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第7章 賈龔、盗賊を討伐する

 賈龔が午後からの訓練の開始の宣言をしようとしたその時である。

 「急報、急報!近隣の村に盗賊が現れました!その数、百人を超している見込み!」

 賈龔は軍令を出す。

 「今から訓練の予定であった三十名、すぐさま騎乗し、我の後に続け!」

 賈龔はすぐさま馬に飛び乗った。

 三十名も遅れまいと、その後に続く。

 王武は留守を任された格好である。

 王武と共に残された兵の一人が言う。

 「盗賊とは言え、百名を越すという人数。今日ここには百名ほどおりましたが、全員出動でなくてよかったのでしょうか。」

 「まあ、前の体調なら全員出動だったろうな。賈龔将軍は即座に用意できる三十騎で、速さを優先したのだと思うぜ。」

 「なるほど。それほどまでに速さは重要ですか。」

 「ああ、特に短期決戦においては最重要だ。」


 賈龔は単騎、先行して村に向かった。

 それにくらいついて、残りの兵士たちは後を追う。

 賈龔の馬は「閃光」と名付けられた。

 白理が涼州中をめぐり手に入れてくれた名馬である。

 「閃光」の名に恥じぬ、素早さ、そしてその体力は並の馬十頭分くらいはあるように思えた。賈龔の人生で初めて出会った名馬であり、その世話も人任せにはせず、自ら行うほどの愛着ぶりであった。

 目的としている村から煙が出ている。村内の一部が焼き討ちをされたものだろう。


 賈龔は後ろを向いて命令をする。

 「皆、急げ!そそまま村に突入せよ!」

 後方からの兵士たちが賈龔を追い抜き、そのまま村に吸い込まれるように入っていく。


 「助けて!」

 女の叫び声が聞こえる。

 斬り殺された住民の無残な姿もかなり見える。

 「この盗賊、許さぬ。」

 賈龔は心の中で怒りの声を上げた。

 そして指示を出す。

 「盗賊たちに情けは無用。発見次第、皆殺しにせよ!」

 部下の兵士たちが騎馬のまま突入し、盗賊を発見次第、容赦なく切り付けていく。そして、住民を発見次第、保護していった。


 盗賊たちは、今回の騎兵隊はいつもと違うという雰囲気を感じたのか、恐れをなして逃亡を図り出した。それを見て賈龔が命令を出す。

 「地、果てようとも追撃せよ!追え!」

 兵士たちは普段の賈龔からは想像できない厳命に内心驚いたが、命令を遂行するために村を出て追撃を開始した。

 兵士たちの追撃は徹底的なものとなった。

 まず、馬に乗っていない盗賊たちは、瞬殺と言っていいだろう、騎兵の振るう槍に一撃で倒されていく。

 馬に乗っている、盗賊の幹部たちと思われる者たちも、次々と倒されていく。賈龔隊の戦闘力は、凄まじいものであることが、ここで証明された。

 盗賊を殲滅、いや、全滅させた。


 いたるところに死体と血しぶきが残された。

 生き残った村民たちが安堵を感じることなくおびえるほどの、徹底的な盗賊の掃討戦であった。後日、生き残った村民たちは、賈龔たちに感謝しつつも、こう語り合ったという。

 「どちらが盗賊か、一瞬わからなくなるほどの、凄まじい殺戮であった。」

 何故、賈龔がここまで徹底したのか。

 この実戦は、賈龔が涼州に着任して初めてのものであった。


 賈龔はあらかじめ決めていた。

 「相手が盗賊であれ、異民族であれ、我の初戦は味方さえ恐怖を覚えるだろう程の徹底した掃討を行う。」

 これには、もちろん理由がある。

 賈龔隊の強さ、それも凄惨さも辞さない強烈なものを印象付けることにより、この地への侵入が無謀であることを異民族や盗賊に植え付けたかったのである。

 そうすれば、以後、近隣の平和は保たれる。


 後にアジアの歴史に登場するチンギス・ハーンは、降伏しない城に対しては「屠城」、すなわち皆殺しにして、近隣城市が恐怖に駆られて降伏するように促している。いうなれば、賈龔の考え方もそれに似ている。


 この一件を契機に、近隣に侵入してくる盗賊の類はいなくなった。異民族にも噂が広まったらしく、この辺りは、しばしの平和を享受することが出来たのである。

 しかし、賈龔に付き従い、盗賊たちを「屠殺」して全滅させた兵士の一部は、あまりにも凄惨な光景だったために、精神に若干の不安を抱えるものもあった。賈龔はそういった者にはしばしの休暇を与え、自分でここに戻るか否かを決めさせた。二人が部隊を去ることになった。


 賈龔は王武に言う。

 「王武よ。俺はこれからも、盗賊や異民族といった、俺達の大切な人民や土地を荒らす者には理由の如何を問わず、徹底的に殲滅していく所存。皆、この方針についていけるであろうか。」

 「将軍、それは問題ない。今回隊を去った二人も、将軍を批判して辞めていったわけではないよ。ただ、この隊の兵としてやっていくには、些か優しさとそれに伴う弱さが、他の者より際立っていただけさ。今後も、問題ないぜ。」

 「そうか。お前にそう言ってもらえるのはありがたい。なんせ、涼州出身でないからな、俺は。」

 王武は大笑いした。

 「ははは。将軍、あんたが一番、涼州の男っぽい、と皆言ってるぜ。俺達は、どこまでもあんたについていく。心配するな。」

 こうして、賈龔の苛烈な一面も隊の者たちは受け入れ、より一層、その結束と強さは際立っていくのである。

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