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第一話 “変わらないはずの日常”

 一般的に俺の家族は異常らしい。いや、異常だと言っても過言ではない。はっきりと断言できる。どれだけ憎悪しようとも、どれだけ嫌悪されようとも、仮にも自分の家族だ。そうでなくとも限りなく家族に近い他人だ。どれ程歪かくらい、さすがに分かる。

 たとえ、それがどれだけ理想的な家族に見えたとしても、そんなのは嘘だ。虚像だ。

 一度、実像を見ることをお勧めする。そしたら、きっと理解できるはずだ。

 一方通行な愛情のみで構成された、歪な家庭がどれ程醜いものなのかが。

 愛情と偽って、欲情でそれに応える歪な人間がどれ程くだらないものなのかが。

 一方的に依存して、双方的に腐っていく。そんな|家庭(過程)が、どれ程馬鹿らしいものなのかが。

 だから、だからこそ『平凡』でありたいと願う俺は何度でも言おう。


――俺の家族は『異常』だ。


と。







 第一話 “変わらないはずの日常”







「ん……」


 目が覚めた。視界一杯に広がるいつも通りの緑色がそこにはあった。


「ああ、なんだ、朝か」


 まだ若干残っていた眠気を完全に払い、寝袋から出る。

 狭い自宅のドアとも言えないドアを開け、今まで伸ばし切れなかった身体を目一杯伸ばし、今度はちゃんとした純白を見る。


「いやー、今日も気持ちの良い朝だ」


「全く、相変わらず君は朝限定で爺臭いな」


 突然頭上から声がした。女性、というよりは少女に近い声。俺がいつも聞く、毎度お馴染みとも言える声だ。


「何だ、生徒会長じゃないですか。どうしたんです、こんな朝っぱらから。まさか、校則どころか法律すら破るギリギリのラインのストーキング行為でもしてたんじゃないでしょうね?」

 毎度お馴染み、と言える理由はそこにある。

 声の主――伊藤紬いとうつむぎには、極度とまではいかないが、ストーカーの気がある。というか、俺に依存している。

 何故、と聞かれれば、答えにくいモノがあるのだが、まあ、簡単に言ってしまえば『傷』の舐め合いの後遺症、あるいは副作用みたいなモノだ。


「ストーキング行為、というのは聞き捨てならないかな。元々、私を『こう』したのは君の方じゃないか」


 彼女は至極不満そうな顔をしつつ、塀の上から飛び降りた。


「まあ、『それ』については認めますよ。何せ貴女を仲間にすれば、俺の社会的地位は飛躍的に向上しますからね」


 彼女にはレッテルが貼られている。レッテルと言えば悪い印象を与えるかもしれないが、実際はそうでもない。『生徒会長』、『財閥のご令嬢』、『頭脳明晰』、『容姿端麗』、『運動神経抜群』、etc、etc……。むしろ、かなり好印象なモノばかりだろう。

 まあ、彼女は嫌がっているみたいだけど。


「はぁ、顔が冷笑わらっているよ? 何考えてるのか、バレバレなんだけど」


 彼女が若干表情を歪めた。苦笑いと呆れを、足して二で割ったら、きっとこんな感じになるだろう。


「大丈夫、わざとですから」


 堪えなければ、と分かってはいるのだが、どうしても口角が吊り上がってしまう。やっぱり、天才の自虐程醜いモノはないと思う。今の俺は、きっと酷く歪んだ表情をしている。鏡が無いにも拘らず、何故か確信する事ができた。

……そして少しだけ、彼女が何とも言えない顔をしていた理由が分かった気がした。


「それはそうと、君の『両親』はどうしているんだい?」


 俺の顔が見るに堪えなくなったのか、彼女は話題を変えた。だが、俺に『両親』の話を振るのはナンセンスだ。いや、あえてそうしたのか。彼女は、良くも悪くも聡明だ。

 でもまあ、今回ばかりはタイミングが悪かった。

 俺は彼女を呆れた様な視線を送り、黙って自宅の隣――あと、十数歩で着いてしまう程近くにある、少し大きな二階建住宅を、ダルそうに、本当にダルそうに指差した。


「……何だい?」


「いいから、黙って耳澄ましてください」


 言われた通りに彼女は黙り、目を閉じてしっかりと耳を澄ませた。


「……なるほど、そういう事か」


 いくらか経って彼女が発したのは、その一言だった。絞り出したの方が正しいかもしれない。何故なら、彼女の顔はこれ以上にないほど嫌悪に歪んでいたのだから。


「いやぁ、すまなかったね。まさか君の『両親』達が、こんな朝っぱらから盛ってるなんて思いもしなかったんだ」


「まあ、土曜ですからね。会社も学校も明日はないですし、何よりも、アイツらで言う『愛』が溜まっていたんでしょう」


「『愛』……ねぇ。これならまだ、風俗店や路上強姦の方がマシに思えてくるよ」


「確かにそうですね」


 ククククッ、ハハハハッ。どちらともなく嘲笑わらいが漏れる。本当に凄いな、あの人達は。ほんの数瞬で人をここまで不快にさせることができるなんて。

――まったく、反吐が出る。


「話は変わりますが生徒会長、今日は何でここに?」


「あぁ、そうそう忘れてた。これを渡しに来たんだよ」


 そう言って、彼女は紙袋を手渡した。


「これは?」


「着替えだよ、今週分の。後は生活費。十万円位で良かったよね」


「珍しいですね、いつもは日曜なのに」


「そうかい? 私は毎日来るから、そうでもないんだけど」


「サラっとストーカー癖を暴露しないでください」


 さっき以上に呆れた、というより、呆れ果てた視線を彼女に送り、俺は自宅に戻ろうとする。


「ふぅ〜ん、未だにそんなボロっちいテントを使ってるんだ」


「まあ、慣れですよ。よく言うでしょ、『住めば都』って」


「じゃあ、今の君はさしずめ『四面楚歌』ってとこなのかな?」


「勝手に言っててください。俺はもう寝るんで」


「二度寝かい? いいよねぇ、二度寝。特に休日の二度寝なんて最高だ」


 いかにも何かしてほしそうな目で俺を見る彼女。


「で、結局何が言いたいんですか?」


「一緒に寝よ!」


 突然幼児の様な――本来の態度に戻った彼女が、ずかずかと自宅に入っていく。


「……まあ、いいんですけどね」


 相変わらず崩せない呆れ顔と共に、彼女に続く。

 取り敢えず、二度寝の時に見た夢は、とても素晴らしいモノだったという事は追記しておこう。







 これが、これこそが俺――持仲佑哉の日常。望んで、諦めて、呆れて、求めて、失ってできた日常。

 凡そ平常で、平均で、平淡な――『平凡』な日常。

 俺が俺である為の日常。

 所詮、虚像。ピントが合っていくに連れて、消えていくだけの、仮初めで偽りの日常。

 俺の、変わらないはずの――変わらなかったはずの日常。


 皆さんお久しぶりです。相当な遅刻をしてきた紅い?です。

 やっと書き終えました。……まあ、駄文なんですけど。


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