第二十二章 賈詡、閻忠に評価を受ける
翌日、二人はなけなしの金子を出し合って、その金額で買える最高級の酒を手土産として用意した。
既に行列が出来ている。皆、何某かの手土産を持ってきているようだ。段煨が言う。
「これは、かなり待たされそうだな。」
「ああ。しかし、これだけの人が列を成しているのだ。期待してゆるりと待とうではないか。」
かなりの時間が経過した。段煨など、待っている間に居眠りをするほどであった。賈詡は静かに、順番を待った。
そしてようやく、二人の番になった。
受付をしている男に酒を渡し、これで二人を鑑定してもらうように頼んだ。普通は、一人一人手土産を持っていくのが通例であるが、幸い、この受付の男は酒の良さがわかるらしく、「今回は特別だ」と言って、二人を中に入れた。
奥に案内されると、そこに閻忠と思われる人物がいた。
歳は六十代くらいであると聞いていたが、見た目はそれより若く感じた。温かみのある雰囲気を出しつつも、その眼差しは冷静に二人を見ている様であった。
閻忠が言う。
「二人同時というのは珍しい。私は思うままに評するが、それで問題ないか。」
二人は、頷いた。
閻忠はしばらく二人を交互に何度か見つめながら、
「まずは、こちらから。」
と、言って、段煨を指した。
段煨は固唾をのんで、閻忠の言葉を待つ。
「そなたは、我慢することを覚えれば、その才覚は儒将になれるものと考える。励まれよ。」
段煨は興奮した。
「儒将」とは、その文字が示す通り、儒教的学識と考え方を合わせもった将軍、要するに「名将」を著しているといっても差し支えない。その儒将を目指せ、と言われた段煨は丁寧に拝礼した。
「次は、こちら。」
閻忠は今一度、ゆっくりと賈詡の人相を見た。そして言う。
「そなたは、重厚で深みのある精神力があり、人の想像を越えた人物になる可能性を秘めている。励まれよ。」
賈詡は拝礼した。
二人は退出した。
外に出たあと、段煨が言う。
「文和よ。俺は自分が儒将と言われて興奮した。しかし、お前は、人の想像を超えた大人物になるという。すごい、評価だな。」
「言葉をかえるな、仲華よ。可能性を秘めている、というだけの話。お前への鑑定の方が具体的であったろう。」
「まあ、そうだけどさ。鑑定の結果はすぐに噂になるからな。俺達も注目されるかもな。」
実際、この閻忠の段煨と賈詡に関する人物鑑定の評価はたちまちに噂となり、二人とも若き才能として、宦官近くに仕える黄門郎とはいえ、清流派の一部からは注目される存在となったのである。