ロミオとジュリエット、かも
1話完結ショートストーリーです。
サクッと読めます。
アタシ、いちにのさん、で彼の背中に飛び込むのよ。
白いシャツの大きな塊に狙いを定める。艶のある綺麗な栗色の髪をかき上げながら、背中を丸めてスマホを見つめている。
よぉく狙いをつけて。今だ。
「わっ」
びっくりしたぁ、と私を抱きとめて笑う。長いまつげが光って見えた。
「急に飛び込んでくるなよ」
怒っているのか、褒めているのかわからない。甘い音程でアタシを叱る。
「ゴメンな。ちょっと連絡が入って」
抱きとめられた姿勢のまま首を傾げると、ふんわり暖かい掌が近づいてきた。
あなたが撫でてくれる。何度も行き来している掌が気持ちよくて、暖かくて眠くなる。
「眠いの?」
ふわぁ、とあくびをしたら、彼は目じりに優し気な皺を作って笑った。
そうよ。どうしてだか知らないけれど、あなたのそばに居ると眠くなるの。
「いいよ」
彼の匂いの沁みついたブランケットを引き寄せて、目を閉じた。
「ゆっくりお休み」
眠りから覚めたら、また遊んでね。約束よ。
僕は、ブランケットで丸くなって眠る様子を見ながら、先ほど入った連絡に返事を送る。
知らないうちに、まつげに涙がくっついていたからぐいっと拭う。
隣で眠れるぐらい慣れたけれど、この子とはもう別れる。
サヨナラはツライ。でも大好きだから。
決めたはずなのに、心は揺れている。
小雨の降る日、学校の校門の横に、段ボール箱に入れられていた子猫。他にも何匹かいたらしいけれど、最後まで残っていたのがジュリエットだった。
鳴いて、ひっかかれながら捕獲して、家まで連れてきて、水を飲ませてタオルにつつんで、動物病院に連れて行って。
ケガも病気もなかったことに安心して、ごはんを食べさせて捨て猫掲示板に情報を提供した。
僕の家は、僕以外みんな猫アレルギー。
別れは決まっていた。
新しい飼い主の隣で眠れるぐらい成長したら、会いに行ってもいいかな。
背中を撫でる。尻尾がピクリと動いて、小さな声で彼女は「ミ」と返事した。