第16章 賈詡、董卓と出会う
賈龔軍が、今回の大作戦の名誉ある先鋒軍に任命されたことで、賈龔軍の賑わいはひとしおであった。
そして、他より三将軍がそこに参加するということで、賈龔の軍営で軍議が行われることになった。
副将の王武は張り切り、整然と、そして厳粛に三将軍を迎えるように全軍に徹底した。
間もなく、三将軍が賈龔の軍営を訪れた。
「思ったより、若いんだなぁ。」
王武が呟く。
実際、李道、郭遠は三十代半ば、董卓に至っては二十代後半と、王武よりも随分と若かった。
若いとはいえ、立派な将軍である。
王武は三将軍を拝礼して迎え、賈龔の下に案内した。
軍議は、一時間ほどで終了した。
賈詡は賈龔より、軍議終了後の酒宴の準備を命じられていたので、軍営の外で待機していた。賈詡は三名の将軍を酒宴の場まで誘った。
酒宴には賈龔、三将軍をはじめ、王武など、賈龔軍の主だった面々も参加し、その末席に賈詡も同席した。
酒宴は和やかに進んだ。三将軍も、正直言えば、涼州出身ではない賈龔に属するのが釈然としなかったようだが、段熲総督が賈龔を認めていること、賈龔の将軍としての威厳はあるが、決して偉ぶらない人柄に触れ、今回の人事を納得したようだ。
酒宴で活躍したのは、やはりこの男、副将の王武である。
王武は、自分よりも年下の三将軍を心よりもてなした。
中でも、年が一番離れている董卓と意気投合し、酒宴は大いに盛り上がり、終わりを迎えた。
李道、郭遠が帰った後も、董卓は王武と盃を重ね、それを微笑ましく見ていた賈詡を王武が呼んだ。王武が言う。
「董卓将軍、こちらは我が大将、賈龔様の嫡男の賈詡だ。今回が初陣で、将来は軍師を目指している。」
「ほう、この様な華々しい戦場が初陣とは羨ましい。」
「お初にお前にかかります。賈龔が長男、賈詡文和と申します。今後ともよろしくお願い申し上げます。」
「ほう、文和とは、かの将軍のお子には似つかわしくないように思うが。」
「いえ、私の名の詡は、言葉に羽と書きます。父のつけてくれた名前と字はまさしく相性がいいと言えましょう。」
「そうか、なるほど。して、文和殿は軍師を目指すとか。」
「はい。争いごとを文の力で平穏におさめることこそ我が願いであり、将軍である父の役に立つためにも軍師になりたいと思っております。」
「文和殿は将来有望そうだな。」
王武が口を挟む。
「そうだぜ、将軍。賈詡は俺の部隊で、厳しい軍事訓練を課したが、十分についてこられた。そんじゃそこらの学問と口だけの輩とは、全然違う。肝の据わった男だよ。」
「なるほど。確かに。文和殿、改めて名乗らせていただく。董卓仲頴と申す。遠慮せず、仲穎と呼んでくれ。」
「将軍様を字で呼ぶなどおこがましいですが、公式の場以外では、そうさせて頂きます。私のことは文和殿などと言わず、文和、とお呼びください。」
「わかった。文和、お主とは気が合いそうだ。今回の戦も作戦立案を頼むぞ、軍師殿。」
三人は笑いあった。