第五十三話 巨砲満州大地にて咆哮す
皇紀2603年7月10日
大日本帝国:帝都
陸軍参謀本部
陸軍士官1
「第八国境守備師団から入電!連合軍の侵攻を確認せり、我之より迎撃に入る、以上」
東條英機
「来たか、満州方面全軍に警戒警報発令、総力を持って連合軍を迎え撃て」
陸軍士官2
「了解!満州方面軍に警戒警報を発令します」
東條英機
「いよいよ、我ら陸軍の出番だ」
この時のために整備された、国境守備師団の後方には三式主力戦車を中核とした関東軍第一方面軍が待機している、参謀本部が立てた作戦は、敵の第一波侵攻を国境守備師団を持って迎え撃って、連合軍の前線崩壊と同時に第一方面軍が進攻を開始する、進攻時には海軍航空隊も全力で支援し陸軍航空隊と共に制空権を確保する予定であった。
阿南惟幾
「舞鶴で待機している第五軍に通達『ウ号作戦発動』海軍にも連絡、ウ号作戦発動、協力を要請する、以上」
東條英機
「予定より少し早いが敵もこちらの都合はお構いなしだ」
東條大英機将の言う通りだ、海軍軍令部、陸軍参謀本部は連合軍の満州侵攻を8月中旬以降だと読んでいた、だが実際には7月の初期、連合軍が先手を取った形となり航空部隊兵力では連合軍の最新鋭機であるメッサーシュミットMe262A -1cシュヴァルベ、P-47D サンダーボルト、P-51Dマスタング、スーパーマリン:スピットファイアMk.XIIという歴史に名を残す名機を惜しみなく満州戦線に投入していた。
皇紀2603年7月15日
満州国 黒竜江省 旧ソビエト連邦国境ライン
5日間の航空戦の結果はほぼ5分と5分、帝国陸海軍も奮戦しているが今だ数が揃わず精鋭集団の腕で戦線を保っていた、一方連合軍は数に物を言わせて制空権を奪取しようとしていた、いつまでも進まない航空戦に痺れを切らしたかとうとう、一部の連合軍機甲部隊が侵攻を開始したのである。
その部隊はルノーB1重戦車を主力としたフランス陸軍東方派遣部隊であった。
史実と異なり1936年にイギリスと独英防共同盟を結んだナチス・ドイツは1940年5月にフランスではなくソ連に進攻したその結果ソ連は昨年の1942年にスターリンの死亡が引き金となって崩壊しナチス・ドイツはユーラシア大陸で最大の領域を持つ国となった。
実際、現在連合軍が決断できているのは大東亜共栄圏という日本中心の陣営が敵にいるからだ、ある意味欧州の平穏を保っているのは大日本帝国であった。
事実上共同戦線を張っている連合軍だが指揮系統の選定にはかなり時間を要した、結局最終的には一番の兵力を持っているドイツ国防軍フェードア・フォン・ボック元帥が指揮を執ることになったがフランス陸軍東方派遣部隊の指揮官モーリス・ガムラン大将はドイツ軍の指揮下に入ることを最後まで拒んだ、その結果が今回の行動に出ていると思われる。
海拉爾要塞:第八国境守備師団司令部
千田貞季
「接近中の敵部隊の規模は1個師団に相当します主力はルノーB1を中核とします」
栗林忠道
「1個師団程度でこの要塞が落とせると思っているのか敵さんは」
千田貞季
「ある意味そうかもしれません、ですが部隊がたった1個師団でしかもフランス軍なのが気になりますね」
栗林忠道
「まさか、統制がとれてないのか」
千田貞季
「そんなことありますか・・・いや、相手はフランス軍ありえなくは、ない」
栗林忠道
「まぁ、此方に向かってくるのなら、失礼の無いように歓迎しなければならないな」
千田貞季
「機甲部隊を出しますか」
栗林忠道
「いや、砲兵で十分だ榴弾砲兵第三連隊に命令、全力を持って敵を殲滅せよ」
千田貞季
「了解、ですが榴弾砲兵連隊ですか、直轄の要塞砲兵第八旅団ではなく」
栗林忠道
「隠し玉である、要塞砲の存在はまだ敵に知られたくないからな」
千田貞季
「了解しました、第三連隊に通達します」
千田貞季少将は部屋の外で待機している伝令兵に速記で書いた命令書を渡す、伝令兵はそれを受け取り、駆け足で走り、側車付の二式大型自動二輪に飛び乗る、これは政府の支援のもと誕生した本田技術研究所の車両で、主に伝令用として陸軍で使われている。
海拉爾要塞:榴弾砲兵第三連隊陣地
