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流浪の軍師ー三国志・賈詡文和伝ー  作者: 涼風隼人


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第25章 賈詡、鮮卑との戦いに参戦する

 西暦百七十七年(熹平六年)、賈詡は三十一歳になった。

 

 数年前に苦しんだ原因不明の体調不良は、すっかり快癒したといってよい。

 

 この年の四月、大事件が起きる。

 

 北方の異民族である「鮮卑」が、幽州、幷州、涼州の三辺地へ同時に軍事行動を開始したのである。

 今までであれば、涼州総督段熲の出番であるが、段熲は賈詡と入れ替わるような形で、中央政権に復帰し、今いない。


 今回、涼州総督の使命を受けたのは、賈龔、賈詡の父である。


 賈龔は中央への推挙を断り続け、涼州に居を構えてから、既に三十年超、今年六十歳を迎える。当時の六十歳といえば、既に高齢の域に入るが、まだまだその戦場を疾駆する姿は、現役そのものであった。王武もほぼ同じ年であるが、賈龔同様、まだまだ若い。


 王武が賈龔に言う。

「将軍、とうとう、総督にまで昇り詰めたな。」

 「何もそのために働いてきたわけではない。たまたまだ。」

「まあ、そうなんだろうけどな。段熲様の後釜とは、大したものだ。涼州三明、ではなく、四明にしてもらわないとな。」

「馬鹿を申せ。俺なんかは、その器じゃない。」


 兎に角、涼州全体の平和を保つのが総督の役目である。

 一番戦ってきた異民族は羌族であり、鮮卑戦は、実のところ、それほど経験は無い。

 しかし、鮮卑族が一番得意とするのは騎馬戦であり、賈龔としては、望むところである。

 賈詡は当然、軍師として軍営に参加する。

 

 あの窮地を脱して以来、文武共にその研鑽を積む姿は鬼気迫るものがあった。賈龔は賈詡に聞く。

 「詡よ。今回、鮮卑は三辺地から同時進行という大規模な軍事行動だ。我々涼州軍は、どう対処すべきだ。」

 「はい。三辺地から攻めてくるので一見大掛かりに見えますが、討つのはそれほど難しくないと考えています。」

 

 「その理由は?」

 「戦線があまりにも横に広がりすぎているためです。もし、三辺地同時進行ではなく、その鮮卑軍が一丸で涼州を攻めてくるとなれば、それはかなりの脅威になりますが、同時に三辺地からの進行であれば、各個撃破で問題ありません。」

 

 「なるほど。他の戦線で我ら漢軍が敗れた場合はどうなる?」

 「はい。その勢いを駆って、仮に涼州に攻め込んできたとしても、その距離は相当ありますから、侵攻してくる側の疲れは相当なものです。休む暇を与えず撃破すればよろしいかと。」

 「そうか、わかった。今から軍議を開く。将軍たちをここに集めよ。」

 

 賈龔の軍営で軍議が開かれた。

 基本的に、賈詡の提案にそって各軍の役割が決められ、異論なし、ということで、軍議は早々に終了した。

 

 「おお、文和!」

 大きな声で呼びかけてきた男がいる。

 そう、董卓仲穎である。

 

 「仲穎将軍、ご無沙汰しております。」

 「おお。体調を崩したとうわさで聞いたが、大丈夫なのか?」

 「ええ。数年前の話です。今は問題ありません。」

 「それならよかった。今回の作戦立案も文和、お前が中心になっているのか。」

 「・・・。何か、至らぬ点がございましたか?」

 「いや、逆だ。いつもながら見事だと思ってな。」

 「恐れ入ります。」

 

 董卓も今年で三十九歳となる。その武名は、涼州全体に轟き、今や五千騎を率いる将軍の中でも、最上位級の将軍となっている。

 董卓の評判は至って良い。

 まず、戦がめっぽう強い。負け知らず、と言ってもいいほどである。

 そして、気前の良さが図抜けている。

 戦利品をほとんど自分のものにしたり、最初に懐に入れて余りを部下に分配する、という将軍が多い中、董卓はその全てを部下に分配してしまう。特に手柄を挙げた者に対する褒美は尋常ではなく、その権利は全ての兵士にあることから、董卓軍の士気は極めて高いものがあった。

 

 賈詡の父の賈龔も同様であった。

 こういったところが、賈詡が董卓を認めている美点であり、多くの兵を率いるに相応しい将軍だと思っている。

 

 実際、段熲、賈龔と続く涼州総督の椅子は董卓が座るべき、と賈詡は思っていた。賈龔も同様に考えており、重要な作戦の中心には常に董卓を置く布陣をしていた。

 

 今回の先鋒も董卓を中心に編成した一万の騎兵を前面に配置した。その後ろには、王武たっての希望で、賈龔軍三千騎を率いて、王武を後詰とした。

 

