光り輝く
オレンジ色の光に包まれ、後輩たち、咲、美聡、そして茜。賞状を手にし、満面の笑みでポーズをとっている。あの頃の自分に戻り、そして勝ち取った私。
「茜さん、それ高校時代の写真ですか?」
横から話しかけられ、茜は振り向くと今年からチームに入ってきた後輩がいた。
「あ、すみません。勝手に見ちゃって」
「いや、いいの。うん、高校の最後のインハイ予選。結局全国には行けなかったけど、初めて決勝まで行けたんだ」
「一緒に映ってるのって、咲さんと美聡さんですか?」
後輩が何故かその名前を知っていたので、茜は驚いた。その様子に後輩は慌てて弁明しようとした。
「あ、私、咲さんと美聡さんの大学の後輩で、西海大学出身なんです」
「あー、なるほどね」
「茜さーん、アップ行きましょー」
チームメイトに呼ばれ、茜は携帯をカバンにしまって、その後輩とともにロッカーを後にした。その背中には、サンアッシュの文字と「4」のエースナンバーが刻まれている。
「今日から、一試合一試合大切に、勝っていくよ」
「はい!」
茜がサンアッシュに帰ってきて二週間。その声は、きちんとチームに轟いていた。
「今のプレー、もう少しテンポ早くパス回してみよう。もう一回」
「はい!」
自分ができることを最大限に、チームに熱を伝えていく。その熱が、ボールを、コートを、空気を通して、選手に伝わり、チームの意志となる。
「ねえ、今の私のプレーどうだった?」
「よかったと思いますよ、あでも、こうしたらもっと......」
そして、キャプテンでもエースでも、自分の背中を聞いてみる。どう見えているのか、どう映っているのか。
場内が暗くなり、選手たちは扉の前で待機する。観客たちの期待と歓声が、空気を揺らし、茜の耳に届いていた。
「それでは、選手の入場です」
いよいよ、今日から始まる。エースとして、キャプテンとして、もう恐れない。自分の弱さを認めて、チームを信じて、光のように輝く。
「ナンバー4! アカネ! ミズノー!」
茜の背負った4番は、その声とともに、オレンジ色の光のもとへ躍り出た。
「五十嵐君、いつから水野選手のことを注目してたんだい?」
試合が始まり、会場の熱気は上々。試合はサンアッシュが一歩リードして第4クウォーターを迎えていた。上司に問われた五十嵐は、茜を見ながら自信満々に答えた。
「高校のインターハイ予選です。彼女は、キャプテンとして、エースとして輝いていた。でも、その輝きは誰もができることじゃない。自分を見つめて、弱さを認めて、チームのいちプレイヤーとして、輝く。そういう人は、チームに思い出させるんです」
仲間からのパスを受け取り、茜がシュートをする。その瞳に、ボールとめいっぱいの光を映して。
「私たちはバスケが大好きだってこと」
五十嵐の顔を見て、上司は頷いた。目の前で躍動するのは、みな、バスケの大好きな少女のようだった。
「きっと彼女は、このチームを引っ張ってくれます。底から」
ブザーが鳴り、観客がどっと沸きあがる。茜はチームメイトと全力で勝利の喜びを弾けさせた。
ロッカールームに戻っても、勝利の歓喜は冷めなかった。
「初勝利祝いでみんなでご飯行きましょうよ」
「いいね、じゃあいつもの栄勝軒かな」
「あ、でも茜さん。明日なんか予定あるって言ってませんでしたっけ」
茜はチームメイトに言われて、はっと思いだした。勝利の喜びと安堵で忘れていたが、明日は大事な予定があった。今日ここで戦えた、私の原点に帰る日。
「咲! 美聡!」
「茜!」
翌日、昔馴染みの駅で、三人は再会した。数年ぶりとはいえ、あの頃と変わらない。同じユニフォームを着て、ともに戦った日々が、蘇ってくる。
三人は数年ぶりに母校の体育館へと赴いた。今もなお、部室も、体育館も、その様は変わっていない。体育館からはシューズの音が聞こえてきた。
「懐かしいね」
「それなー」
三人は体育館へと足を踏み入れると、初々しい顔をした子たちが集まってきた。皆、三人も着ていた陽川高校女子バスケ部の練習着を身に纏う。その中で部長らしき子が指揮を執り、挨拶をした。
「今日はお邪魔します」
「茜は現役だけど、私たちは久しぶりだから、お手柔らかにね」
部員たちは茜のことをもちろん知っているようで、憧れの眼差しを向けていた。かつてはその視線に痛みを感じていたときもあったけれど、今は、きちんと受け止められる。
「あれ、樹里ちゃんは? 今日はいない?」
咲が辺りをキョロキョロとしてその姿を探すも、その姿は見当たらなかった。すると、奥から知らない男性が近づいて来た。
「水野! 早川! 椎名! 久しぶり!」
「え、もしかして瀬下海渡?」
美聡の推測はどうやら当たっているようで、瀬下は笑顔で手を振っている。
「今、高校の先生になってたの?」
「うん。二校目で母校に凱旋して、今は女バスの顧問やってる」
瀬下は男バスで、茜たちとはいつも体育館の隣同士で練習していた戦友のようなものだった。
「それで、樹里ちゃんは? あれ、まだ陽川にいるんじゃなかったっけ」
その言葉に、瀬下は顔を曇らせた。そして重い口をゆっくりと開いた。
「香坂先生は......」
久々の母校での練習は、日が暮れるまで続き、たくさん汗をかいた。
「三人はこの後行くの?」
「うん。そのまま行こうかなと思って」
「そっか。隼人たちと会うんだもんな。懐かしいだろうに」
「そうだね」
「楽しんで来いよ」
瀬下はそう言って茜たちを送り出した。
「いやー、絶対筋肉痛だわこれ」
「でも咲も美聡も全然動けてたじゃん」
「それを言うなら、茜だって昨日試合だったのに、よくこんな動けてるよ」
「でもやっぱり高校生はエネルギッシュだったね」
そうこう話しているうちに、茜たちは約束の場所へと続く道へ出た。遠くから懐かしい声が聞こえる。
「もうみんないるみたいだね」
「なんか緊張してきた」
茜は木の葉を踏みしめ、一歩一歩進んで行った。
「おーい!」
茜の声に集まっていた集団が視線をこちらへ向ける。
「うわー! 久しぶり! 茜ちゃん!」
恵那たちの顔を久しぶりに目にし、懐かしさを分かち合う。空は次第に青く染まりだし、星がちらほらと見え始めていた。
しばらくして、誰かが走ってくる足音が聞こえた。
「お、誰か来るよ」
「Sorry! I'm late!」
流暢な英語がふわりと聞こえ、皆その正体を確信した。息を切らしてロングヘアをかき分け、顔を見せたのは、三年九組十九番、高瀬澪だった。




