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流浪の軍師ー三国志・賈詡文和伝ー  作者: 涼風隼人


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第30章 賈詡、董卓と再会する

 洛陽の雰囲気はざわついている。

 

 かつて、洛陽を牛耳っていた十常侍も、十常侍を打倒しようとした大将軍の何進も既にこの世にはない。

 まさしく、洛陽は董卓の天下であった。

 洛陽に入ってから董卓の官位は、司隷校尉、大尉、相国と位人臣を究める勢いで出世を重ね、権力を欲しいままにした。

 

 賈詡は軍師として、涼州で名を馳せているとはいえ、現在は無位無官の何者でもない。

 普通であれば、董卓に会えるはずは無いのであるが、賈詡はまっすぐに相国府に向かった。

 

 そして門番に言った。

 「涼州武威郡姑臧城の賈詡文和が会いに来た、と相国様にお伝え願いたい。」

 門番は呆れた顔で言った。

 「どこの誰だか知らんが、その格好は旅の者か?相国様はご不在だ。いらっしゃっても、会えるわけがなかろう。」

 「ご不在なら改めよう。しかし、門番殿。私の名前を今一度伝える、涼州武威郡姑臧城の姓は賈、名は詡。字は文和。私を通さなければ、恐らく罰せられるのはあなたと心得よ。相国様に古くから仕えている者がおれば、私が誰かを確認することをおすすめしよう。」

 「何を言っているのか・・・。さあ、帰れ、帰れ。」

 「・・・。明日、また改めさせてもらおう。」

 賈詡はひとまず、相国府を後にした。

 

 賈詡の話を話半分で聞いていた門番であるが、少し賈詡の言葉が気になった。

 董卓が戻ってきた後、古株の御者に賈詡の名前を告げたところ、御者は驚いて言った。

 「賈詡文和殿が参ったと・・・。お主が知らぬのは無理もないが、涼州ではその名を知られた軍師であり、相国様とは字で呼び合う旧知の間柄である。」

 門番は顔面蒼白になった。御者は言う。

 「まあ、そう心配するな。私の方から、側近のいずれかの方にお伝えしよう。」

 門番は何度も頭を下げた。


―翌日―

 賈詡は装いを改め、再び相国府に董卓を訪ねた。

 遠目に昨日と同じ門番が立っているのが見える。

 すると、門番の方から賈詡に駆け寄ってきた。そして言う。

 「賈詡様。昨日は、失礼いたしました。おいでになったらすぐに案内するように言われております。さあ、こちらです。」

 賈詡は、微笑みながら言う。

 「話を通してくれたのですね。感謝いたします。」

 賈詡は門番に一礼をした。

 自分の様なものに嫌味ひとつ言わず、頭を下げる賈詡に門番は驚き、かえって恐縮した。


 謁見の間であろう場所に通された。

 広々として、非常に豪華な作りである。

 しばらくすると、大きな男が現れた。

 「おお、文和ではないか!久しいのう!」

 大きな男、無論、董卓である。

 賈詡は、拝礼をした。

 「董卓様、いえ、相国様。ご無沙汰しております。お会いしないうちに大変なご出世、本当におめでとうございます。」

 「何を改まっておる。文和、仲穎と呼び合った仲ではないか!」

 「しかし、今はあまりにも立場が違います故、相国様と呼ばせて頂きます。」

 「そうか。まあ、文和らしいの。して、訪問の趣は?」

 「・・・はい。可能であれば、相国様にお仕えしたく、厚かましいとは思いながらも、参上致しました。」

 「おお、それはありがたい話だ。」


 二人の会話に入ってきた男がいる。李儒である。

 「相国様。賈詡殿といえば、涼州でその名を知られた軍師であります。どうでしょう、ご一族の軍事を一任されております牛輔様の軍師になっていただくというのは。」

 「なるほど、流石は李儒だ。いい提案だ。」

 牛輔は将軍を務めており、董卓の養子であるが、実質的な後継者と目されていた有力者である。董卓は言う。

 「文和よ。牛輔は養子とはいえ、我が息子。今は軍事全般を任せているのだ。その牛輔を、軍師として支えてくれないか?」

 賈詡は拝礼し、この話を受けることにした。

 

 本音を言えば、董卓に直接仕え、董卓に諫言できる立場となりたかったが、娘婿で今はそば近く使える李儒が「邪魔」をしてきた感じであった。

 賈詡は「観相」を学んだわけではないが、李儒の人相や物言いからは、あまりいい印象を受けなかった。


―翌日―

 賈詡は、将軍府へ牛輔を訪ねた。

 牛輔は賈詡の名を知っていたらしく、自分の下で働いてくれることを非常に喜んだ。また、官職も董卓の力で、日々進み、太尉掾、平津都尉、討虜校尉と栄転を重ねた。


 軍師として仕えたが、直近で大きな軍事行動の予定などはなさそうであったので、しばらくは牛輔の相談役のような形で日々を過ごした。

 

 賈詡からすると、牛輔は思っていたより、人間性に優れている部分はあるものの、董卓の後継者の様な大きな器ではない、と感じていた。なるほど、李儒が自分を牛輔に付けたのは、牛輔では自分の才能を活かせない、と踏んだのだろう。

 今は、束の間の静かな時が流れていた。

 しかし、間もなくここから約百年近く続く激動の時代が本格的に幕を開けるのである。

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