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夏泥棒

「夏が嫌い」っていう人が多いです。

少なくとも私のまわりには。


でも、仕方ないんです。

彼らは夏を盗まれただけですから。


世の中にはいろんな泥棒がいます。


下着泥棒


自転車泥棒


おしゃれ泥棒


云々かんぬん。。。




やっぱり、一番多いのは、夏泥棒なんじゃないですかねぇ。

少なくとも私のまわりには。

「うごくなよ、おい。」


突然私の後ろ側から、凄みの効いた声が聞こえた。

男の声だ。


まわりの空気が震えるように低い声だ。


背中には何か突起物があたる。

おそらくナイフか拳銃か。


とにかく穏やかではない状況が、この狭いトイレ(大)の一室で起きている。



「おまえの夏をもらいに来た。」

凄みのある低音の声は私に宣言した。

そして私は全てを悟った。




こいつは「夏泥棒」だと。




「おまえ、カブトムシ嫌い、だろ? ゴキブリと、どこが、チガウ?」

夏泥棒の手口だ。

こうやって夏のイメージを悪くしていく。

低音のある声が、トイレの中の空気を震わす。



「おまえ、蝉、嫌いだろ? うるさいし。」

たしかに。と私は思うが、返事をしない。


「おまえ、夏祭りのヤンキー、嫌いだろ?」

大きくうなずく。彼らは気温と共に熱くなる。


「おまえ、夏休みのラジオ体操、嫌いだろ?」

早起きが苦手なんだよね。


「おまえ、TUBE嫌いだろ?」

あの人たちから夏を奪ってみなよ。

あの人たち、尋常じゃないくらい夏が好きだからさ。


「おまえ、夏、嫌いだろ?」

「はい」と私は、つい答えてしまう。



やられた。

夏を奪われる。





気づけば夏泥棒は私の左側に立っている。

そして私の左の耳の穴に、長いストローを入れてくる。


手慣れた手つきだ。

無駄な動きが一切ない。


こいつは夏泥棒のプロに違いない。


私の中の「夏が嫌いになっても、まぁ、いいか」という部分にストローを入れてくる。


夏泥棒は深くまでストローが入ったのを確認すると、ストローに口をつけ、勢いよく吸い込む。

すると、私の体の中の夏が吸い取られていく。



3分くらい吸われたか。私の中にある全ての夏を奪われた。




力なく倒れる私。


そんな私を、不敵に笑いながら見つめる夏泥棒。





すると、夏泥棒の背後から


「動くなよ、おい」

と、乾いた声がした。

すぐにでもリップクリームが欲しくなるくらいの、湿度0%の乾いた声だ


「お前の冬をもらいに来た」




夏泥棒は悟ったような表情で、冬を奪われた。




その場で倒れこむ夏泥棒の右の耳の穴にストローを入れ、私は夏泥棒の全ての秋を吸い取った。


私は四季の中で、秋が一番好きだ。




<おしまい>

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