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第9章 賈詡、少年になる

 賈詡の誕生から早、十年が経過した。


 賈龔は涼州にて軍功を重ねに重ね、百五十名を束ねる軽騎将から、二千人の兵士を束ねる涼州武威郡一番の将軍となっていた。

 「涼州武威郡に賈龔あり」

というのは広く知られ、その名を恐れて盗賊や異民族は表立った活動を控え、この辺りは平和が保たれていた。


 その賈龔の長男賈詡は、今年十歳となった。

 幼年期より、父の賈龔、母の白英はもちろんのこと、家宰である静から文に励むように言われ、既に、論語、孟子などに関しては、暗唱できるほどであった。

 賈龔は自分の少年時代を思い出すに、明らかに賈詡は出来がよかった。出来が良すぎて心配になるほどであった。


 その心配を見越してか、白英は言う。

 「旦那様。詡は本当によく学んでおります。それだけではありません。旦那様の言いつけを守って、剣術、棒術にも励んでおります。今の詡の成長を見るには、お友達と遊んでいるところを見るのが一番だと思います。お忙しいと思いますが、一度見てみてくださいな。」

 賢い妻が、「詡の遊んでいるところ」を見ろと言う。きっと何かあるのだろう、と思い、後日、賈詡の遊んでいるところを遠目に眺めてみた。


 賈詡を入れて、少年少女が十数人いる。

 明らかに、賈詡が遊びの中心であった。

 「将軍の子」であるから、ということもあるかもしれない。子供の遊びにも、親の身分が関係してくるものだ。

 どうやら、「戦ごっこ」をしているようだ。

 賈詡が将軍の役目らしい。

 賈詡の指令に基づいて子供たちが動き、まるで軍隊の訓練を見ているかのようであった。しかし、賈詡は、すぐに別の子供と交代した。しばらくして、また、別の子供に交代した。

 結局、全員が「将軍役」をやったところで、子供たちは解散した。


 賈詡と話がしたいと思い、今夜は王武に言って、自宅で夕餉を取ることにした。

 予定外の父の帰宅に賈詡は喜んだ。

 「父上、今日はどうされたのですか。」

 「うむ。お前と話をしたくなってな、王武に後を任せてこっちに来た。」

 「左様ですか。ありがとうございます。」

 「詡よ・・・。」

 「はい。」

 「今日、お前が友達と遊んでいるところを見たのだが。」

 「はい。」

 「最初に将軍をやったのはお前だな。何故だ?」

 「はい。皆、最初に将軍をやりたいのは心得ております。しかし、順番決めに時間がかかるので、将軍を父に持つ私が将軍役を務めた後に、年の順に将軍役をやる、と規則を定めました。」

 「規則か・・・。守られているのか?」

 「はい。遊びとはいえ軍隊ですから。規則や、命令は守るもの、と年端のいかぬ者にも教えるようにしています。」

 「そうか。皆、なかなかの指揮ぶりであったぞ。」

 賈龔は笑いながら言った。


 「はい。私が父上の話をするのはもちろん、他の子の父上の話なども色々聞いているので、遊びの中で実戦での動きを取り入れられるものは、取り入れるようにしています。」

 「そこまでしているのか、子供の遊びで。」

 「はい。我々の父上は皆、軍営に勤めており、我々は軍人の子です。軍人の子である以上、遊びも真剣に、と思ってやっています。」

 賈龔は我が子や、他の子供にも感心をした。

 自分の子供時代とはまるで違う。

 しかし、それ故に、あまりに出来が良すぎて早世で終わらないか、というのが心配であったので、賈詡に聞く。


 「詡、学問はどうだ。」

 「はい。孔子さまと孟子さまの本は暗唱できるようになりましたが、肌身離さず持ち歩くようにしています。」

 「ほう。暗唱できるのに持ち歩くのか。」

 「はい。暗唱できたとしても、文字で改めてみると、新しい気付きや学びがあると思っていますので。」

 「そうか。我が家は儒学の徒であるが、他に学びたいものはあるのか。」

 「はい。まずは、将軍の子として生まれたからには兵法を。そして、天下の為に働くのであれば、儒学に加えて、やはり法家も学びたく存じます。」

 「兵法に法家か。儒学とは全く違うぞ。」

 「はい、承知しております。儒学は人の道、己を磨き、ひろく人民を導くためのもの。兵法、法家は国を強く高めるものと思っています。」


 「そうか。ならば、師を付けよう。」

 「師、でございますか。」

 賈龔は、人を呼ぶ。

 「すまん、静を連れてきてくれ。」

 ほどなくして静が現れた。


 賈龔が言う。

 「詡よ、まずは静を師と仰ぎ、兵法と法家を学べ。」

 「家宰殿、からですか。」

 「ああ。静は、義父の白理殿から様々な学問を学ぶ機会を与えられ、我が家に来てからも空いた時間は学問の研鑽をしていたのを俺は知っている。静よ。」

 「はい。」

 「そういうことだ。今日から、詡の師となり、教導してやってくれ。」

 「私が、ですか。賈詡様は、将軍様のご嫡男。師を付けるのであれば、もっとちゃんとした人を・・・。」

 「静よ、謙遜するな。俺はずっとお前を見てきて、詡がある程度の歳になったら、そなたを師にと決めておったのだ。白英も賛成してくれているぞ。」

 「奥様まで・・・。しかし、・・・。」


 賈龔は静を制して、賈詡に言った。

 「詡よ。今日この時より、静はお前の師だ。師への仕え方はわかっておるな。」

 「はい。」


 賈詡は、静に拝礼して言う。

 「お師匠様。どうか、私をお導きください。」

 静はこと極まり、断れぬことを悟った。そして言う。

 「わかりました。私なりに励みたいと存じます。」

 こうして、賈詡はこれより数年、学問を中心に打ち込むことになるのである。


 そして、賈詡が十歳となったこの年の前年に、

 「三国志、一番の英雄」

と言って差し支えないあの男、曹操孟徳がこの世に生を受けたのである。

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