間違いさせ屋
「間違いです。はい、私は岡本ではございません。」
「失礼します。」
ガチャ、ツーッツーッツー・・・
「そうなんです、僕はとにかくよく間違われます。
間違い電話も日常茶飯事なんです。
はい。留守電にも間違い電話が入るんです。
これ、よかったら聞いてみます?」
自信が無さそうに携帯電話を私に差し出す少年。
「ピ・・・ただいまの伝言、10件。午前9時05分・・・」
「ピー・・・もしもし?何回か電話したんだけど、、、出ないから。
えーっと、、、これから行くから。ユウちゃんの好きな煎餅買ったんだけど、明日試合でしょ?私も見たいから。
えっとね、10時には着くと思うからね。・・・ピー」
女の声だ。
年は40から50歳というくらいか。
一人暮らしの子供に電話したのか。
少し子供に気を遣いすぎているようだ。煎餅なんかも買っている。
この後突然現れた母親を目にしたユウちゃんは、どんな言葉をかけたのか。
気になるっちゃぁ気になる。
「他は?」と、私は聞いてみる。
「これなんですが。。。」
小さい声だ。
蚊の泣くような声ってやつか。
「ピ・・・ただいまの伝言、10件。午前11時55分・・・」
「ピー・・・今どこにいますか?先々月からお願いしていた支払いの方、そろそろお願いします。
何処に逃げても無駄ですよ。
今、ご自宅の前にいますから。
娘さんと奥さん、テレビをみて笑ってますね。。。ガチャッ・・・ピー」
男の声。丁寧な言葉遣いの中に、どこか人の心を追い込んでくる。
とても嫌な声だ。
借金取りか、この後ハッピーエンドには、まずならないだろうと確信する。
でもやっぱり、気になるっちゃぁ気になる。
「こんなのもありますけど。。。」
少年は調子にのってきているのか、自主的に携帯電話を私に差し出す。
「ピ・・・ただいまの伝言、10件。午後11時13分・・・」
「ピー・・・おーい!みんな飲んでるんだけどぉー、待ってるからぁ。
てか、おまえ”アシ”なんだからさぁー、気を遣えよなぁー。
ほんと、待ってるからさぁ。さっさと来いよ!! ガチャッ・・・ピー」
理不尽な男の声だ。
自分が良ければそれでいいんだろう。
胸糞が悪くなる。
「まぁまぁだ。」
私は自信の無い少年に向かって言う。
「ぁ、ありがとうございます。」
少年はペコリと頭を下げる。
「とりあえずここに住め。そしてこれが鍵だ。」私はここのアパートの鍵を少年に渡す。
「ここに住んでどうすればいいんでしょうか?」困った顔で少年は言う。
「ここに住んでいるだけでいい。
住んで、隣の部屋のターゲットを、お前のその”間違えさせる能力”で困らせる。
それだけだ。」
私はたたみ掛けるように少年に指令を出す。
「ぇーっと、それじゃぁ・・・」
「そう、今日からお前は”間違えさせ屋”だ。」
少年は再び自信無さそうに、ペコリと頭を下げる。
(おしまい)