かかし
「チュン」
「チュンチュン。」
俺の両肩から指先にかけて、スズメが何羽もとまっている。
やれやれだ。
もちろん、俺が被っている麦藁帽子の上にもいる。
本当にやれやれだ。
俺が「かかし」にも拘わらずだ。
そう、あの田んぼに立っている、あのかかしだ。
あんた、見たことあるだろ?
もし爺ちゃんがこの姿を見たら、どう思うだろうね。
「なんじゃ!その姿は!!スズメから田んぼの稲を守るのが、我々かかしの役目だろうが!!」
あ~、わかってる。
わかってるさ。
わぁってるんだけれども、しかしあれだ。
時代だよ。
時代の流れってやつなんだよ。
最近、かかしの数が減った気がする。
多分減った。
なんか、あの、銀色の風船みたいな奴とか、人間のCDとかいう、丸い円盤をぶら下げたり。
需要ってやつか?
確実に。減ってきた。
でも、俺にも考えがあるんだな。これが。
まぁ、いわゆる、転職ってやつだ。
職を変える。
そういうことだ。
職を変えるには、このままボォ~っと立っているわけにはいかない。
それなりに身軽に動けるほうがいい。
体中に敷き詰めている「藁」の細胞壁を柔軟にして、限りなく細胞膜に近づける。
自由に鳴った両腕。
そこにとまっていたスズメが勢い良く飛び立つ。
顔の部分の口を動かし、「うおーーーい」と、声を出してみる。
田んぼに潜んでいたスズメが一斉に飛び立つ。
「こりゃいいや」
風に揺れる稲穂。
「これ、そんなに美味いのか?」
人間が一番好きな食べ物、「米」。
一回くらい食べても良かろう。
稲穂から一掴みの米を口へ運ぶ。
「・・・。」
「まずいな。。。」
こんな不味いものを大事そうに育てている人間。
なんという愚かな生き物なんだろう。
あまりに愚かだ。
愚か過ぎて涙が出るぜ。
(おしまい)