 涼州軍は全五万で、ほぼ騎兵で構成されているが、最近は「馬不足」が深刻であった。

 今回は何とか揃えたが、実際、軍を編成しても歩兵の方が多くなることもある。

 

 それ故、今回は鮮卑族に打ち勝ち、相手の馬を捕獲して連れ帰るのも作戦の重要な一部となっていた。

 斥候の話によると、こちらに向かってくる鮮卑の軍はおよそ七万騎、とのことだった。

 涼州軍よりも多い。

 しかし、賈龔は騎兵の強さにおいて、こちらが負けるとは考えていない。いざとなれば、自らの足下に配した五千騎で突撃して応援に入るつもりである。

 

 「こちらから仕掛けよ」と、董卓軍には厳命を下している。郡境に鮮卑の侵入は許すな、とも命じた。

 それ故、董卓軍は郡境を超えて、鮮卑の勢力圏を進んでいる。そして前方に、鮮卑軍が現れた。

 

「速戦速攻」

 涼州軍の合言葉とも言える。

 董卓は賈龔に命じられた通り、自ら仕掛けた。


 董卓軍が勢いよく進んでいく。その動きを見て、鮮卑軍も動き出した。羌族との戦いとは違い、完全に

「騎兵と騎兵の力比べ」

の様相を呈している。お互い最も得意なのが騎馬戦だからである。


 董卓軍の勢いに鮮卑軍は少し押されたが、すぐに体制を立て直した。やはり、対応が早い。

 一部局地戦では、董卓軍が不利な部分も見え始めた。


 後詰で待機していた王武が槍を振り回して号令を出す。

 「さあ、久々に暴れるぞ!一騎も生かして返すな!あとは、馬の捕獲も忘れるなよ!」

 王武がものすごい勢いで直進していく。

 とても六十歳近くの武将とは思えない快活さであった。

 

 王武の通るところ、馬上の敵は消え去り、後から続く者が馬を順次捕獲していく。

 結局、この第一戦は日没まで続き、董卓軍の勝利で終わった。特に王武軍の活躍は目覚ましく、董卓も勲一等は王武軍なり、としたほどである。

 

 二日目。

 朝から激闘が始まる。

 今日も王武は元気である。

 董卓の計らいで、先鋒を仰せつかったのだ。

 

 縦横無尽に原野を掛けていく。

 槍を振り回す、突き刺すたびに、馬上から敵兵の姿は消えていく。

 恐れをなした鮮卑は、退却を開始し、軍営に引きこもった。軍営に近付くと、大量の弓矢で応戦してくるため、董卓軍も一時退却をした。

 

 董卓は、賈龔の軍営から賈詡を呼び出し言った。

 「軍師殿。王武殿の活躍で、この二日間の戦果は上々だ。しかし、こちらに恐れをなした鮮卑軍が陣営に引きこもってしまい、思いの外、大量の矢を射かけてくるので対応が出来ないで困っている。何か、策は無いか。」

 

 賈詡は答える。

 「鮮卑軍が一番得意なのは我々と同じく騎馬戦です。今、軍営にこもっているのは、自ら得意の騎馬戦で負けを認めた証拠です。ここで立てこもり、弓矢で応戦している様では、鮮卑軍の士気はもちますまい。また、矢もそれほど用意はしていないと思います。」


 賈詡は続ける。

「そこで、今晩からしばらくは夜襲を仕掛けましょう。夜襲を仕掛けると言っても、本格的に敵の軍営に突撃するのではなく、大いに鬨の声を上げ、矢が届くか否かのところまで行って引き返す、を繰り返してください。そうすれば、数日のうちに相手の矢も尽きると思います。」


 更に続ける。

「矢が尽きれば、流石に出てくるしかないはず。そこを一気呵成に叩けば、こちらの勝利となりましょう。」

 董卓をはじめ、将軍たちはこの策を採用することにした。

 

 董卓軍は王武を含めると六人の将軍で構成されている。

 夜襲は、今日は董卓軍、明日は王武軍という様に、持ち回りで行うことにした。

 日中は全軍で、鮮卑軍の軍営に向かいは引くを繰り返し、矢を使わせることに成功した。

 

 数日後、鮮卑軍は矢が尽きたのか、向かってくるどころか、退却を始めた。今回は激しい追撃戦は行わず、敵の馬や矢の回収など、物資の確保に重点を置いた。

 

 涼州における鮮卑軍との戦いは、賈龔総督率いる涼州軍の圧勝であった。しかし、その他の方面では官軍が惨敗し、大きな被害を被ったとの知らせが後に入った。

 

 幸い、二辺地で勝利した鮮卑軍が合流して涼州に侵攻してくることは無かったが、今回の敗北によって漢という国の力は大きく低下していることを示してしまったのである。

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