十五話
鈍い銀の色。
あのメスは隊長さんが自信満々に言っていた証拠の品。
斬っても伐っても切れ味が落ちることの無い魔法の品。
……魔女の遺物。
いえ、魔女の異物と言うべきですね。
この世界の理から外れた結果をもたらす物。
そう、そんなものが切れ味が落ちない程度の効果しか無いわけがないのに。
あの、不可視の攻撃も異物のせいなのでしょうか?
それとも、彼自身の?
……考えても答えが出るはず無いですよね。
それに私のやることは決まっています。
焦燥感の代わりに高揚感が理性を急かし。
漠然とした不安は全身にはる力へと代わります。
出所のわからない全能感に酔いながら、私は彼に向かって一歩踏み出します。
踏み出す度に、徐々に歩幅は大きく兎が跳ぶように軽やかに。
近づいていく私を、迎撃することにしたのか彼は何度もメスを握る腕を振ります。
その度、私は左右や後方。
果ては壁を利用して上へと私は回避し、その度に周囲の壁に傷が刻ます。
時たま、牽制のような攻撃が混じるためどうしても後ろに避けないといけない時があり、なかなか私と彼との距離は縮まりません。
また、彼の腕が振るわれます。
不可視の槍のような攻撃は、通路の壁に傷を増やしました。
近づけない。
じりじりと、時間だけが過ぎていきます。
このまま、私が避け続けても一度直撃しまえば恐らくは私は物言わぬ骸となるでしょう。
それほどまでに、彼の攻撃は鋭く早い。
「……逃げたいですね。」
八方塞がりな状態に思わず呟きます。
彼からの反応は勿論無く、ただ無造作に腕が振るわれるだけ。
誰に強制された訳でもないのに、私の足は頑として避けることに動いても逃げることには働いてくれません。
何か。
何か無いでしょうか。
この状況を打開する何か…。
師匠の拙い説明が頭をぐるぐると回ります。
夢…夢………夢。
教会…名前…………教会?
前にも、前にもあった。
名前を名乗ってはいけないと、教えられて特別な場所へ行ったことが。
あれは、練習したとき。
特別な加護に満ちた場所で。
私は
あまりの自分の間抜けさと師匠の説明の下手さにため息を一つついて。
なれた、祈りの言葉を
「渡り鳥の名において」
口にする。
「旅人の風を請いましょう」
彼が銀の軌道を描くのが見える。
痛みへの恐怖に鳥肌が立つけれど、声を震わせるわけにはいかない。
大丈夫。
ここで、失敗するはずがない。
「導き手を」
「此処に。」