海拉爾要塞の最前線部に作られた榴弾砲陣地には機動九八式155mm榴弾砲を中心に百式105mm榴弾砲が多数配備されている。
連隊長
「各砲、一斉撃ち方用意ッ!」
陸兵1
「距離8000!」
連隊長
「まだ遠い、いいか必中の距離まで手を出すなよ」
陸兵2
「各砲射撃準備完了、交戦距離を5000と設定します」
連隊長
「よし、そのまま真っ直ぐ来いよ」
陸兵1
「距離7000切りました・・・敵先頭車両発砲!」
連隊長
「気づかれたか!」
先頭を走っていたルノーB1が発砲した、だが
陸兵3
「着弾地点がかなり後方です、まさか直接司令部を攻撃するつもりでしょうか」
連隊長
「分からん、っと!」
ルノーB1に続いて後方で待機していた榴弾砲部隊が海拉爾要塞に向けて攻撃を開始する
陸兵4
「連隊長、随分贅沢な砲撃ですね」
連隊長
「まったくだ」
陸兵1
「距離5000!」
連隊長
「全砲!砲撃始め!」
フランス軍部隊に向けられた機動九八式155mm榴弾砲、百式105mm榴弾砲が火を噴く
先頭のルノーB1は履帯を百式105mm榴弾砲に撃ち抜かれ擱座しフランス軍は大混乱に陥った。
陸兵5
「連隊長!対空監視所から連絡!敵戦爆連合接近中、数100以上!」
連隊長
「なに!総員に通達出来る限り留まり、敵航空隊襲来と同時に撤収する」
陸兵2
「了解、総員に通達します」
その間にも榴弾砲は絶えず砲弾をフランス軍部隊に送り込み、装甲車や戦車を屑鉄へと変え、歩兵を吹き飛ばした。
この惨状を見てフランス軍残存部隊はゆっくりと後退を開始した・・・
連隊長
「よし、もう少しだ追い返せ!」
陸兵1
「敵機襲来!敵機襲来」
連隊長
「もう来やがったか、総員防空壕へ退避!」
連隊長がそう命じ、すぐさま榴弾砲が防空壕に格納され、砲兵もそれに続く
連隊長
「点呼!総員いるか」
陸兵1
「はい全員います」
海拉爾要塞:第八国境守備師団司令部
栗林忠道
「対空戦闘開始、高射砲第十九中隊迎撃を開始せよ」
栗林忠道対象は電話を使用し直接、高射中隊に命じる。
全ての部隊に有線電話が通じ、司令官が直接指示をだし迅速な行動がとれるのは現在の日本要塞の強みである、だがつい最近整備されたばかりで機械的ミスが多発しているのが欠点である、遠くの部隊には電話の方が早いが付近の部隊へ向けての連絡は通常通り伝令を使用した方が早かったりもする。
陸軍士官3
「要塞砲兵第八旅団が対空戦闘を行いたいと申し出てきました」
栗林忠道
「海軍さんの三式弾か・・・よし長門1号砲及び2号砲の射撃を許可する」
陸軍士官3
「了解・・・【司令部より、要塞砲兵第八旅団に次ぐ長門1号砲及び2号砲の発砲を許可する】」
海拉爾要塞:要塞砲兵第八旅団射撃司令部
旅団長
「よし、長門1号砲、2号砲に三式弾装填、交互射撃用意!」
砲台長1
『長門一号砲、右砲装填・・よし!左砲装填・・よし・・・長門一号砲準備完了!』
砲台長2
『長門2号砲・・・右砲装填完了・・・左砲装填完了!いつでもどうぞ!』
旅団長
「よし、測距始め、電探と連動、交互射撃用意!撃ち方始めッ!」
ズドオォォォーーン!!
満州の大地に重い発砲音が響く
長門1号砲と2号砲は5秒間隔で発砲する。
四十五口径三年式四十一糎砲は約40秒で次弾の装填が可能であり、長門1号砲と2号砲は5秒間隔で発砲するという運用方法で実用的な対空射撃を行っていた。
撃ち出された三式弾は近接信管により敵編隊付近で強力な焼夷性がある粒子をばらまく、粒子に燃料タンクを打ち抜かれた連合軍の代表的戦闘爆撃機P-47Dが数機、航空燃料に引火し火を噴き上げながら墜ちていく
旅団長
「いいぞ、敵編隊の半分を落とした、続けていけ手を休めるな」
長門1号砲と2号砲は右砲と左砲を交互に使用し、三式弾20発を敵編隊に向けて放ったところ、対空監視所から連絡が入った
陸兵6
「対空監視所より連絡、まもなく航空隊が来援します」
旅団長
「射撃中止!同士討ちを避ける!」
砲台長1
『了解!』
砲台長2
『了解!射撃中止します!』
陸軍航空隊の乱入により連合軍航空部隊は総崩れとなり、フランス陸軍東方派遣部隊は、敗走した、この結果により連合軍司令部は帝国陸軍の要塞群をどのように攻略するかで作戦の見直しを余儀なくされた。




