猫と話せる少年
「所詮、その程度だったんだよな」いつも話してる猫に猫じゃらしを向けながら僕は呟いた。
猫は猫じゃらしを見つめながら言う。「そんなことないよ。いつも、君はそうやって諦めるんだ」
「猫に理解されてたまるかよ」と僕は溜め息をついた。
「私も君に猫語を理解されては困るんだけどね。だから、お相子様だよ」猫は前足で耳を掻いた。
「理解したくて、理解したんじゃないよ」
「君は早く、人間を理解した方がいいよ」猫にまでそんなことを言われてしまった。「私は、君は人を理解できないんじゃなくて理解しないようにしてるのが見えるよ」
「知るかよ、そんなの」僕は、猫じゃらしを捨てた。猫は飛んでいく猫じゃらしを目で追って、動くこともなく、僕を見つめた。
「そうやって、逃げるんだ」にゃぁ。と笑った。「だって、君は分かってるはずだ。私よりも、こんな猫よりも、自分自身のこと、分かるはずだ」
「もう、苦い思い出でしかない。」
猫は笑うのをやめた。
潤んだ大きな瞳で僕を見上げた。
僕は掌をすっぽりと収まる猫の小さな頭に乗せた。優しく撫でる。
「私は、君のそんなところが嫌いだ」猫はそう言って、僕の手から逃げた。
また、いなくなった。
また、来てくれるならうれしいな。
明日は違う猫かも知れない。
もしかしたら、犬かも知れない。
あぁ、犬はあんまり好きじゃないんだな。
もしかしたら、大嫌いな人間かも知れない。
あぁ、アイツ等は苦手だな。
もう、失うのは嫌だな。
僕は、あぁ。と明るい水色をした空に向かって呟いた。
その言葉は、天に昇る訳でもなく、僕にそのまま落ちてきた。
僕は身体で、自分の呟きを感じた。
それはただ、悲しみの湖にまた一滴、悲しい水が増えただけだった。