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異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!  作者: 沢田美


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舞い降りる最強の剣姫

「アイラ……」


 降り立った瞬間に、俺はそれが誰なのかを直感した。青空から舞い降りるその人影は、かつて幾多の修羅場を共に潜り抜けた――剣姫アイラ。

 彼女は軽やかに地面へ着地すると、俺の隣に並び、口元を吊り上げて不敵に笑った。


「話は後よ。まずは目の前のデカブツを片づけましょう」


 挑発めいた声音とともに、腰に差していた剣を抜き放つ。その所作には迷いも澱みもなく、剣を手にした彼女の姿からは、圧倒的な自信と強者特有の余裕がにじみ出ていた。

 俺は思わず苦笑を浮かべる。


「お前のその態度、相変わらずだな」


「そうね――なら、今から私の動きに合わせてくれる?」


「あいよ〜」


 そのやり取りを最後に、アイラは駆けだした。まるで戦場そのものを愉しむかのような笑みを浮かべ、巨体の魔界騎士へと突進する。俺も遅れをとるまいと、足に力を込めて彼女の後を追った。


 魔界騎士が背負う大剣を振り上げる。空気を裂くような重圧が迫る。

 しかし――。


「バカね」


 剣閃が走った瞬間、大剣は粉々に断ち割られていた。騎士の瞳に驚愕が宿る。その一瞬の隙を、アイラは決して逃さない。


「隙ありすぎ」


 彼女の全身から魔力が奔流のように溢れ出した。後方でそれを目にした俺も、思わず息を呑む。

 しなやかで無駄のない剣筋が舞い踊り、閃光のように魔界騎士の巨体をX字に斬り裂く。血飛沫が弧を描き、空を鮮やかに染め上げた。


「アリサ! 今だ!」


「OK!」


 俺の声に応え、アリサが地を蹴る。彼女の足元から放射状に巨大な魔法陣が展開され、紅蓮の光があふれ出す。灼熱の奔流が空気を震わせ、周囲の景色を赤く染め上げた。

 そして、閃光とともに業火が爆ぜ、魔界騎士は炎の渦へと呑み込まれる。断末魔の叫びすら掻き消され、ただ轟音と熱気だけが残った。


 ――数分後。炎が静まり返った場所には、灰すら残っていなかった。


 ※


 戦いを終えた俺たちは、近場のファミレスで落ち合うことになった。本当なら家で腰を据えて話すつもりだったのだが、「勝手に人を連れ込むな」と広に怒鳴られてしまったのだ。

 そんな事情もあり、今は広を含めた面子で向かい合っている。


「それで? どうやってこの世界に来たんだ? それに……俺を連れ戻す、ってのはどういう意味だ?」


 率直な疑問を口にすると、アイラは頬杖をつき、面倒そうに視線を逸らす。


「質問が多いわね。でもいいわ――全部説明する」


 その声色が真剣味を帯びた瞬間、場の空気が張りつめた。


「魔王を倒して城を脱出したとき、既にあなた達の姿は消えていた。アリサ、ジン、ユキヒロ――痕跡すら残ってなかった。でも一つだけあったの。高度な転移魔法を使った痕跡が」


 彼女の言葉に耳を傾けながら、俺は胸の奥がざわつくのを感じていた。

 アイラとセシルスはその痕跡を辿り、研究を重ね、俺たちが別の世界に飛ばされたと結論づけたという。そして――。


「ユキヒロ、私はその転移魔法陣を使ってこの世界に来た。セシルスも後に来る。だから……帰りましょう、私たちの世界に。帰還の陣も既に準備してある」


 アリサとジンの瞳に希望の光が宿る。しかし俺の胸には、重い葛藤がのしかかった。俺は“元々”この世界の人間だ。異世界は、確かに俺が過ごした八年間の場所だが――故郷はここにある。


 そんな俺の迷いを見透かしたように、広が口を開いた。彼女の声は静かで、それでいて震えていた。


「……申し訳ないです。でも、私にはあなた達の言うことが理解できません。でも――仲間を連れ戻したい気持ちは分かります。私だってユキヒロを想ってきたから。……けど、ユキヒロは元々この世界の人。やっと帰ってきてくれたんです。八年間、彼を待ち続けた家族や友達の想いを、どうか無視しないでください。――また異世界に連れて行くなんて、私は許せません」


