叩いて被ってジャンケンポン
「虫、ついてる」
そう言って彼女の髪についた異物を取ろうとしたとき。彼女は咄嗟に目を瞑り、頭を守った。まるでそれは、日常に染みついた動作。彼女が周りの景色から、壁を作るような。ハッとした時には、異物は宙を飛んで、彼女の髪から離れていた。
思えば、それだけではなかった。何が、と言われると、「違和感」がいちばん不 不適切 だ。適切と言い表すには、あまりにもスルーしてしまえる「違和感」だ。時々足にあった青あざも、彼女が転びやすいのも、(そのせいと思われる)歩き方のぎこちなさも。全部彼女の鈍臭さが説明してくれていた。はずだった。過剰な警戒心も、自責思考も。彼女の人見知りが説明してくれていた。多分そうだった。多少要領が悪くて、目立たないタイプで、鈍臭くて、人見知り。そう言う印象だ。(全部そう言えば説明がついた、と言い訳したいだけなのかもしれない。許して欲しいとも思わないし、自分が悪いわけでもない。)
「あ、虫取ろうとしてくれてありがとう。
えへへ、えっと、自分で気付かなくてごめん」
彼女の口癖だ。
えへへ、と誤魔化して許しを乞う様子は、顔色を伺う子犬のようだ。
「別に。もう取れたみたいだし。」
こう言う時の自分の不器用さは、時々うんざりする。それ含めて自分だけれど。違和感に気づいたからと言って、彼女から助けを求められない限り、別に自分は何もするつもりはない。そう言うのをするタイプではないし、面倒ごとに巻き込まれたくもない。助けてあげる義理もないけど、SOSの三文字さえくれれば、できる限り手は尽くすのに。まあ、いいか。
そんなことより。そんなことよりも。少しだけ、少しだけだけど。
彼女の仕草を「面白い」と思った自分がいた。知的好奇心が満たされる。しぜんに覚えたであろうその仕草は、どの程度まで適用される?
あと少しだけ、ちょっとだけだから。
君が
た す け て
の四文字を言うまでは。
「ねえ」
彼女を呼びかける。
「えへへ、どうしたの?」
わかりきっているけれど、質問をする。
「たたいてかぶって、じゃんけんぽん」




