結局増える仲間
ジンとの別れ際、俺はなんとなく振り返った。
「おい、ジン。今夜、野宿とかしてないだろうな?」
「ご冗談を。私は僧侶だぞ? 夜露に濡れたら風邪を引いてしまう」
「……ならいいけどよ。なんか不安なんだよな、お前」
「失敬な!」
苦笑しながら手を振るジンを見送り、俺は帰路についた。
……そしてその夜。
「ただいまー……って、あれ?」
玄関の前に、さっき別れたはずの金髪の僧侶が正座していた。
「……やぁ、ユキヒロ。ちょっとだけ……助けてくれないか?」
「何やってんだお前!?」
「いや、実は……泊まろうと思ったカプセルホテルが、“身分証明書が必要です”って言ってきて……」
「当たり前だろこの世界じゃ! ってか、あの住所の紙は!?」
「吹き飛んだ!」
「何があったんだよ!」
とりあえずジンを部屋に上げると、広がキッチンから顔を出した。
「おかえりー。あら……また増えてない?」
「ごめん広……また仲間が来た」
「……ま、まぁ。イケメンだから許す!」
「基準そこかよ!」
そんなこんなで、俺の部屋は再び、元・異世界メンバーで賑やかになった。
※
次の日の朝。
アリサがエプロン姿でキッチンに立ち、広がソファに座って書類をチェックし、ジンがラグの上で座禅を組んでいるという、なんとも言えない朝が始まった。
「……おいジン。なんで真顔で気を練ってるんだ」
「いや、こうしていると魔力の巡りがよくなって――」
「こっちの世界、魔力の概念ないからな?」
「なんと!? では、この“浄化の息吹”も意味が――」
「それただの深呼吸な」
そして、アリサが配膳を終えると、全員で朝食。
「いただきます」
「感謝の儀式――いただきます」
「普通に食え」
静かで、ちょっと騒がしい、俺たちの現実世界の朝。
……だが、その穏やかさは、長くは続かなかった。
ジンが突然、持っていたスプーンを止めて、窓の外を睨んだ。
「……なあユキヒロ」
「ん?」
「外……おかしくないか?」
「は?」
全員が窓の外を見る。
そこには、歪んだ空気のようなものが、わずかに波打っていた。
それはまるで――ゲートが、再びこの世界に“干渉”しているかのような。
「まさか……」
俺は、スプーンを置き、立ち上がった。
「まだ、終わってなかったか……」
アリサとジンが顔を見合わせる。
「……準備は、できてます」
「ふふ、また“世界の理”に逆らう冒険だな?」
広だけが、呆れたように俺を見て言った。
「……ねぇ。今日こそ、普通の朝ごはんで終わるって言ったよね?」
「すまん、広。俺、もうちょっとだけ――勇者、やってくるわ」
そう言って、俺たちは再び、現実と異世界が交わる“裂け目”へと、歩き出した。
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