二十話
なにかが噛み合うように。
「……はっ。」
体の熱が戻る。
心臓よりなお深い場所から沸き上がる熱は失った血の代わりに全身をめぐる。
「……あははっ。」
あつい。
だけれども、不快ではない。
体にたまった熱を吐き出そうと息を吐けばそれは、いつのまにか笑い声の形になって。
「あハはハハっ。」
この感覚は知ってる。
とっても懐かしい。
あぁ、これは器が満たされる感覚は。
「痛みに狂いましたか?」
あぁ、女が何か言っている。
痛み?そうだこの体は怪我をしていた。
無理に手を動かそうとするとやけつくような痛みがはしる。
「懐かしいですね。」
非常に。
痛みとは、こんな感覚でしたか。
右手は無事だ。
メスを握った腕を動かして。
そのまま、左手の傷口を抉るように貫く。
訝しげにこちらを見る女にニヤリと笑い。
立ち上がる。
なんの障害も無いように。
「なっ。」
手の甲からメスを引き抜けば、貫通し神経を傷つけていた傷口は最初からなかったように消えてなくなる。
手とメスを赤くそめるいまだ赤い血だけが過去が幻で無いことを伝える。
両足もしっかりと地面を踏む。
うむ、うまくいったようで何より。
「な…ぜ………。」
「なぜ?奇妙なことを言う。
あなたはこれを望んだのだろう?」
くすくすとアルマが笑う。
「あなたは、私がこのメスの所有者であると言った。」
「あなたは、私が殺人鬼であると言った。」
「あなたは、私が悪魔付きであると言った。」
「だから、私が呼ばれた。」
「深い底で。」
「深淵の内で。」
「灰の溜まり場で。」
「死者と生者の境界線で。」
「彼女が呑まれるその瞬間に最初に触れた一滴として。」
「あなたの望み通り。」
「私は悪魔付きとなっただけではないですか。」




