最後の切り札
「こっから全力で行かせてもらう」
魔神は魔力の塊を凝縮させている。
その巨大な魔力の収束を目の前にしても、俺は逃げることも、慌てることもしない……ただ、その光景に笑っていた。
⸻
〈伏魔天命〉
概要
その場にあるあらゆる魔力を自身に集約し、その力で身体を強化する。
そして“全ての魔力”とは、相手が纏っている魔力も含まれる。
スキル解放の感覚は単純。鍵を掛けられた鎖を外すように、緩めるだけでいい。
⸻
「これで粉微塵になって消え去れぇ! 人間ッ!」
魔神は下卑た笑い声を上げながら、俺に向けて巨大な魔力の塊を振り下ろした。
「伏魔天命」
俺がそう呟いた瞬間、この場に散らばる魔力が俺の体へと集約されていく。
その対象は、結界を形成していたパラレルワールドの魔力、そして膨れ上がった魔神自身の魔力すらも――。
一秒後、俺の頭上にあったはずの巨大な魔力の塊は、跡形もなく消滅していた。
「なんだとッ!?」
俺は集めた魔力を全てエルドリスを握る右手に込める。
――エルドリス。俺が名付けたその勇者の剣は、持ち主の魔力量によって切れ味も耐久も攻撃力も変化する。
この一帯の魔力を取り込んだ今の俺にとって、この剣に敵うものは存在しない。
「調子に乗るなよ! 魔力が尽きたなら、拳で貴様を殺すのみ!」
魔力がなくとも凄まじい速さで迫る魔神。――だが、それは俺とエルドリスには好都合だった。
振り下ろされた拳――しかし、それが俺の目の前で止まる。
すでに俺の剣は奴の心臓たる魔石を貫いていたからだ。
「ば、馬鹿……な……」
そう言い残すと、魔神は塵となって消滅した。
崩れ落ちた肉体から、ひとつの魔石が転がり落ちる。
気がつけば結界は消え、俺は人々の行き交う道の真ん中で、魔石を握りしめていた。
「これで……ひと段落ついたかな」
それを拾い上げた俺は、ふと夜空を見上げた。星が綺麗に輝いていた。
※
〈アリサ視点〉
私がジンとアイラと共に転移魔法の魔法陣を潜ろうとしたその時――。
どこからか轟音が響いた。
とっさにジンとアイラを見ると、アイラは臨戦態勢に入り、ジンは右腕から血を流していた。
私は咄嗟にジンへ駆け寄る前に、防御魔法を展開する。
「あーあ、頭に命中しなかったか……」
闇の中から男の声が響いた。
アイラは血相を変えて辺りを見渡す。
「誰だ!」
声のした闇の中から、銀髪の男が一人現れる。
「へぇー、あの人の言う通り、この世界に魔法なんて本当にあるんだ……」
男の手には“拳銃”と呼ばれるもの。この世界ではドラマでしか見たことがない代物だ。
さらにその背には、よく磨かれた刀が背負われていた。
「今からお前らを殺すけど、恨まないでね? これ、命令だからさ」
気だるげな声を吐いた男は、魔法による身体強化すら使わず、凄まじい速さでジンの背後に回り込む。
黒く光る刃がジンの首筋に迫った。
「ジン!」
「調子に乗るな」
ジンを助けたのは――剣を抜き放ったアイラだった。
刀身と刀身がぶつかり合い、火花が散る。
「――嘘っ……! なんでアイラの剣の攻撃を、この世界の刀が受け止められるの!?」
私は知っている。この世界の物は、あの世界に比べて耐久性が数段劣ることを。
あの世界の武器は魔物の素材や純度100%の鉱石を使い、強度を高めている。
なのに今、この男はアイラの攻撃を受け止めている――。
それでもアイラは焦らなかった。
「剣術に自信がある顔をしているな? だが、私には勝てん」
刀身に魔力を込め、人の速さを超える剣速で男の刀を弾き返す。
そして隙を突き、男の胴を斬り払おうとする――が、男は左手の拳銃を撃った。
「私を舐めるな」
アイラは放たれた銃弾を真っ二つに斬り、すぐに男の背後を取る。
「マジかよ……やっぱり化け物だな、異世界人って」
刃が男の首に迫る――その瞬間、男は懐から何かを取り出した。
「アイラ! コイツ何か持ってる! 避けて!」
「――チッ」
「バレたか」
直後、男のいた場所が爆発に包まれた。
アイラは間一髪で回避し、私の隣へと着地する。
土煙が晴れた頃には、男の姿はどこにもなかった。
「何だったんだ、今の……」
驚くアイラを横目に、私はジンへ駆け寄り、回復魔法を施す。
「急いで魔法陣を通る――ッ!」
アイラの足が止まる。私も隣に立ち、目を疑った。
「う、嘘……」
異世界への転移魔法陣は破壊され、黒く焦げて使い物にならなくなっていた。
「さっきの奴といい……どうやらこの世界は、私たちをあの世界に返すつもりはないらしいな」
アイラの言葉とともに、私の脳裏に浮かんだのは――さっき戦った銀髪の男と、ユキヒロの姿だった。
「……最悪」
※
〈別視点〉
「あーあ、無理無理。あんな化け物と真っ向勝負とか……リーダー、無茶振りやめてもらえます?」
崩れたビルの中で、俺はリーダーに愚痴をこぼす。
暗がりから現れたリーダーは、綺麗な金髪に整った顔立ち。白いアンダーシャツがよく似合っていた。
「仕方ないだろ。お得意様が“好条件”っていうセールを持ちかけてきたんだから」
「リーダー、セール好きですもんね」
「当たり前だろ。スーパーのお惣菜セールなんて最高じゃないか」
「……ですよね。それで? 仲間たちには伝えてあるんですか? ――“別世界からの侵略者”のこと」
「あぁ、言ってあるさ。だからこそ、我々“掃除屋”の出番なんだよ」
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