第36章 賈詡、張繡に仕える
西暦百九十七年(建安二年)初春、賈詡は張繡に仕えることになった。この時賈詡は五十一歳、張繡は四十代半ばであった。張繡は言う。
「賈詡先生、よくぞいらしてくれた。先生のご高名は、以前から聞いておりますぞ。」
賈詡は拝礼しいて言う。
「張繡様、この度は私の様な者をお招きいただき、ありがとうございます。心より感謝しております。張繡様の叔父上に当たる張済様と張繡様の率いる騎兵隊の強さは、私も以前から聞いております。」
「賈詡先生、早速ではあるが、ご相談したい。」
「なんでございましょうか。」
「ご存じだと思うが、曹操が許昌に献帝を迎え入れて天下を伺う気勢を上げている。そこで、噂では、まずこの宛城を攻撃してくる、というのだ。」
賈詡は少し考えてから、言った。
「確かに、許昌から見た宛城というのはまさに後顧の憂いとなりましょう。曹操が天下を伺うのであれば、北方に向かう。そしてその後顧の憂いをなくすために、こちらに攻めてくることは十分に考えられます。」
「やはりそうなりますか・・・。」
「一つ確認ですが、今のところ、曹操に付く、というお考えはないのでしょうか?曹操の立場からすれば、いきなり攻めてくることは無く、恐らく、懐柔策を取ってくるのが普通だと思いますが。」
「何もせず、膝を屈することは出来ませぬ。叔父上からの遺言でも、まずは簡単に人にはつかず、己で進めるところまで進め、と言われております。」
「わかりました。それならば、まず、我々の後顧の憂いを取り除く必要があります。」
「我々の後顧の憂いとは?」
「ここ最近、荊州に勢力を張っている劉表と同盟を結ぶことです。」
「劉表と・・・。しかし、先生、相手は荊州を抑える大勢力、こちらはこの宛城一つです。同盟など、結んでもらえるのでしょうか?」
「この宛城の地理的状況から、可能だと思います。」
賈詡は、張繡に説明した。
まず、曹操の本拠地である許昌と、劉表の本拠地である襄陽の中間的位置にこの宛城が存在していること。
曹操が南下政策を取ったとしても、まずは宛城が緩衝地帯となり、荊州の防備の一部になること。
そして領土は小規模ながらも、有している軍はかの名将張済の軍であり、精強であること。
こういった点を丁寧に説けば、劉表は同盟を受け入れるであろう。
張繡はこの説明を聞いて納得した。そして言った。
「賈詡先生のお話は分かりました。しかし、劉表にこの話を説くとなると・・・。」
「無論、私が使者として参りましょう。」
「何と、先生自ら。」
「はい、早いに越したことはございません。早速、準備に取り掛かりましょう。」
こうして、賈詡は張繡に仕えて早々に、劉表との同盟を締結すべく、襄陽へと向かったのである。




