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春うららかに

 ボールをキャッチした時に、手の痛みをあまり感じない。その僅かな違いから、春を感じる。体育館のカーテンが風で揺らめき、日差しがゆらゆらとさしていた。


「ラストー! ラストー!」


 タイマーがゼロになるまで、寸分の気の緩みもなくボールを見続ける。


「茜!」


 ボールを確かにキャッチして、その刹那で周りを見る。今空いてる人はいない、それなら。


 茜はボールをひとつ突いて、一歩下がり、シュートの体勢に入った。何本も投げてきたスリーポイントシュート。いつもの通り、その手から美しい放物線を描くようにボールを放つ。


 その時ちょうど、タイマーが鳴った。


「OK、じゃあ一旦休憩にしよう」


 茜はリュックからタオルを取り出して、水分を含んだ。そこに同学年の咲と美聡(みさと)がやって来た。


「茜、ナイスシュートだったね」


「うちのチームに茜いなかったら、もう終わりだよ」


 そんな会話は日常茶飯事で、キャプテンとしてもエースとしても、茜はチームの中で完璧でいるべきであった。


「てか明日、クラス発表だよね。何組になるんだろ」


「私さすがに三年目は熊坂学級回避したいよ」


 春になれば必ずこの話題になる。それも今年で三年目。きっとこんな話をするのも最後になるだろう。


「あ、菊池センセーきたよ」


 美聡に言われて茜が振り返ると、副顧問の菊池先生が体育館に顔を出しにきた。長年陽川高校の女子バスケ部を監督してきた顧問が三月に異動し、数日は副顧問が練習を監督していたが、彼はあまりバスケのことを知らないので、練習を司っていたのはキャプテンの茜だった。


「水野、ちょっとみんな集めてもらっていい?」


 菊池にそう言われて、茜は集合をかけて、部員たちを菊池のもとへ集めた。


「練習お疲れ様。ちょっとここで紹介したい人がいるので、今集まってもらいました。それじゃあどうぞ」


 菊池に促されると、教官室から一人の女性が入ってきた。髪はひとつに束ねられ、ティーシャツにロングジャージを着ている。スラリとしていて、とても若そうに見えた。


「今日から女子バスケ部の顧問になってもらう、香坂先生だ」


 菊池先生の紹介に、香坂先生は一礼をした。


「えーっと、今年から新任で陽川高校に来ました。香坂樹里です! 赴任早々、正顧問ということで身に余るほどの大役にプレッシャーもありますが、やるからには勝ちにこだわっていきたいと思います!」


 香坂先生の挨拶が終わり、一同は拍手で迎えた。


「それに、香坂先生は陽川高校の女子バスケ部のOGなんだぞ」


 菊池先生の添えた一言に、一同は驚きの声をあげた。もちろん、茜も。香坂先生は恥ずかしそうにしているが、確かにスポーツをやっていそうな雰囲気だ。


「じゃあ早速、練習を見てもらうから。水野、色々サポートしてやって」


「はい」


「じゃあ解散」


 解散して、部員たちは休憩後のシュート練習に戻った。


「先生、今日はどんな感じにしますか?」


「んー、しばらくは練習見させてもらおうかな。今までのメニューでやっていいよ」


 茜は、OGというのでてっきり初めから指導が入ると思っていた。なので、香坂先生の意外な対応に拍子抜けしてしまった。


「……って、なんか偉そうだったよね? 来てばっかりなのに」


「あっ、いや、私の方こそすみません」


「とりあえずは、みんながどんなプレイヤーなのか見たいんだ。等身大のみんなを見せて」


 香坂先生の言葉は、今までの顧問やコーチの言葉とはひと味違った。優しいのに、どこか見透かされているようで、核心を突いてくる。まだ何にも染まっていないからこそ、真っ直ぐに届くものがあった。


「わかりました」


 茜も思わずそう答えていた。なんだろう、この未来への高揚感は。この先生は、まだ見たことのない道を拓いてくれる気がした。

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