第五十二話 大陸情勢は複雑にして怪奇なり
皇紀2603年7月10日
満州国
海拉爾要塞:第八国境守備師団司令部
満州北西部に位置する海拉爾要塞は皇紀2601年の開戦時より強化され、旧ソビエト連邦国境ラインと隣接するように建設された防衛線は5重の塹壕を中心に地雷原等のラインが北部の黒河要塞そして満州北東部の戦略拠点である虎頭要塞と結ばれている。
更に両要塞の主要兵器として帝国海軍からの譲渡品である戦艦級の要塞砲が配備されている。メインの要塞砲は長門級戦艦に搭載されていた四十五口径三年式四十一糎砲が砲塔のまま陸送され海拉爾要塞及び虎頭要塞に8門ずつ配備され、さらに伊勢級2隻、扶桑級2隻、金剛級4隻の四十五口径四一式三十六糎砲が両要塞合わせて80門を備えている。
なお、黒河要塞には要塞砲と呼ばれるものはなく巨大な防空壕に通じる軌道と複数の転車台が設置されているのみであった。
第八国境守備師団の師団長栗林忠道大将である
栗林忠道
「いよいよ来たか」
千田貞季
「ハッ、三式司偵からの情報によりますと戦車装甲車の数は800両を超えています」
千田貞季少将この第八国境守備師団の参謀長である
栗林忠道
「予測通りか・・・だが」
千田貞季
「はい、現在航空隊は輸送中で主力部隊は今だ輸送中で特に消耗部品などは現在新京の倉庫に積まれています」
栗林忠道
「そうか・・・現有戦力で今は耐えるしかないな」
千田貞季
「ですが、敵は迂回ルートを取った場合はいかが対処するつもりで」
栗林忠道
「大丈夫だ敵は必ず、この海拉爾にくるこの奥には黒龍油田が存在する奴らもこの間の偵察でたまげただろうな」
千田貞季
「えぇ、先日のわざと偵察機を逃がしてやれと指示を受けたときはおどきましたが、奴らはそれ以上に驚いたでしょう」
黒龍油田、史実では大慶油田と名付けられた、極東屈指の大油田は100km四方に広がり、最新の製油工場を要する黒龍油田は戦略上重要な地域とされている、その黒龍油田防衛の最前線がこの海拉爾要塞を中心とした満州絶対国防圏である。
栗林忠道
「そうだ、これで連合国の対日戦略が根本から覆る訳だ、まぁ、私が考えた事ではないがな」
千田貞季
「どなたですか」
栗林忠道
「海軍の堀井中将だ」
千田貞季
「海軍ですか」
栗林忠道
「あぁ、とんでもない軍略家だ」
ちなみにこの海拉爾要塞、虎頭要塞に戦艦群から降ろされた主砲を装備するように具申したのが弘明であった。
満州国
黒竜江省 旧ソビエト連邦国境ライン
黒江保彦
「敵はメッサーシュミット・・・ドイツが誇る新鋭機、気をつけろよ、穴吹大尉」
穴吹智
『了解しました!』
穴吹大尉の飛燕改は急激に降下を始めた
黒江保彦
「ほう、低空域で勝負する気か穴吹大尉は・・・よし来い!」
黒江保彦大尉はシュヴァルベに巴戦を仕掛けた
黒江保彦
「・・・後方を取られたか、だが!」
黒江大尉が合操る飛燕改は機体の図体では考えられない、軽戦闘機の様な小回りでシュヴァルベの後方につく
黒江保彦
「こいつに巴戦を挑んだのが間違いだったな」
黒江大尉は20mm機銃の釦を押しこむ、その瞬間両翼の20mm機銃が火を噴いた
シュヴァルベは、被弾しあっという間にジュラルミンの塊になってしまった、パイロットは脱出したらしく、白いパラシュートが開いた
黒江保彦
「穴吹大尉も終わったようだな」
穴吹智
『はい、こいつはすごい機体ですね』
黒江保彦
「あぁ、川崎もいい物を作ってくれたな」
二機の飛燕改は翼を翻し出撃基地である海拉爾要塞の飛行基地に戻っていった。
南満州鉄道:新京貨物駅
現在南満州鉄道は旅客業務を停止し全線を輸送業務に切り替えていた軍事物資を満載した車両が北の最前線を目指しレールと動輪を軋ませる。
弘明
「壮観ですね、之だけの軍用車両を見ると」
弘明は物資の輸送状況を確認し輸送機を乗り継いで大陸の土地、新京まで来ていた
純平
「我々も引っ張り凧で、少しは暇になりたいものですよ」
帝国海軍:第二連合艦隊所属の野村純平海軍中将はハワイ攻略作戦の宙作戦、終了後2週間の休養の後、輸送船で満州まで運ばれた、その際、本土の倉庫で眠っていたMLRS、50両が共に運ばれた。この車両は、帝国陸軍で研究、量産化され満州方面軍の各国境守備師団50ずつ配備されている。
弘明
「頼みます野村中将」
純平
「ハッ!任してください、では」
純平は客車に乗り込み敬礼を行う、弘明も答礼し最前線に赴く陸戦隊隊員を見送る。
第二連合艦隊陸戦隊車両を満載した国鉄H50型蒸気機関車が蒸気を噴き上げながらホームより滑り出す。
H50型は国鉄が満州の軍事物資輸送用に開発した世界最大・最強級の蒸気機関車である。4000tの貨物列車を特急あじあ号を上回る150km/hでの安定した走行が可能であり、南満州鉄道株式会社は2年がかりで各主要路線にH50型専用の軌道を上下線2組用意した。
実際には裏に武が関わっていることは言うまでもない、武は国鉄幹部と接触し南満州鉄道向けの貨物専用車両の開発を打診し、参考にユニオン・パシフィック鉄道4000形蒸気機関車の設計書と仕様書を贈った、それと同時に将来へ向けた貨物専用路線の建設発案も武であった、さらに本人いわく、「別にディーゼル機関車にしてもよかったんだが、満州の豊富な石炭を利用したかったしディーゼル機関車だとロマンが足りない」と語っていたそうだ。
弘明
「御武運を・・・」
海軍士官1
「堀井中将」
弘明と共に満州にやってきた士官が報告にやってきた
弘明
「どうでした、朝鮮の実態は」
海軍士官1
「状況は最悪ですね」
弘明
「そうですか、そろそろ頃合いかも知れません」
朝鮮半島では本来駐留する部隊は満州戦線に移されていた、その影響か朝鮮人の反日運動、独立運動が多発し、遂に日本人が殺傷されるまだ至った、現在警察力で何とか抑えているが、いつまた運動が起こるか分からない恐怖からか、民間の日本人は満州、又は内地へ移る動きを見せていた、さらに噂レベルでの話だが大韓民国臨時政府を名乗る組織の幹部が数人が朝鮮半島に上陸したという情報もある。
弘明
「はぁ、団結していた共産党と国民党も仲間割れ、汪兆銘政府にはもう少し頑張っていただかないと」
海軍士官1
「堀井中将このあたりは比較的安全ですが、そろそろ」
弘明
「そうですね、国共合作が崩壊した今大陸の治安は過去最悪ですからね、大陸情勢は複雑にして怪奇なりっと言ったところですか・・・」