十二話
「な、んですか…これ?」
ツヴァイの声にアルマが瞼を開けてみれば今まで聞こえなかったのが不思議なほどの多種多様な活気に満ちた音が耳に飛び込んでくる。
目を指す光に思わず何度か瞬きをして。
そうして見えてきたのは…アルマ達が暮らすミスティアの煉瓦の町並み。
今居るのは、丁度ツヴァイの家の玄関先。
道の舗装、ガス灯の位置、建物の配置。
ベースになっているのは確かに何度か見たことがある景色なのに、それらに近視感を覚えることが出来ないほどめちゃくちゃだ。
なにがめちゃくちゃって、まず落書きがひどい。
道のど真ん中に数字と文字が混ざった式のようなものが書いてあると思えば
向かいの建物にはどうやって書いたかも検討もつかない、大きな×印が色を変えながら描かれてる。
ガス灯には過度のお祭り用の装飾品が乗っけられていて、ガス灯の光を乱反射していて目に痛い。
ガス灯同士もカラフルな紐で繋がれていて、街路樹にいたってはクリスマスでもこんなに派手ではないだろうというような極彩色の葉を風に揺らしている。
建物だってぎりぎり原型がわかる程度に魔改造されていて、壁が崩れてるのなんて当たり前で二階の窓があるべき場所から廊下が突きだしその上でバランスよく露天が開かれている。
行き交う人々も祭の時にやってくる旅芸人のようなあるいは騎士のような派手な格好をしている人々が多い。
それも誰も彼もが仮面を被り、楽しげな様子で町を闊歩していた。
「なにって…『街』」
「……説明してくれるって言いましたよね?」
「…前提知識がないやつに話すのめんどうなんだよなぁ……。」
ぶつくさと言うツヴァイもアルマが苛立ちげに睨むとため息混じりに口を開きました。
「あー、まず此処は夢んなかだ。夢だから色々出来るし夢だから変なことも沢山ある。いちいち突っ込んでたらきりないから…まぁ、見た目とかな。気にすんな。」
「…………夢?では、師匠もゆめ?これは夢…?確かに、ベットから動いた記憶はないですが。」
「夢っても色んなやつと共有出来る特殊な夢でなぁ。やり方さえ覚えれば夢を現実に反映出来るし逆もまたしかり。それで引き起こされるのが俗に言う呪術の基礎だなぁ。」
「呪術って……じゃぁ、此処にいるのは全員魔女?!」
「いんや、元々此処に住んでるよく分かんない奴等とか上位存在とか……場所によっては教会の人間もいるしなぁ。
それに…………今はちと境界線が弛くなってっから一般人も混じってる時もあるなぁ。」
「一般人って……私みたいな?」
「お前みたいな。……まぁ、あんまり治安は良くないと思っててくれ。基本的に自分の身は自分で守れるやつしか来ないとこだからさぁ。」
ツヴァイは少し皮肉下に笑った後、アルマの頭に帽子をかぶせる。
アルマは帽子のつばを持ち上目でそれが何か確認する。
外せばいいのに。なんてツヴァイは思う。
まぁ、それだけアルマも混乱しているのだろうと思い直しからかいの言葉は飲み込み、年相応の姿ににやつくだけにとどめた。
「えっ?私の麦わら帽子?」
「この街の中は顔を隠すのがマナーで名前も名乗っちゃダメだからな。」
「…………名前もですか?」
「理由はもろもろあるけど名乗ると危険な目に遭いやすいから止めとけよ。」
そういうツヴァイは少しだけ頼りになりそうで。
それが何故か腹立たしく、アルマは返事をせずに帽子を深く被りなおす。
横目でツヴァイを見れば何時も着ている白いコートを脱いで紺色のローブを着ていて。
ついさっきまで白コートの説明も渋るような駄目な師匠だったくせに。
フードで少し顔が隠れたツヴァイは他人のようで。
なんだか、むかつく。
「早く用事済ませて帰りましょう、師匠。」
「わかったから、ローブを掴むなこれ一張羅なんだから伸びる伸びるって。」
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