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第11章 賈詡、静と兵法を語る

 静が賈詡に聞く。

 「賈詡よ。そなたは兵法に一番関心を示すが、その中で一番と思う兵法書はどれか。」


 賈詡はすぐに答える。

 「やはり、孫子でしょうか。」

 「なるほど。理由は?」

 「はい。孫子はいい意味で、抽象的な表現が多いと思っています。」

 「抽象的、か。」

 「はい。それ故、読み手が自分で考え、様々な形で活かすことが出来ると思い、孫子が一番である、と考えます。」


 「なるほど。孫子、呉子、司馬法、尉繚子(ウツリョウシ)六韜三略(リクトウサンリャク)。我々が学んできた兵法書であるが、その抽象性が示す汎用性は、確かに群を抜いて、孫子が優れておる。どの書も後世に残るとは思うが、恐らく、後の世でも孫子が一番重宝されるであろうな。」

 「はい。私もそう思います。」


 「しかし、だからといって孫子だけに傾倒していてはいけない。賈詡よ、呉子のいいところを挙げよ。」

 「はい。呉子は、戦国時代初期に魏に仕え、将軍としてだけではなく、政治家としても多大な功績を残した呉起の著したものです。その経験から、具体的な事例に富み、孫子とともに、孫呉の兵法、と並び称される価値があるものだと思います。」


 「うむ。司馬法は?」

 「はい。司馬法に関しては、戦国時代、斉の司馬穰苴(シバジョウショ)の著とされています。古代の戦の作法が詳述されており、そういう点では、今の時代には合っていない部分もあります。しかしながら、戦争に関しての視点というのは、今でも十分に通用する部分がありますし、上官たるものでも頭を下げるべき時は下げるべきであり、責任を当然取るべき、というのは、当然のことでありますが、これが書かれた時代では、かなり先を言った論だと思います。」


 「続いて、尉繚子。」

 「尉繚子に関しましては、私としては直接的な学びとしては、孫子を越した一番の兵書であると思っております。」

 「ほう、孫子を越す?」

 「はい。内容が軍事だけではなく、政治、経済にまでも言及し、内容的には法家に通ずるものがあり、私が最も大事と考えている信賞必罰が全編に貫かれているところが、私の好むところです。」

 「信賞必罰、か。」

 「はい。一番重要な、人を動かす要諦であると、今のところ考えております。」


 「なるほど。よろしい。六韜三略は?」

 「六韜三略に関しましては、あの太公望の著書と言われています。古代の戦の礼の部分が厚く記されており、汎用性という部分では現在において難しい部分があると思いますが、その裏に貫かれた勝利への執念はどの兵書よりも熱がこもっているように感じます。」


 「うむ。それぞれの良い部分をよくとらえた論説であった。賈詡、お前のいいところはそこだ。何事においても、良い部分をしっかり捉えている。悪い部分、出来ていない部分の指摘は誰でもできることだ。人においてもその弱点を論う(アゲツラウ)よりは、良い部分を見つけて活用できる道を探ることをするのが一番であると心得よ。」

 「はい。承知いたしました。」


 賈詡が最も好んだ「孫子の兵法」は、二千年の時を越えて、今もなお、世界中で愛読をされている。賈詡が指摘したように、その汎用性から幅広い分野で活用されている表れであろう。そして、何故、孫子がここまで残ったのか。それは後に賈詡の君主となる、あの天才、曹操がいたからなのであるが、そのあたりは、後々語ることになろう。

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