 声を震わせながらも、広ははっきりとそう言った。微かに光る涙が頬を伝うのが見えて、俺は息を詰める。

 その言葉を黙って聞いたアイラは目を閉じ、腕を組む。そして、アリサが真剣な眼差しで俺を見据えた。


「ユキヒロ、どうしたいの? 私たちはあなたの答えを尊重する」


 ジンも黙ってうなずく。三人の視線を受け、俺は胸の奥に渦巻く想いを必死に整理した。

 八年という時間。異世界で築いた絆、仲間たちとの日々。そして、この世界にいる家族や広……。


 沈黙の果てに、俺は口を開いた。


「……あの世界で過ごした八年は、本当にかけがえのない時間だった。お前らと仲間でよかったって、心から思ってる。帰りたい気持ちも、確かにある。……でも俺は、この世界に残る」


「それはどうして?」


 アイラの問いに、俺は真っ直ぐに答えを返した。


「ここが、俺の故郷だからだ。もしまたゲートが開いて、この世界に魔物や敵が現れたら……戦えるのは俺しかいない。俺には、この世界で守りたいものがある。広に、家族に……俺の大切な人たちを」


「ユキヒロ……」


 広が涙ぐみながら俺を見つめる。俺は少し照れくさく笑って、彼女に応える。


「俺は、この世界で大切な人を守る」


 その言葉に、アイラもアリサもジンも、静かにうなずいた。


 ※


「分かったわ。それじゃあ……アリサ、ジン。あなた達はどうしたい?」


 アイラの視線が二人に向けられる。問いかけは淡々としていたが、その奥には仲間への信頼がにじんでいた。


「私は……帰ることについて、何も異論はないよ。アリサは……どうだろうな」


 ジンが口にした答えは率直だったが、横目でアリサをうかがう仕草に、ほんのわずかな不安が混じっているのを俺は見逃さなかった。


 アリサは一瞬だけ目を伏せ、それからぱっと笑みを作る。けれどその笑顔は、どこか作り物めいて見えた。


「私も帰るよ。……あっちの世界に残してきた人もいるし、きっと待ってる人だっている。だから……うん、帰るよ」


 明るく言い切ったその声とは裏腹に、彼女の表情には陰りが差していた。心の奥にしまいこんだ迷いが、ふとした瞬間ににじみ出る――そんな曇り方だった。


 その答えを聞いたアイラは静かに立ち上がった。椅子の脚が床を擦る乾いた音が、妙に響く。彼女は無言でテーブルに金貨を四枚置き、そのまま背を向けて歩き出そうとする。


「おい」


「どうしたの?」


 思わず声をかける俺に、アイラは振り返りもせず短く答えた。


「ここ……この金、使えない」


 ぽつりと落とした言葉には、自嘲のような響きがあった。

 俺が言葉を探す間もなく、彼女は一度だけ振り返り、真っ直ぐな眼差しで俺を見た。


「ユキヒロ、あとは……頼んだわ」


「はぁ?! ちょっと待――」


 抗議しかけた俺を置き去りにして、アイラはアリサとジンに声をかける。


「さ、行くわよ。今日のうちに私が通ってきた転移魔法陣を閉じるから」


「「……分かった」」


 二人の返事は短く、それでいて覚悟を含んでいた。

 次の瞬間、三人は迷いなく店を出ていく。自動ドアが開閉する軽い音が、妙に遠く感じられた。


 残された俺と広。テーブルの上に取り残された金貨だけが、異世界の匂いを色濃く残していた。


 沈黙を破ったのは広だった。彼女は静かに微笑み、涙の痕を隠すように柔らかく言葉を紡ぐ。


「帰ろう、ユキヒロ」


 その一言に、胸の奥が温かくなる。俺は小さく息を吐き、彼女の顔を見て微笑んだ。


「ああ……そうだな」


 そう答える俺の声は、どこか晴れやかで、決意を帯びていた。

 

 

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