君に会いたくて、異世界を超えて
「う、うぅ……ここは一体……?」
目を覚ました私は、薄暗く冷たい雨が降りしきる中、見知らぬ場所に立っていた。
猛スピードで駆け抜ける、轟音を響かせた金属の箱。奇妙な服装で慌ただしく歩く人々。手には見たこともない光る板状の物体。そして、夜空にそびえ立つ数え切れないほどの巨大な建物。
「本当に……ここ、どこなの?」
混乱しながら雨の中をさまよっていると、突然、二人の男が私を囲んだ。
「ねぇ、コスプレのお嬢ちゃん。暇ならさ、俺らと飯でも行かね?」
軽薄な笑みを浮かべる男たち。危険な雰囲気が漂い、背筋がぞわりとする。
関わってはいけないタイプの人間だと直感し、私は警戒しながら周囲を探った。
こんな状況で魔力探知は難しい……早くジンとユキヒロを探さなきゃ。
「すみません、急いでるので」
そう言って立ち去ろうとしたが、男の一人が無理やり肩に手を回してきた。
「いいじゃん、飯ぐらい奢るしさぁ。そのあと気持ちいいことしてやるからよ」
「おい、それ以上はやめとけって——」
もう一人が慌てて止めようとするが、もう限界だった。
「あぁもう……鬱陶しい!」
小さく呟き、残り少ない魔力を振り絞る。刹那、私の周囲に轟々と炎が渦巻いた。
「な、なんだこれ!?」
男たちは驚き、腰を抜かして地面に崩れ落ちる。周囲の人々が、私を奇妙な目で見つめていた。
まずい、こんなところで魔法なんて目立ちすぎる……。
私はすぐに魔法を解くと、杖を浮遊させてその上に乗り、一気に夜空へと飛び上がった。
「なにあれ!?」
「マジックショー……?」
街からは人々のざわめきが聞こえてくる。
この世界では魔法は一般的じゃないのかも……。早く仲間を探さないと。
※
広と同棲を始めて三日目。
俺はバイトの面接に向かうため、広が買ってくれた服を身につけて外に出た。
広、毎朝俺より早く起きて出勤してるんだよな……俺も負けられない。
履歴書と地図を手に階段を駆け下りたその瞬間——。
「ユキヒロ……?」
聞こえるはずのない、懐かしい声に俺は固まった。
振り返った先には、雨と泥でぐしゃぐしゃになった黒のローブ、炎のように真っ赤なマント、ぼろぼろの魔法使い帽を身にまとった少女が立っていた。
「アリサ……なんでここに? 一体どうやって……」
「ユキヒロ……やっと、やっと見つけた!」
アリサは涙を浮かべながら勢いよく胸に飛び込んできた。
「本当に……本当に会いたかったよ!」
「ちょ、ちょっと待てアリサ! 周りの視線が!」
俺は慌てて彼女を連れ、広がいないことを確認してから、部屋の中へと招き入れた。
※
アリサは部屋を物珍しそうに眺めている。
「ここ、宿なの?」
「いや、ある人に住ませてもらってるんだ。俺もちょっと色々あって……」
「ふぅん……。その人、まさか女じゃないよね?」
「お、鋭いな! まあ知り合いで——ちょっと待て、なんでそんな怖い顔してるんだよ!」
鋭く睨むアリサに冷や汗が流れる。
「……愛人?」
「いや全然違うから!」
アリサは安堵したようにため息をついた後、この世界で目にした奇妙な光景を話し始めた。
猛スピードで動く金属の塊、奇妙な服を着た人々、光る板状の物体、空高くそびえ立つ巨大な建物群……。
「その話は後で聞くよ。俺、実は急ぎの用事があるんだ」
「あ、そうなんだ……あの、お風呂とかないかな? 泥と雨でびしょびしょで……」
俺は自分の服をアリサに渡し、風呂の使い方を教えた。
「ありがとう、ユキヒロ。この世界のお風呂って不思議。魔法じゃないのにお湯が出るなんて……それより、急いでなかった?」
「……やばい! 遅れる! やばいマズイ! 俺ちょっとここ出るから変な人が来ないようにしといてくれ! 夕方くらいにここの住人の人が来るからその人だけは追い出したらダメだぞ!」
「わかったよ」
「あと魔法は使うなよ!」
「分かってるッてば! ユキヒロ!」
※
夕方16時頃。
今日は早く帰れたし、ユキヒロにケーキ買って驚かせちゃおっと。
胸を躍らせながら自宅に戻った私は、玄関で見覚えのない女物の靴に気づく。
まさかね……?
不安を覚えつつリビングの扉を開いた瞬間——。
「「——ッ!?」」
目の前には、金髪の美しい少女が肩にタオルを巻いただけの無防備な姿でびしょ濡れになって立っていた。
「「は……?」」
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