第37章 賈詡、劉表との同盟に成功する
劉表の人物像とは、どういうものか。
南陽郡出身の名士で、非常に高い学識を有し、儒学者としても著名である。賈詡の家も儒学者であるが、その家格は足元にも及ばない。
君子然とした落ち着きがあり、身長八尺、見事な容貌の持ち主であったという。
しかし、大きな志、野心を抱くような感じではなく、荊州の平和と安定を保つことに尽力した人物である。性格的にはよく言えば慎重、悪く言えば些か優柔不断なところがあったようだ。
賈詡は今回の同盟締結は、ほぼ成功と見込んでいる。
劉表が頭を下げるまでもなく、自ら、荊州の盾となるという申し出なのだから、損得勘定から行っても、明らかに得な話だからである。
劉表側が考えられる面倒としては、張繡からの援軍や物資の要請を受けた時であるが、それはその都度、適宜対応をすればいい話なので、明らかに劉表にとっては得な話である。
襄陽に着くと、劉表とはすぐに会うことができた。
「あなたが賈詡先生か。宛城の張繡将軍からの使いがあなただと聞いて、驚いたところだ。いつから、張繡将軍の下に?」
「本当につい最近、でございます。」
「それで、今回のご提案は、賈詡先生がされたものかな?」
「はい、左様でございます。曹操は献帝を手中に収め、今や天下を念頭に動いており、北方への本格的な進出を狙っておりましょう。」
「北方といえば・・・。」
「はい。劉表様が同盟を結んでいる袁紹様との対決。」
「曹操と袁紹殿では、領土の広さ、兵力に格段の差がある。」
「おっしゃる通りです。故に、後顧の憂いをなくすために、まずは我が主の張繡を、そしてあわよくば、こちらの荊州を・・・。」
「・・・。なるほど。流石は賈詡先生、と言いたいところではあるが、我が荊州もそれなりの軍勢を有している。曹操如きにいきなり駆逐されることはあり得ませぬぞ。」
「ごもっともです。ただ、我が君張繡と同盟を結んで頂くことで、我が軍は荊州から見れば盾になるのではないでしょうか。」
「・・・。張繡将軍が盾に・・・。」
「はい。今のところ、我が君張繡は、曹操に膝を屈することは出来ぬ、と申しています。しかし・・・。」
「しかし、何でございますか?」
「仮に、私が曹操との同盟をすすめた場合、今度は荊州から見れば我が軍は、曹操の槍となりましょう。」
「・・・。賈詡先生、それは脅し、ですか?」
「いえ、可能性の問題です。曹操は確かに日の出の勢いですが、現状の分析で、冀州の袁紹様と荊州の劉表様が同盟を結んでいる以上、曹操の勢力拡大はそう簡単ではありません。」
更に続ける。
「ですから、我が君張繡が前方の敵、曹操に集中し、荊州の為の“盾”となるために、劉表様には是非、我らが“後ろ盾”になっていただきたい、と思っているのです。」
更に続ける。
「劉表様にしても、仮に曹操が南進してきた場合、まずは我が宛城近辺を通過するのは必定。ここで我々が曹操軍を阻止すれば、そちらから見れば宛城近辺は軍事的緩衝地帯となりますので、その点において、なんら損なことは無いと思います。」
劉表は少し考え、言葉を選びながら話す。
「なるほど。私は、損得勘定を表に出した話は好まぬが、賈詡先生のお言葉、確かに理に適っております。よろしい、張繡将軍との同盟、この劉表、喜んで結ばせてもらいましょう。」
賈詡は拝礼し、劉表もそれにこたえた。
こうして、賈詡は張繡の軍師として、最初の仕事を果たしたのである。




