第46章 賈詡、曹丕に相談を受ける
潼関の戦いに勝利し、賈詡は許都に帰還した。
曹操はこの戦いの第一功を賈詡とし、尚書から尚書令に昇進をさせた。許都での政務を統括する非常に重要な役目であった。
この時、思いもよらぬ人物の訪問を受けた。
曹操の嫡男である「曹丕」である。この時、二十五歳であった。
曹操は五十七歳であるが、まだ後継者である太子を定めていなかった。
普通であれば、嫡男の曹丕で決まるところ、曹操は現在二十歳の七男である曹植を非常に可愛がっていることから、後継者争いが静かな形で進行している。
この時賈詡は六十五歳。
「後継問題の相談か・・・。」
賈詡は曹丕来訪の目的にはすぐに気づいた。
賈詡はここまで、派手な人付き合いをせず、慎重に慎重を重ねて人生を歩んできた。
正直、今回の曹丕の来訪は迷惑以外の何物でもなかった。
後継争いなど、政争の極みであるからである。
しかし、曹操の嫡男を無下に返すわけにもいかず、自室に通した。賈詡は拝礼する。
「これは、曹丕様。丞相のご嫡男が、私の様な老いぼれに何の御用でしょうか。」
曹丕は拝礼を返して言う。
「賈詡先生。父である曹操は、非常に賈詡先生を信頼しております。率直にお聞きします。父から、後継者に関する諮問など、受けたことはございますか。」
「いえ、全くございません。どなたが後を継ぐかというのは、完全に曹家の、お家の問題であります。一家臣の私ごときに諮問など、あるはずがございません。」
「そうですか・・・。もし、もしなのですが、父の跡継ぎに誰がふさわしい、と直接聞かれたらどうなさいますか。」
「先ほどと答えは変わりませぬ。私は余計なことに口出しは致しません。」
「そうですか・・・。賈詡先生、一つだけ教えてください。」
「質問の内容によりますが・・・。」
「・・・はい。後継者になるために様々な努力を見えるような形で過ごすのか、普通に力まずに暮らすのがいいのか、いずれになりましょう。」
「余計なことを考えず、子として親に当然の孝を尽くすことだと思います。全く、期待しているお答えにはなっていないと思いますが・・・。」
「いえ、賈詡先生。曹植は父同様、文才に優れており、私など足元にも及びませぬ。そのことで気後れし、何か弟を凌ぐものをと考えておりましたが、自分の浅知恵が非常に恥ずかしく思います。お忙しいところ、お話を聞いて頂き、本当にありがとうございました。」
曹丕は深々と拝礼し、帰っていった。このことに、曹丕がどれだけ感謝していたかということは、後に、形としてあらわされるのである。




