、高校生になっていた。