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異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!  作者: 沢田美


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集結した後に待ち受ける展開

「おかえり、高宮。さっきから警察や救急車のサイレンが止まらない感じだけど、君は大丈夫だったかい? あの化け物は」


 俺が、土埃と血の匂いを少しだけ纏ったままアジトへ戻ると、リーダーがいつもの穏やかな調子で出迎えた。

 荒事の後とは思えないその落ち着きに、俺は肩から力を抜き、ため息をひとつ落とす。


「大変だったよリーダー。あんな化け物……俺でも勝てるわけない、て思いますよ」


「そうだね。でも、そんな化け物を勇者たちが倒した。――青山さんから貰ったマジックアイテムを通して見ていたよ」


 全てを見透かすような口調。俺は思わずもう一度、深く息を吐いた。

 その時、リーダーが僅かに顔を寄せ、真剣な眼差しで俺を覗き込む。


「もしかして、ビクついてるのかい? 高宮」


「……そう見えます?」


「あぁ、見えるさ。あんな化け物を世に解き放ったのは――おそらく青山さんだ。けれど、それを“簡単に”打ち倒す勇者は、もっと恐ろしい」


「じゃあリーダーだったら、どうするんだよ」


「うーん、そうだね。私だったら“相手のすべて”を壊して、精神を追い詰める」


 言い終えると同時に、懐から冷たい金属の重みが現れる。

 リーダーは拳銃を抜き、迷いなく銃口を俺の額へ――。


「こんな風にね」


「リーダー……脅かすのはやめてください。心臓に悪いです」


「――フッ。ごめんごめん」


 乾いた冗談のように銃を下ろすと、リーダーは俺の手を取った。

 その顔はどこか邪悪で、底の見えない闇を湛えている。企みを孕んだ笑みのまま、俺を奥へと連れていく。



 あの巨大な魔獣との戦闘を終え、俺たち勇者パーティー【アイラを除く】と幼馴染の広を連れ、現場から十キロ以上離れた飲食店に身を落ち着けていた。


「セシルスはどうやってこの世界に来たんだ? やっぱり、アイラと同じ方法でか?」


 俺の問いに、セシルスはコーヒーカップを指先で回し、湯気越しに穏やかに微笑む。


「そうだよ。先にアイラを行かせたんだが、いつまで経っても帰ってこない。だから痺れを切らして、私がこの世界に降り立ったわけだ」


 「……ごめんなさい、心配かけたわ」

 アイラがスープを啜りながら小さく頭を下げる。銀糸の髪がランプの光を掠め、淡く揺れた。


「いや、謝るのは俺の方だ。巻き込みっぱなしでな」

 俺が言うと、広が苦笑する。


「まったく……“晩ご飯までに帰ってくるのよ”って言ったのに、毎回“世界の命運”が挟まるの、どういうわけ?」


「すまん」

「すまん」

「すみません」

「ごめんなさい」


 四人分の謝罪が重なり、テーブルに小さな笑いが弾ける。

 店内は戦後のざわめきに似た温かさで満ち、カトラリーの音が心地よく響く。


「で、セシルス。どうやって俺たちを見つけた?」

「君の残留魔力だよ、ユキヒロ。――この世界でも“匂い”は残る。氷で輪郭を浮かび上がらせれば、辿れる」


「便利ね、セシルスの氷嗅覚」

 アリサがからかうと、セシルスは肩をすくめる。


「理論だよ、感覚じゃない」


「はいはい、理論理論」

 ジンがパンをちぎり、蜂蜜を塗って俺の皿に乗せてくれる。相変わらず世話焼きだ。


 そんな日常の空気に、俺の胸の奥の緊張がゆっくりと解けていくのを感じた。

 ――守りたい。こんな時間を。


 会計を済ませ、店を出る。夕暮れは群青へと沈み、街灯がひとつ、またひとつと灯り始めていた。


「この辺りは、もう危険はないわよね?」と広。

「……“今は”な」俺は空気を嗅ぐ。鉄とオゾン、遠い焦げの匂い――戦の余韻はまだ消えていない。


 その時だった。


 パキ……パキパキ……。


 足元の石畳に、髪の毛ほど細い“黒い亀裂”が走る。

 最初は一本。次の瞬間には、蜘蛛の巣のように枝分かれし、そこから紫の光がゆっくりと滲み出した。


「……昨日の、あれだ」

 アリサの声が低くなる。子どもが近寄ろうとして、ジンが素早く抱き上げた。


「危ない、下がってな!」


 紫光は脈打つ。鼓動のように、一定の間隔で――ドクン。ドクン。

 光に合わせて空気が震え、耳の奥で“チリ……チリリ……”と嫌な音が鳴る。


「ユキヒロ」

 セシルスが視線で問う。俺は頷き、エルドリスに手を添えた。


「広、避難誘導を。ジン、周囲の結界の準備。アリサ、裂け目の“温度”を下げてくれ。伸長を遅らせる」

「了解」

「任せろ!」

「わかった!」


 アイラは静かに前へ出る。木剣のように見える鞘を軽く叩き、目を細めた。

「――いる。向こう側に、誰かが“開けて”いる」


 俺の脳裏に、冷たい笑みと銀の髪が閃く。


「……やっぱり、お前か。銀髪の男」


 言葉と同時に、亀裂の中心が“裏返る”。

 窓のように開いた闇の奥で、何かが蠢いた。



「いい顔だ、ユキヒロ。警戒の匂いが濃い」

 どこか別の場所。暗い部屋。

 黒いジャケットの男――高宮は壁一面に浮かぶ手鏡の幻像を見上げる。紫の光が彼の瞳に、幽かな炎を灯した。


「リーダー、やっぱり勇者は動いた」

「うん。観察はここまでだ。――“広げよう”。向こうとこちらの、境界を」


 リーダーはふっと笑うと、指先で鏡面をなぞった。

 その動きに合わせ、街の亀裂が音を立てて拡大する。



 現実へ――。

 紫の光が弾け、亀裂の中から黒い腕がにゅるりと伸びる。

 アリサの冷気が地面を白く染め、セシルスの魔法陣が幾重にも重なる。


「来るぞ!」


 俺は一歩、前へ。

 エルドリスが鞘走りの音を立て、刃が闇を照り返した。


「ここは――渡さない」


 勇者パーティーの“日常”は、剣呑な現実へと音を立てて反転する。

 戦いの幕が、再び上がった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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