タロウさん
一瞬で読み終わる短篇小説です。
読み終わった後、どのような感情に襲われるかを味わってもらえたらと思います。
僕は時々、タロウさんとお話しをします。
タロウさんはいつも、僕の住んでいるアパートのベランダから入ってきます。
僕はその度に「やめてください」と言うんですが、タロウさんは言うことを聞いてくれません。
タロウさんはいつも、ワインを一本持ってきます。
持ってきても自分だけで飲もうとします。
だから僕はワイングラスを買いました。
それからのタロウさんは、ワインを二本持ってきてくれるようになりました。
タロウさんは僕といるのが嬉しいんだと思います。
だって、タロウさんは僕を時々褒めてくれますから。
「おまえは気品がある。」
「昔の華族の生まれ変わりだろう。」
とか。
「おまえは金運が良い。周りに影響をあたえるくらいに。」
「その根拠に、わしはワインが二本買える。」
とか。
でも最近、そんなタロウさんが小さく見えます。
タロウさんも、年なのでしょう。
白髪頭で背中は丸まっています。
僕の声も時々聞こえないみたいです。
目も悪いんでしょう。
部屋が明るいのに、「ここは暗いなぁ。靄がかかってるようだ。」と、言います。
歯も入れ歯で、ワインを飲み終わった後、隠すように水道で洗ってます。
タロウさんは隠しているつもりでも、僕にはわかっています。
ベランダをよじ登るのも、前はもっと速かったです。
ワイングラスを持つときに、手が小刻みに震えます。
その手はシワシワで、カサカサです。
タロウさんは楽しい話をしてくれますが、何回も同じ話しを話します。
寝るのも20:00に寝て、4:00に起きます。
そんなタロウさん。
僕の唯一の友達だと思っています。
今は足の骨を折って、肺炎になって、調子が悪くてご飯が食べれないそうです。
鼻に入れたチューブが胃まで通っていて、栄養剤を入れているみたいです。
老人ホームのベッドで寝たきりだと、近所の方から聞きました。
でも、今度お見舞いに行こうと思います。
ベランダから入って、ワインを二本持って行こうと思います。
(おしまい)