第14章 賈詡、初陣の機会到来する
賈詡は、副将である王武の下で、連日軍事訓練に参加した。
王武の隊は、当然、賈龔軍の中核を担う。
それ故、訓練も厳しい。この厳しい訓練の後であっても、かつて賈龔が文の奨励を行った際に応募した者が最も多く、今でも続けている者が多い。それが、王武隊であった。
やはり軍人であって、一番の人気は孫子の兵法であった。
訓練の時は賈詡の上官であっても、学問に関しては王武がまるで弟子の様に質問して学ぶなど、王武の隊に所属したことは、賈詡にとっても貴重な経験となった。
そして、とうとう、初陣の機会が訪れる。
賈詡が思っていたものより、思いの外、大規模な軍事活動での初陣となる。
この時、涼州の軍事を束ねていたのは、涼州武威郡姑臧城が生んだ英雄、段熲総督であった。現在姑臧城の城主を務める段麓とは親族関係にあるが、段麓のような「小物」と違い、真の英雄と言っても差し支えない大人物である。
その段熲が、武威郡の隣で、異民族の進行が激しい張掖郡にて守備に当たっていた。激しい争いの末、段熲軍の損耗も激しかったが、それ以上に異民族に大打撃を与えることに成功、これを機に一気に攻勢に出るために、涼州全体の軍に対して招集がかかったのである。
段熲からの招集に、賈龔は胸を躍らせた。
賈龔にとって、数少ない、尊敬できる軍人というのが段熲だからである。実は、まだ賈龔が百五十人隊を率いているときにも、段熲からの招集はあり、賈龔隊も参加した。
賈龔隊の一糸乱れぬ統率と、強力な破壊力を見て、上位の将軍に抜擢し、今の地位にしてくれたのが何を隠そう、段熲なのである。
その礼もまとも言えぬまま、かなりの年月が経過している。
今度は、二千人を率いるれっきとした「将軍」なので、軍議にも当然、参加できよう。ようやく、段熲と直接話せる機会が得られるかもしれず、賈龔は人知れず興奮していた。
この様な、賈龔にとっても「大舞台」といえる戦場が賈詡の初陣になることに、賈龔はやや不安を覚え、王武に聞いた。
「王武よ。この様な大規模な軍事行動に賈詡を伴うことはどう思う?」
「問題ないぜ、将軍。賈詡は本当に軍事演習にもしっかりついてきている。ただ・・・。」
「ただ、なんだ。」
「一兵卒としての初陣というよりは、やはり、軍師として、作戦面にて参画させるべきだろう。」
「軍師として・・・。しかし、他の者どもが納得するだろうか。」
「するさ。将軍は知らないかもしれないが、今や賈詡は我が王武隊一の学識ある者として、多くの兵士たちが師と仰いでいるんだぜ。誰もが別格、として認めているよ。」
こうして賈詡は、賈龔軍の軍師見習いとして、涼州全体の軍が招集された張掖郡の戦いに参加し、初陣を果たすことになるのである。