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第15章 賈詡、軍師見習いとなる

 涼州総督の段熲からの招集命令を受けて、賈龔隊はすぐさま編成に入った。終わり次第、直ちに出動をする予定である。姑臧城の守備は他の隊が請け負うことになり、賈龔軍全二千人の出動である。

 

 賈詡は、父の賈龔の下に軍師見習いとして配置された。

 賈龔は編成に不備が無いか賈詡を連れてその様子を見て歩いた。そして賈詡に聞いた。

 

 「俺は、軍は速さに勝るものは無い、と考えているが、詡よ、お前はどう思う。」

 「はい。速さは特に短期決戦では最重要だと思います。」

 「うむ。今回は、大規模な戦いとなり、場合によっては長期戦の様相を呈してくる。その場合は、どうか。」

 「はい。短期決戦と違い、長きにわたる戦いの可能性がある場合は、まず、事前に綿密な計画を立てなければなりません。その点、最重要は、この計画、作戦になるでしょう。しかし、作戦が決定すれば、その実行において速さが重要なのは言うまでもありません。」

 

 「なるほど。お前の目から見て、王武はどうだった?」

 「はい。王武様は一見、豪快であると当時に、見方によってはがさつな感じではありますが、実のところ作戦計画を深く考え、果断に進むところなどは、まさに一軍の将の器と言えましょう。この軍に王武様が副将としておられることは、最大の武器と言えるのではないでしょうか。」

 「うむ。俺も王武は既に将の器、と思い、何度も推薦して独立させようと思っているのだが、本人が激しく拒否するのでここにいてもらっている。」

 「私は王武隊で軍事訓練に参加していましたが、王武様はことあるごとに兵士たちに父上、賈龔将軍の話をしておりました。そして、話の最後にはいつも、俺は賈龔将軍の下で働き続ける、と言っておりました。」

 「俺にとって、王武がいてくれることは、本当に心強い。しかし、それが本当に王武の為になっているのかわからぬ。」

 「王武様はもう決めた、と言っておりました。あの性格です、どうしようもないのではないでしょうか。」

 賈詡は笑いながら言った。賈龔もつられて笑った。

 

 そして編成は順調に進み、賈龔に完了報告が入った。

 賈龔はそれを受けて、全軍に指示を出す。

 

 「軍令!ただいまより、急行軍の構えで張掖郡を目指す。五日で到着するぞ、遅れるな!」

 全軍が勢いよく出動していく。

 通常の行軍であれば、十日以上はかかる距離であるが、賈龔軍は全二千人が騎兵であるので、急行することは可能であるといえた。

 先鋒に配された王武が全軍を牽引する格好となり、その速さは尋常ではなく、目標より一日早い四日で張掖郡の軍営まで到着した。


 張掖郡郡内の軍以外では、賈龔軍が最速の到着であった。

 涼州全土から招集をかけたのであろう。

 騎兵だけで、五万をくだらない軍勢である。

 総大将は、言うまでもなく涼州総督段熲である。


 招集令を受けた全軍が揃ったのは、賈龔が到着した七日後であった。直ちに、軍議が行われた。軍議に参加するのは一千騎以上を率いる「将軍格」の者たちからである。

 賈龔も当然、参加する。そして、従者として賈詡を連れていった。本当は王武を連れて行く気だったが、こういった機会は中々ないので、賈詡の経験になるから、と言われそうすることにした。

 軍議に参加したのは、総督である段熲と、将軍格の十二名であった。従者は、それぞれ後方に控えた。

 段熲が第一声を発する。

 「皆、良く集まってくれた。この軍の中心は、言うまでもなく、将軍格の君たち十二名になる。当然、重要な役割を担ってもらうことになる。皆、よろしく頼む。」

 段熲が頭を下げた。


 段熲といえば、後に「涼州三明」と呼ばれる将軍の筆頭ともいえる人物であり、異民族に対する対応は最も苛烈であった。

 それほどの人物が自分たちに頭を下げて頼んだ。

 段熲は現在の作戦を数年前から遂行しており、今回をその「仕上げ」と考えている節がある。それ故、涼州全域に招集令を出したのであろう。


 段熲は言う。

 「まず、今回の作戦で最も重要である先鋒に関しては、武威郡の賈龔将軍、そなたに任せたい。」

 軍議の場がざわついた。


 「武威郡に賈龔あり」とは、ここにいる全ての者が知っているであろうが、今回の戦場は張掖郡である。故に、先鋒は張掖郡の将軍が選ばれるものと思っていたからだ。段熲が続ける。

 「賈龔将軍は、我が呼び出しに応じて、武威郡からここまで、四日で駆けつけてくれた。その迅速性は並ではない。今回の作戦の先鋒を務めるに、ふさわしいと考えている。」

 更に続ける。

 「賈龔将軍の先鋒隊に、千騎を引き連れてきてくれた将軍三名も参加するように。」

 名前を呼ばれたのは、李道、郭遠、董卓の三名であった。 

 他の将軍達にもそれぞれ役割が与えられた。

 軍議が終了した。

 

 賈龔が賈詡と共に段熲の軍営を後にしようとしたとき、段熲が声を掛けてきた。段熲が言う。

 「賈龔将軍。俺はお主が百五十騎の小隊を率いているときから注目していた。」

 「ありがとうございます。将軍にご推挙していただいた御礼、今までできずに申し訳ございません。」

 段熲は笑いながら答える。

 「知っておったのか。礼には及ばん、俺が勝手にやったことだ。あまりのほれぼれとする指揮ぶりであったのでな。」

 「本当にありがとうございます。」

 「うむ。賈龔、そなたが我が故郷の武威郡姑臧城にいてくれるおかげで、あの辺りは平穏が保たれておるからな。」

 「恐れ入ります。」

 賈龔は拝礼をし、軍営を後にした。

 

 賈詡も段熲の名は当然に、知っている。

 名将の誉れが高い。

 今回、直接話をすることは出来なかったが、段熲の醸し出す「名将」の雰囲気を、賈詡は一生忘れることは無かった。

 この名称の雰囲気を「圧倒的に越す」男に賈詡は出会うことになるが、それは随分と先の話になる。

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