6 この想いが育つ前に蓋をしましょう
よろしくお願いします
「楽しめた?」
観劇が終わった後余韻に浸っている私にウイルフリード様が尋ねた。
「はい、とても楽しかったです。ハラハラしましたけど最後に二人が幸せになって良かったです」
「そう言ってもらえれば選んだ甲斐があるよ。これから食事をして帰ろう。出る時は混雑するからゆっくりしてからにしよう」
「はい、今頃シルビア様はどうされているのでしょうか?」
「きっと楽しくやっているよ。急な客というのは昔の知り合いだそうだから」
「そうだったのですね。良かったです。私だけが演劇に来て申しわけないと思っていましたので」
「気にしなくても良いんだ。君は私の大切な人だからね。さあ行こうか」
えっ今さらっと口説かれた?まさかね。ついに幻聴が聞こえるようになったのね……。
ローズマリーは「はい」と言いながら、さっき洗面所で聞こえてきた女性たちの話し声が棘になって頭から離れなかった。
「ハミルトン公爵令息様をお見かけしたわ。相変わらずとても素敵よね。一緒にいたのはメイドかしら」
「そうに違いないわ。貧相だったもの。噂にならないように使用人を連れてきたのよ」
「舞台俳優より素敵って罪だわ」
こんな悪口エリザベスに比べたら大したことがないのにどうしてだろう。隣に立っていても良いのだろうか、申しわけなさが半端ない。
少しは肉が付いてきたが痩せて小さい体が恨めしくなったローズマリーだった。
連れて行って貰ったのは薔薇の植え込みが見事な家庭的な雰囲気のあるレストランだ。入り口に薔薇の絡まっているアーチがあり見とれてしまう。
街なかにある普通の民家のようで隠れ家の様な所だった。
ドアをノックすると店員が招き入れてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。お待ちしておりました」
店内にも薔薇が飾られていた。
「これがメニューだよ。食べたいものはある?」
「よくわかりませんのでウイルフリード様にお任せします」
「そう、じゃあいつものコースにしようかな」
頷いた店員がさっと下がって行った。
メニューは前菜のサラダに牛もも肉のシュニッツェル、海老の塩焼きソテー、ラタトウユ、コンソメスープが順次に運ばれてきた。デザートは苺のシャーベットと紅茶だった。
ウイルフリードは食事にあわせて赤ワインを頼んだ。
「ローズマリーはワインは早いと思うけど練習してみる?」
「いいえ、止めておきます。夕食の時に口をつけただけなのですが美味しくありませんでした」
「合わなかった?」
「苦がったですし、心臓がドキドキしてジュースの方が美味しいなと思いました」
「それじゃあ止めたほうが良さそうだね。これからもう一つ付き合って欲しいところがあるんだ」
和やかな食事と会話の後は何処かへ連れて行って貰えるようだ。
馬車に乗ったウイルフリードは機嫌が良かった。
「ウイルフリード様何処へ行くのですか?」
「着くまでのお楽しみだよ」
着いたのは王都の街が見渡せる丘だった。家々の窓の明かりが沢山灯っていて胸が温かくなってくる。
「なんて綺麗なのでしょう……」
「お気に入りの場所なんだ」
美麗な貴公子様は笑顔が美しい。こんなに素敵な人と結婚できる人は幸せだろうな。優しくて包容力があり綺麗な人だ。何故私に親切にしてくださるのか分からない、ペット枠でも嬉しいけれど……。
婚約者の方が出来るまでに無駄な想いに蓋をしなくては…。
もう傷つくのは嫌だ。私はペット。自分に言い聞かせる。同情で親切にしていただいているのだもの。
こんなお出かけは出来るだけ避けるのよ。距離も取らなくてはいけない。
ご恩返しの為には政略の駒になることも厭わない。
私にはそれくらいしか出来ることがないのだから。
ローズマリーは手をきつく握りしめた。
読んでいただきありがとうございます!楽しんでいただけると嬉しいです。




